「iPad / Photoshop Sketchを使いこなすクリエイター」シシヤマザキさん

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photo: Taio Konishi Photography



Photoshopのプロフェッショナル編集機能をモバイルで実現したアプリ「Photoshop Sketch」をiPad Proで使いこなすアーティスト、シシヤマザキさん。シシヤマザキさんは、水彩画風の手描きロトスコープアニメーション作品を制作していますが、その被写体はなんとシシヤマザキさん本人。今年4月にはChanelのキャンペーン動画 (CHANEL’s GABRIELLE bag animated film with Cara Delevingne)が、さらに先日「新千歳空港国際アニメーション映画祭」のPR動画が公開されたばかりの彼女に、デジタルツールを使った制作について伺いました。


CHANEL’s GABRIELLE bag animated film with Cara Delevingne

新千歳空港国際アニメーション映画祭2017 PR Clip

デジタルツールでアナログの複雑さを再現

―現在作品を作るために使っているツールを聞かせていただけますか?

シシヤマザキ:アニメーションを作る際は、デジタルの作業ではPhotoshopのタイムラインとAfterEffectsがほとんどです。最近ではiPad Proで描いた絵をデスクトップにデータ共有をするようにもなりました。アナログツールではアクリルの絵の具や色鉛筆など。Illustratorはパッケージのグラフィックの仕事での入稿作業の際などに使います。

ー現在使われているデジタルツールとアナログツールの使い分けはありますか?

シシヤマザキ:今年に入ってからデジタルですべてを終わらせることも増えてきました。初期の絵柄はアナログで描いた絵を取り込んでからデジタルで手を加えるスタイルが多かったのですが、最近逆にドローイングをデジタルで描いてからアナログのテクスチャを乗せる手法を試しています。他には、Photoshopでアナログ系のブラシツールを使い分けて、アナログで描いたときに生まれる複雑性をできるだけ再現できるよう工夫しています

ーデジタルツールによってクリエイティビティが広げられた、こんなことが出来るんだという体験はありますか?

シシヤマザキ:思い返してみると、私にとってデジタルツールそのものが小学生の時から本当に幅を広げてくれているなと感じます。小6の頃、ホームページを作り始めた時に世界中の誰にでも自分の絵を見てもらえる可能性があることにすごく感動した記憶があります。描いた絵を投稿しあう「お絵かき掲示板」でいろんな絵師さんと交流できるということにもかなり感動しました

普段は、実写の映像を1秒間12枚ずつJpegに分けてプリントアウトして、上に紙を重ねて絵の具で描いていましたが、最近その作業をiPadで再現できようになったのも驚きです。今後、iPad ProでPhotoshopのタイムラインのツールや、Adobe Photoshop Sketchのにじみとかテクスチャのペンツールが使えたら、今までやっていたアナログのプロセスを全てタブレットに集約して、いつでもどこでも制作ができるようになると思います。

「Face Face by シシヤマザキ」

本人を元にしたロトスコープアニメーション

―物心ついた頃からお絵かき掲示板という世代なのですね。ロトスコープのモデルは全部ご自身の写真ですか?

シシヤマザキ:モデルさんが被写体の場合もありますが、顔を似せるための作業が伴うので、神経を使います。そのまま写真をトレースするだけだと、現実の印象よりも目が小さくなったり身体が太って見えたりするので、デフォルメしないとどんなに綺麗な人でも違って見えてしまうんです。だから、ある程度印象を捉えながら書き換える作業が必要になります。

ーロトスコープアニメーションで表現する作家は多いのですか?

シシヤマザキ:メインの手法として扱っている方は少ないと思います。いちから描いていくアニメーション作画に比べると本当の真のアニメーションではないという議論もあったりで、アニメーションの文脈では特殊なジャンルとして位置付けをされています。そのかわり、目立ちやすいというのもあります。昔からある手法ですが、私は元々ロトスコープという名前も知らないまま始めました。自分にはアニメの作画は大変だろうなと思い、自分が動いた方が早いんじゃないかと思って(笑)。

―では、昔の話になりますが、シシさんがクリエイターになったきっかけはありますか?

シシヤマザキ:クリエイターになったきっかけというよりは、子どもの頃から絵を描いていたので自分にとって創作は自然なことでした。絵を描くことを続けていた高校の頃に、なんとなく行くならこっちかなという動機で芸大のデザイン科を受験しました。入学後はアニメーションの授業を選択して、そこで自分は平面だけでなく動画の感覚がやりやすく表現したいものだと思い始めたのです。やはり動いている絵の方が平面よりもしっくりきました。

ー作品を作る上で影響を受けた人はいますか?

シシヤマザキ:人物ではないのですが、幼い頃に絶大な影響を受けたのはファンタジアとピングーとポストペットですね。美大を志した頃は海外のミュージックビデオをたくさん見ていたのでその影響大きいです。当時のチャート(00年代半ば)はとにかく「インパクト」と「かっこよさ」を前面に押し出しまくった音と映像表現の集合体といった感じで、分かりやすかったですし、自分の元から持っている感覚刺激されました。特に好きな作品があるわけではなく、最初は「Billboard Hot 100 Chart」などをテレビから録画して、その後はYoutubeで観ていました。最近、「1980YEN(イチキュッパ)」という映像やインスタレーションを用いたバンドにMC&ダンサーとして加入したのですが、10年前にハマっていたヒットチャートのキャッチーな表現を生かす時が来たように思います。

Illustratorで制作したバンド「1980YEN(イチキュッパ)」のロゴ

小学生からIllustratorユーザー

ーAdobe製品を初めて使ったエピソードはありますか?

シシヤマザキ:小学校5~6年生の時にIllustratorでイラストを描き始めました。2000年頃に、60年代のポップなイラストがリバイバルしていて。そこでの楕円やとても滑らかな波形などで構成されたイラストはどうしたら作れるんだろうと思い、父に訊ねたらIllustratorを教えてくれて使い始めました。その時はベジェ曲線でパス引いた後に変える方法がわからないまま、女の子などをなんとなく頑張って描いたりして(笑)。Photoshopではマウスでしかドローイングしてなかったのですが、lllustratorではいかにもPCで描いたようなパシッと決まった線が描けるワクワク感が魅力です。

ーそれが原体験なんですね。今までに手がけられた作品で、思い出深いものはありますか?

シシヤマザキ:谷中、根津、千駄木をテーマにして作った「YA-NE-SEN a Go Go」は、アニメーションでお仕事をしていくきっかけとなった作品で、思い入れがあります。2011年頃、動画共有サイトのVimeoを使い始める日本人クリエイターが増えてきていて、これを機に私もやってみようと思い、何もわからないまま勢いで作りました。作業中に見えてくるものと完成して見えてくるものが違いすぎて戸惑いましたが、その反面わからないなりに自分の衝動的な感覚が反映できました。でも、それを後から再現して同じような魅力を作るのは難しいですね。未だに課題ですし、表現においての研究材料になっています。手探り状態で挑んだことで奇跡的に根源的な良さが滲み出た作品だと思います。

YA-NE-SEN a Go Go from ShiShi Yamazaki on Vimeo.

ー作品を完成させるために気を使う部分はありますか?

シシヤマザキ:例えるなら、鑑賞者が容器の蓋を開けたらひとつの秩序のある現象が起きていたという状態になるように心がけてます。鑑賞者が何かひとつの現象を発見したような気になるように、限られた要素が勝手にうごめいている状態を作ることで作品がはじめて生きてくると思っているので、そういった仕組みを作ることを意識してますね。

ー仕事をする上で最も注力していることや、ご自身のテーマはありますか?

シシヤマザキ:仕事からはなかなか伝わらないのですが自分自身をモチーフにして作っているのもあって、テーマとしては「存在とは何か」ということをずっと考えていますね。「自分の体の中に絶対に常に自分がいる」という事実が、幼い頃からずっと自分の中で面白いことであり続けています。何かに集中していると自分がそこにいる感覚を当たり前に忘れられると思うんですがそれって意識はどこにでも飛んでいけるということでもあるので、「そこ」に「いる」っていうのは本当に曖昧な事実で、同時にものすごい事だなと思います。既に曖昧であるそういう「存在」の形を、自身をモチーフにしていろんな形に捻じ曲げたりできることは、非常に面白いです。そうやって最も新しい存在の形を生み出せていけたら嬉しいです。

ーお仕事が増えていると思いますが、今後の手がけたい仕事や目標などを聞かせていただけたら。

シシヤマザキ:ロトスコープの手法と関連性が高いモーションキャプチャに興味があります。それと先日、ヘッドマウントディスプレイをつけて3DCGの空間にドローイングをするソフトウェアを触って感動して、描きながらボロボロ泣いてました(笑)。出来上がった作品も面白いんですが、ドローイングしている瞬間の時間軸と感覚すごく価値があって、どうしたら作品として活かせるのかなと考えてしまいました。

ー今後、実現したい働き方、もしくは抱いてる野望はありますか?

シシヤマザキ:いつでもどこでもデジタルツールで制作できるようになりたいです。もうなりかけてますが。iPadでPhotoshopのデスクトップ版が使えて、Adobe Photoshop Sketchのアナログ風のブラシツールが一緒になれば、絵の具がなくてもいろんな風合いでアニメーションが作れますし、iPadで動画を撮影して、トレスしていけばよいので。1台でなんでもできたら最高ですね

ー場所を選ばずに描きたい欲求があるのですか?

シシヤマザキ:そうですね。人が周りにいた方が集中できる場合もありますが、例えばiPad1台で、遠方の海外でしか撮れない動画を撮影してその場でロトスコープで描いてしまうことができたら、最初に抱いた動きの衝動を維持したまま、絵に転換する作業ができるので、より新鮮な感覚を再現できると思います。iPadを防水ケースに入れて、水中撮影した動きをすぐにロトスコープしたりとか、とっても楽しそう。

Illustrator Drawで描いたデータをデスクトップで開いて編集

ークリエイターにはこれからどういったマインドや技術が必要になると思いますか?

シシヤマザキ:最近思うのが、これから文化は全部混ざり合っていくと思うんですよね。日本っぽいスタイルのものってとっくに海外の人の方がかっこよくアップデートしているし、逆も然りですよね。自分たちのルーツや文化が自分たちだけのものではなくなってきていて。そういうことが世界でどのくらい進んでいて、どういうものが生まれているのか把握しながらも、自分にしかない自分の潜在的な感覚を、周りを気にせずに個人個人が突き詰めて行くしかないかなと。結局それが面白いことに一番早く繋がりそうな気がします。

ー確かにインターネットでなんでも参照できる状況になりましたが、自分は1人しかいないわけですよね。

シシヤマザキ:情報過多なので惑わされることが多いのですが、それより、自分の感覚的に何がしっくりくるかや、その感覚を迷わず活かせるような道筋がたくさんあればいいなと思っています。

ーでは、最後にヤマザキさんの座右の銘を教えていただけますか?

シシヤマザキ:空海のことばで、「膚寸南北(ふそんなんはい)に心無(しんな)けれども風(ふう)に遭(あ)うときは、則(すなわ)ち飛ぶ。

訳「心のありのままであれば、 風にのって、どこまでも飛んでいく」 

シシヤマザキ ShiShi Yamazaki
http://shishiyamazaki.com/

水彩画風の手描きロトスコープアニメーションを独自の表現方法として確立。Chanel、PRADAや資生堂などのブランドのプロモーションイメージの制作を担当し、世界的に活躍している。オリジナルアニメーション「YA‐NE‐SEN a Go Go」(2011)、「やますき、やまざき」(2013) は国内外問わず数多くのフェスティバルで上映され、反響を呼ぶ。ライフワークとして一日一個の顔「MASK」を毎日作り作り続けるプロジェクトも行う。

  AUTHOR

高岡 謙太郎

オンラインや雑誌で音楽,カルチャー関連の記事を執筆。共著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』など。