連載  /  

Inspiration on Behance | 日本のクリエイター名鑑 Vol.14 グラフィックデザイナー:Yuta Takahashi

BY 公開

世界最大級のオンライン ポートフォリオ サービス、「Behance」。グラフィック、イラスト、3DCGなど、さまざまなジャンルのクリエイターが登録し、自身の作品をプレゼンテーション中。クリエイターもクライアントもワールドワイドなだけに、海外からのオファーがあることも。この連載では、日本で「Behance」を活用しているクリエイターをご紹介していきます!

本日ご紹介するのは、四国・愛媛を拠点に活動されている、グラフィックデザイナーのYuta Takahashiさん(https://www.behance.net/yutatakahashi)。ブランディング、グラフィックデザイン、パッケージデザイン、エディトリアルデザインなど幅広くデザインを手がけ、Behanceで発表した、愛媛県の四国中央市で行われている、上天満太鼓台のお祭りをアートディレクションした「Ceremony of the traditional festival of Japan」が注目を浴びました。

Ceremony of the traditional festival of Japan
Ceremony of the traditional festival of Japan
Ceremony of the traditional festival of Japan

■四国のお祭りをアートディレクション

ー「Ceremony of the traditional festival of Japan」のクライアントである上天満太鼓台からどのようなオファーがあったのでしょうか?
Takahashi:このお祭りのクライアントとは今年で5年目のお付き合いです。最初は名刺などのご依頼から始まり、徐々に担当させて頂くデザインが増えてきました。2016年は約20年に一度という太鼓新調の節目の年で、式典で使用されるアイテムのデザインも含めてご依頼を頂きました。

ー日本のローカルなお祭りがアートディレクションされることで、どのような化学反応がありましたか?

Takahashi:ミクロの視点から言うと、お祭り関係者の「わくわく」が感じ取れるようになったということですね。それは当事者だけのわくわくということではなく、この地域の人たちはお祭り好きな方が多いんですよ。ですから例えば隣町の料理屋に行った時も「あのデザインには驚きました」と店員さんに言ってもらえたり、地域の方の新たな楽しみが増えることは良いことだと思うんです。

マクロな視点で言うと、日本の一地方の伝統行事がデザインの力によって海を越えて多数のメディアに取り上げられたりだとか。海外の出版社からもお祭りデザインについてお問い合わせを頂いています。また大体の予算は毎年一定に決まっているわけで、頭の捻り方やクリエイティヴィティひとつでインパクトを生み出すことができるのがデザインの醍醐味だと思います。

ー完成までに至るプロセスで、印象的なことがありましたらお教えください。

Takahashi:地域のお祭りでは多数のご協賛を頂くのですが、ご協賛のお返しの品も2016年からご提案させて頂くこととなりました。特にこういった伝統行事は慣例で毎年繰り返している事が多いので、それも含めて意識的にデザインに取り組みたいと思いました。

ご協賛のお返し品

例えば、「これをデザインしてください」というご依頼があっても、「それは本当に必要か?」と、一歩下がった所から見つめます。そして何事も自分ごとにして「本当に必要な物、欲しい物は何だろうか?」と。そういった過程から推測した仮説をもとにリサーチすると、「毎年お返しをもらっても使っていない」だとか「そもそもお返しはいらない」など、実際の声が聞こえてきます。

十数年前なら必要だった物も、それが繰り返されると必要のないものになってしまいます。そこで、普段はあまり購入しないけれども毎日使えるようなものがあれば、貰った方は喜んでくれるのではないかと考えました。そして思い付いたのが地元愛媛で生産されていて品質の良さに定評のある今治タオルでした。使いやすさを考慮した真っ白のタオルを用意し、特注で生産した桐箱の斬新なパッケージに入れて特別感を演出しました。

万美さん

さらにこれらのアイテムでは国内外で活躍する書道家、万美さんとコラボレーションも実現しました。実は以前から「コラボしたいね」と話していて、ご依頼しようと思った翌日に愛媛へお仕事で来られるということを知り、急遽アポを取って実現したという次第です。昔から器などは桐箱に入れて保管しますが、その桐箱には「御書付」と言って書家がサインを施すのです。いくら良い器でも、このサインがなければ価値が半減するというもので、それを現代風に解釈してお礼の気持ちを書で表せないかと考えました。人口一万人足らずの町から、見た目だけではない新たな「かっこいい」が発信できれば、と考えています。

ーまちの人の反応は?

Takahashi:最初から斬新なデザインばかり提案していては少し反発を招くかもしれないと思い、伝統文化を維持継承されて来られた方々に敬意を払いつつ信頼関係を築いてきました。そして「信頼関係があるからこそ」提案できるものを毎年提案させて頂き、文脈の高いデザインが受け入れられる土壌を作ってきました。最近では「これがウチのデザインじゃ!」と言って、地元の方々が誇らしげにデザインを語り、愛して下さることがとても有り難いです。

Draft & Draft Service

ーデザイナー/アートディレクターになったきっかけは何でしょうか?
Takahashi:私は小さい頃から物作りが好きで、3、4歳頃には積み木を使ってスペースシャトルやお城、ロボットを作って遊んでいました。それから大人になるにつれて洋服を作って遊んだり、家具を作ったり、料理を作ったり……。とにかく生活の全てが「何かを作る」ということと関連していて、それ以外の人生は考えられませんでした。ですからある時期に「デザイナーになろう」と思った訳ではなく、小さい頃からの生活の延長で自然とデザインに携わっている感覚です。「デザイナーになるために何かを学ぼう」と思ったこともないので、実は独学なんですよ。

ーご自分でも思い入れのあるプロジェクトは?
Takahashi: よく聞かれる質問ですが、毎回起こるクライアントとの化学反応を楽しんでいます(笑)。哲学書の校正をしながら表紙のイメージを膨らませつつ、新規立ち上げの海外メディアのアイデンティティを考えたり……。毎回、その案件の核心に到達できるかどうかを勝負にしていて、そういった意味では全てのプロジェクトに違った側面があるので、それぞれに思い入れがあります。

ーご自分をどのような視点に着目するデザイナーだとお考えでしょうか?
Takahashi:デザインの定義も時代によって変化しています。Appleが初めてiPhoneを発明した時、それまでは個々のデザインの違いによって争っていた携帯電話が一纏まりとなり、それ以前と以後(iPhone以後)に分けて考えられるようになりました。Appleは既存の携帯電話が戦っていた市場から開発を進めたのではなく、それより上の抽象度(フィールド)から新しい携帯電話のあり方について考えたのだと思います。これと同じことはインターネットによって世界が繋がった今、更にこれからはAIの筆頭によってデータ化された情報が加速度的に処理・可視化されてくる未来において、世界中のあらゆる領域で起こってくることだと思います。そういった文脈で考えた時、それ以前と以後に分けられるようなデザインとは何か?といったことを考えたりもします。

現代は物が多すぎるので、デザインのためのデザイン(モノのためのデザイン)ではなく、これからは人の生活に寄り添うようなデザインにどんどんシフトしていくのではないかと考えます。製品の主張をする為のデザインではなく、人々の生活の支えとなるデザインへと方向転換することも一種の「以前、以後」と言えると思うのです。そういったデザインがあることで何らかの気付きを得たり、人々の生活が豊かになるようなデザインを提案していきたいと考えています。

2011年にバーゼルに行った時、何の変哲も無い駅の地下トンネルを歩いていて、ハッとしたことがあったんです。そこは薄暗い地下トンネルで、早く歩き去りたいような場所なのですが、そこに一枚のポスターが飾られていて。ふとそのポスターを見た時、「こんな地下トンネルに飾られているポスターですら綺麗なのか」と。本来であればヨーロッパの美しい街並みに感動すべきなのかもしれませんが、そうではなく、その地下トンネルで見た光景に感動しました。その時の感動は今でも度々思い出します。

ヨーロッパに比べて日本は環境景観についてのリテラシーがまだまだ高いとは言えませんが、その時「こういうデザインをしよう」と思いました。日本もいずれデザインリテラシーが高まるだろうし、街に行き届いたデザインが溢れることで、どれだけ文化が豊かになるだろうと思ったのです。

■Behanceを使う理由

ーBehanceを使い出したきっかけは?
Takahashi: デザイナーはアウトプットを生み出す前に様々なインプットを行っています。そこから独自の解釈をして最終的な成果物にたどり着くのだと思いますが、どんな作品でも良いインプットが無ければ良いアウトプットを生み出すことは出来ません。自分が何かを生み出すことが出来ているのは既に受け取っている訳で、今度はその方たちに何か還元することが出来ないかと考え、自然な流れでBehanceへ行き着きました。そこで世界各地のデザイナーやアーティスト、クライアントの為にインスピレーションのソースになるような発信が出来れば、と思ったのがBehanceを使い始めた切っ掛けです。

FLAT ARKBMX:フラットランド・ワールド・チャンピオンシップ・ファイナル「フラットアーク」の為のVIデザイン


ー普段お使いになるソフト名と、バージョンをお教えください。
Takahashi:ロゴマークやイラストレーション、パッケージデザインなどにはIllustrator CC、デザインした作品を撮影して現像、レタッチ処理やモックアップを制作するにはPhotoshop CC、雑誌や書籍の制作にはInDesign CC、ウェブサイトの制作、編集にはDreamweaver CCと、Adobe製品を活用しないことはまずありませんね。最近はiMacにiPhoneやiPadを接続してリアルタイムで編集が出来る機能、デバイスプレビューを活用しています。これまで制作したデザインを各端末で確認するには手間がかかっていましたが、それがリアルタイムに確認できるようになったので便利ですね。

ーBehanceに登録する際のTipsなどがあれば教えてください。
Takahashi: Tipsかどうか分かりませんが、登録する際はBehanceのサイトをスクロールし過ぎてブラウザが何度も固まるほどプロジェクトを見ました。とにかく大量の情報を詰め込んで、臨界点を突破した時に新たな発想が生まれると思っているので、最初の頃は1日5時間以上Behanceを見る時間に費やしていました。そこで得たヒントをもとに魅せ方を考えて、という感じです。もちろん一人一人理想とする魅せ方が違うと思うので、ブラウザを固めて……とはなりませんが、多くの情報を得ることは理想の魅せ方への近道だと思います。現代で言えば一人ディープラーニングですね。

ーBehanceで良く見ているクリエイターがいたら教えてください。
Takahashi: 多くのプロジェクトを満遍なく見ることを意識しているので、そういった意味で良く見るクリエイターはいませんが、更新の頻度が多いクリエイターはその分目に入る機会も高まりますね。Behanceの性質上、自分がフォローしているクリエイターが「いいね!」した作品が上位に表示されるので、繋がりの中でどんどん作品を発見していく感じでしょうか。

Guell:奈良のロードウェアブランド

ーBehance経由でこんなところと繋がった!なんてことがあったら教えてください。
Takahashi:意外だったのは撮影について多くのご質問を頂くことです。デザインした作品は、その作品の制作と同じくらい手間をかけて撮影を行いますが、「どのように撮影したのか?」等のご質問を頂いたり、そのまま撮影のご依頼を頂くこともあります。
また海外の出版社はBehanceをチェックしているところが多いと感じます。Behance経由で多数の出版社からお問い合わせを頂きますし、クリエイターが直で作品をアップしているので、新鮮な情報が掴みやすいのだと思います。

他にはアメリカの某有名企業からヘッドハンティングのお誘いを受けました。しかし英語が苦手だと返すとバッサリ切られました(笑)実は英語が苦手なんですよ。それでも、Behance経由でご依頼を頂いた海外クライアントと複数のプロジェクトが進行中です。

ほか、Yuta Takahashiさんの作品はBehanceにて。


Yuta Takahashi
日本を拠点に活動するアートディレクター兼デザイナー。ブランディング、グラフィックデザイン、パッケージデザイン、エディトリアルデザイン、ウェブデザイン等の幅広いデザインを行う。主な目標は、持続可能なデザイン、社会的な意識の向上、文化的な成長を目指しています。

http://www.yutatakahashi.jp
https://www.behance.net/yutatakahashi

  TAGS

タグは付けられていません。

  AUTHOR

齋藤 あきこ

宮城県出身。図書館司書を志していたが、“これからはインターネットが来る”と神の啓示を受けて上京。青山ブックセンター六本木店書店員などを経て現在フリーランスのライター/エディター。