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#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.5 グラフィックデザイナー 下浜臨太郎さん

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photo: Taio Konishi Photography

いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30 (イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「#Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

第5回にご登場いただくのは、グラフィックデザイナーの下浜臨太郎(しもはまりんたろう)さん。町の看板の文字を収集しデジタルフォント化する「のらもじ発見プロジェクト」や、「おいしい牛乳」のロゴタイプを50音に拡張した積み木「ロゴタイプの拡張」など、独創的なアイデアの作品を数多く手がける作家です。 下浜さんとIllustratorの関係とは?

デザイナーとIllustratorの相性がいい理由

Photoshop Sketchでの制作画面

ーークリエイターになったきっかけを教えてください。

Shimohama:小学生の頃、家に手塚治虫や藤子不二雄の漫画が大量にあって。読んでるうちに「マンガが描きたい!」と思って、自分でマンガ雑誌を作っていたんです。友達に「雑誌作るからマンガを描いてよ!」って無理やり頼んだりして…笑。今にして思うと、マンガを描くことよりも雑誌を編集することが楽しかったのかなと…。そういった原体験から美大に進学し、電通にアートディレクターとして入社し、ポスター、新聞広告、パッケージ、ウェブサイトなどあらゆるメディアの作業を経験して、今は美術大学の講師とフリーランスのグラフィックデザイナーをしています。

ーー普段の制作環境は?

Shimohama:ツールとしてはIllustrator、Photoshop、Premiereなどを、ラップトップのパソコンで動かして作業しています。ペンタブはあまり使わず、iPadで「MetaMoji」などのアプリでスケッチやカンプ制作を行うことが多いですね。Illustratorでは主にレイアウトやロゴ制作などをしています。

Illustratorでのロゴ制作

ーー初めて使ったIllustratorのバージョンは?

Shimohama:9ですかね。大学2年の頃で、課題でカレンダーを作りました。Illustratorの良さはやっぱりベクターデータということですよね。線が滑らかに書ける。Photoshopのピクセルよりも、Illustratorのベクターが好きなんです。

 

ーーそれはどうして?

Shimohama:もともとグラフィックデザイナーというのは、“まっすぐな線を引ける”という職能がある人がやる職業でしたよね。それが画家と違う所だと思うんです。極端に言うと、画家は自分の手で描いた痕跡を残すことが重要です。まるでコンピューターのようにまっすぐな線でも、わざわざ絵の具でキャンバスに描くということで作品を作ったりする。ジャスパー・ジョーンズ(※アメリカの現代美術家)がアメリカ国旗をそのままキャンバスに描いたときも、国旗をキャンバスに描くという行為が重要だったわけで、それはPhotoshop的な考えだと思うんです。でも、グラフィックデザイナーにとっては、どれだけまっすぐな線が引けているか、ということの方が重要だから、その考えは非常にIllustrator的だなと思うんです。

 

味わいある看板をフォントとして残す「のらもじ発見プロジェクト」

「のらもじ発見プロジェクト」 味わいのあるフォントで書かれた町の看板を「のらもじ」として鑑賞し、形状を分析してコンピュータで使用可能なフォントを制作。フォントはウェブ上で配布され、ユーザーはダウンロードのうえ「のらもじ」を使うことでその魅力を知ることができる。

ーーそれではまず、「のらもじ発見プロジェクト」について教えてください。プロジェクトを始めたきっかけは?

Shimohama:「のらもじ発見プロジェクト」は僕と若岡伸也(グラフィックデザイナー)、西村斉輝(デザイナー)の3人でやっているプロジェクトです。以前から若岡くんが味のある看板を撮影して紹介するブログを一人で運営していたんですよね。それを僕が見てプロジェクトにしようとふたりを誘い、3人で企画化しました。僕と若岡くんは看板の選定と書体化する際の監修、西村くんがウェブサイトのプログラムを担当しています。

「のらもじ発見プロジェクト」に登場した「つるや」の店主さんと
「つるや」の店内にはのらもじフォントが
「のらもじ」に登場する店主さんとは良い関係が続いている

ーー町にある看板からフォントを作るのは大変ではないですか?

Shimohama:フォント化する過程では、監修している若岡くんほか、たくさんのみなさんに協力していただいています。「のらもじ」は“ツッコミどころ”がある、ある種ゆるいデザインがほとんどなので、元の字体の特徴をどれだけ拾えるかということが重要です。フォント化する過程で洗練させすぎても違うし、下手すぎても違う。微妙なところで納めるという特殊な工程のデザイン作業になるので、気を使います。

「のらもじ」に登場する「いがらし」店主さんと

ーーウェブサイト上での表示など、デザイン的にどういう所に気をつかいましたか?

Shimohama:ウェブサイトでタイピングできる看板を制作する際には、元の看板のテクスチャーを拾って貼り付けていくのですが、ただ文字に貼り付けると、のっぺりして立体感が出ない。そこでテクスチャーのデータを複数用意してランダムで適応して、文字のデータと合わせる、というやり方を西村くんが考え、実装しました。デジタルでアナログなものを表現するときには、ランダムさはすごく重要だと思います。

まちで見つけた「のらもじ」をAdobe Capture CCでキャプチャしてみる下浜さん。「ベクターデータでキャプチャしたのは初めてなんですが、すごいですね…!」

Twitterで大反響を呼んだ「ロゴタイプの拡張」

21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン)で開催された企画展「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」で展示を行った作品「ロゴタイプの拡張」。「明治おいしい牛乳」(株式会社 明治)のロゴタイプを展開した積み木を制作した。鑑賞者が自由に組み合わせることができる。

ーーまた、「牛乳の積み木」こと「ロゴタイプの拡張」はTwitterなどで大反響の作品になりましたが、どのようなきっかけで制作することになったんですか?

Shimohama:「のらもじ」を知っていた展覧会企画制作協力の岡崎智弘さんからお声がけいただきました。最初は「のらもじ」のウェブサイトのように、自由に文字を入力してプロジェクションする作品はどうですか?と提案していただいたんですが、せっかくお客さんが現場に来てくれるのだから、現場でこそ体験できる作品にしようと思って。“現場でどれくらい楽しいことがあるか”が、展覧会において最も重要だと思っています。それでこちらから、岡崎さんに”積み木はどうか?”と提案しました。メールを頂いてから、数時間後にラフを描いて、返信したんですね。

「ロゴタイプの拡張」ラフスケッチ

ーーラフの時点でもう完璧にイメージが出来ていますね!ここからどうやって作っていったんですか?

Shimohama:そもそも立体作品をちゃんとつくったことがなかったので、すぐに動き始めました。まずは、東急ハンズに走り木材を自分で削って仕様を決め、それから木材を切り出してくれる材木屋さんを探しました。結果的には、ネットで検索して見つけた九州の積み木オーダーメイドを請け負っている材木屋さんにお願いしました。同時に、積み木の外側の牛乳パック部分は信頼おける印刷会社さんに、リアリティを追求するため牛乳パックそっくりの紙と加工をしてもらいました。牛乳パックの角の折れ方など再現するために紙を加工する金型まで制作したんですね。書体に関しては、佐藤卓デザイン事務所のみなさんにご協力頂きました。

“Design Anatomy: A method for seeing the world through familiar objects”, 21_21 DESIGN SIGHT, 2016-2017

新しい働き方を模索している

INDUSTRIAL JP」町工場から採取した音の数々を再編集し楽曲化するプロジェクト

ーー最近働き方を変えられましたが、その理由は?

Shimohama:現在は石川県に拠点があって、東京と頻繁に行き来する生活です。大学の講師と個人の制作者という二足のわらじは、まだ始めたばかりですが、新しい働き方を模索していきたいです。「のらもじ発見プロジェクト」も「ロゴタイプの拡張」も、電通の仕事とは別に、個人でやっていたプロジェクトでした。電通の上司のみなさんはすごく寛大に「個人のプロジェクトもどんどんやりなさい」と言ってくれていたんですが、もっとこういったプロジェクトに時間を割いてみたいと思い、働き方を変えてみることにしました。すぐにお金になる活動でなくても、「聞いたことのない作り方だな」という作り方をしていきたいと思っています。

ーー今回の作品「Illustratorと私」はどのように作られましたか?

「シャッター商店街」とよく言 われますが 「 つるや 」 はまだまだ頑張っている老舗商店。今回はあえてシャッターをおろしてもらい、つるやを含めいろいろな「のらもじ」を iPad Pro で Adobe Photoshop Sketch を使用し、手描きでグラフィティーのように構成してみました。その店の屋号の書体で、その店のシャッターにグラフィティーが描かれていたら、なかなかおもしろいんじゃないか、と考え制作しました。

ーー最後に、座右の銘を教えてください。

Shimohama:なるようになれ

下浜臨太郎(しもはま・りんたろう)

http://rin-shimohama.tumblr.com/

https://www.behance.net/rinshimoha937e

1983年東京生まれ。金沢美術工芸大学卒。グラフィックデザイナー。
ポスター、新聞広告、パッケージ、ウェブサイト、
スマートフォンアプリ、展示空間など幅広くデザインに携わる。レコードレーベル「INDUSTRIAL JP」の企画、運営、地方芸術祭や21_21 DESIGN SHIGHTでの展覧会への出品など、独自のプロジェクトを積極的に行っている。

本企画「Illustrator 30_30」では、イラストレーター愛あふれる30代までのクリエイターの情報を募集しています。自薦/他薦/ジャンルは問いません。Illustrator CCを使って、さまざまなクリエイティブ活動をされている方はぜひ @creativecloudjp に【お名前、作品、Illustrator歴、ポートフォリオのURLなど】をご連絡ください!

  AUTHOR

齋藤 あきこ

宮城県出身。図書館司書を志していたが、“これからはインターネットが来る”と神の啓示を受けて上京。青山ブックセンター六本木店書店員などを経て現在フリーランスのライター/エディター。