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#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.7 グラフィックデザイナー 有馬トモユキさん

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photo: Taio Konishi Photography

いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30 (イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「#Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

第7回にご登場いただくのは、グラフィックデザイナーの有馬トモユキさん。有馬さんとIllustratorの関係とは?


有馬さん「Appleが好きです…」 

 グラフィックデザインは居場所


Adobe Capture CCで巨匠が作ったロゴをキャプチャして研究

ーー有馬さんは中学校の頃からデザインを始めた早熟な子どもだったそうですが、そのきっかけは?

Arima:僕はそもそも、秋葉原に行ってパーツを買ってラジオを作るのが好きな、電気街で「1メガオームの抵抗器ください」って言ってるような小学生だったんです。いまもはんだごてでヤケドをした跡が残ってますけど。デジタルデザインに触れたのは、その流れでコンピュータを好きになって、中学校一年生の時にお年玉でMacのPowerBook1400を買ったのが最初でした。それでMac自体を好きになって、まずは音楽を作り始めました。

ーーデザインではなく音だったんですね。

Arima:ちょうど90年代終わり頃で、インターネット上でMIDIやBMS、MODといったコミュニティを見つけて、デスクトップミュージックを作り始めました。13、4歳の頃ですね。でも音楽の世界だと、自分よりもすごい音を作る人がどんどん出て来て、自分の居場所はここじゃないなと思ったんです。仲間にはもう、音楽を作るやつも、絵を描くやつもいたので、ちょうど空席だった「デザイン担当」を選んだんですよ。それで最初に作ったのが、自分のホームページでした。

ーーすべて独学ですよね。

Arima:そうですね。ネット系雑誌 Yahoo! Internet Guide の「無料でできるインターネットのホームページ」という特集を本屋さんで買って、メモ帳アプリでガリガリhtmlを書いて自分のホームページを作ったんです。「中二病がインターネットを手に入れるとこうなる」という見本のようなホームページでしたよ。当時、アドビは憧れていたけど、Photoshopは中学生には高すぎて手が届かなくて。2000年ごろ、渋谷にあった「Tゾーン」で「Macromedia Flash 4 アカデミックパック」を買って、Flashをはじめたのが最初のアドビ体験です。たった12,800円で作れるなんて!って感激したのを覚えています。Flashはデザインも動きも作れる魔法のようなツールで、自分の作品をネット上にアップするうちに、高校の頃からお仕事をいただくようになりました。

ーーそんな頃からお仕事をされているんですね。IllustratorやPhotoshopを本格的に使い始めたのはいつから?
Arima:高2ぐらいだと思います。「ザ・スーツカンパニー」のWebコンテンツでいろいろな作家がFlashコンテンツを発表するという企画があって。出演したギャラで遂にPhotoshopを買って、雲模様フィルターからグレインでノイズをかけて移動のぼかしを使っては「やべー!」って叫んでました。Illustratorは8.0から使っています。Flashでパスの操作に慣れていたのですぐに打ち解けられて、こいつとは仲良くやっていけそうだ(笑)みたいな感じがありました。

ーー今使っているツールは?

Arima:
AdobeではIllustrator、Photoshop、InDesign、XD、AnimateAfter Effectsの順番に使用頻度が多いです。

デザインをさらに機能させられる領域


『Re:CREATORS(レクリエイターズ)』 ©︎ 2017 広江礼威/小学館・アニプレックス

ーーグラフィックデザイナーになってからは日本デザインセンターに在籍し、クライアントワークを手がけるほかにも『アルドノア・ゼロ』や『Re:CREATORS(レクリエイターズ)』など、アニメのアートディレクションに携わっていますが、アニメのデザインを始めたのはどんな理由からですか?

Arima:
僕は「デザインをさらに機能させられる領域」にデザインを浸透させたいという思いがあって、アニメのアートディレクションを行っているのはその一環です。アニメのデザインというのは、作品に出てくるもの、すべてのアイテムを作らなければならないんです。アニメに登場するTwitterに似たアプリのUIや、漫画雑誌のQ&Aコーナー、架空の企業や団体のロゴまで、画面に2秒しか出てこないようなものを全部デザインしなければならない。架空の世界のプロトコル(ルール)を全部設定して、絵まで作る作業です。





『Re:CREATORS(レクリエイターズ)』 作品中に登場する雑誌の広告なども全て有馬さんがデザインしている  ©︎ 2017 広江礼威/小学館・アニプレックス

ーーそれはものすごく複雑な制作フローになりそうですね。

Arima:
映像に登場するモチーフだけでも膨大なんですが、その他にもポスターや商業施設に掲示する巨大バナーまで、すべてを僕らがデザインするとなるとさらに…。また制作に関わる人も、デジタルツールが普及していない部分も含めて膨大になるのが特徴です。『Re:CREATORS(レクリエイターズ)』ではslackで制作管理を試していて、「グラフィックステートメント」を設定してタイポグラフィのルールなども決めたものをDropbox上でチームが共有して制作するフローにしてからやりとりがすごく迅速になりました。


『Re:CREATORS(レクリエイターズ)』  ©︎ 2017 広江礼威/小学館・アニプレックス

ーーIllustratorはどんなところで使われていますか?
Arima:例えばポスターを制作するときに、アニメ制作会社から受け取ったPSDファイルのイラストを素材としてレイアウトするのに使っています。テスト的に文字を配置しつつ、グラフィックのコンセプトとして六角形のタイリングを背景に載せる、というような、複雑な要素のデザインもCC2015でGPUが実装されてからストレス無く出来るようになったので、ありがたいと思います。アニメのようにたくさんの人が関わる作品では、誰でも使えるツールであることが重要なので、その点でもすごく重宝しています。



『アルドノア・ゼロ』ロゴデザイン (C)Olympus Knights / Aniplex•Project AZi

ーーモバイルでの制作もされていますか?
Arima:一番使うのはAdobe Comp CCです。シンプルな機能で、A4のカンプをそのまま描くことができるのがいい。Adobe Illustrator Drawも試してみたら面白かったです。不思議な使い心地ですよね。ペンタブでマウスと同じような使い方をすることはありましたが、ペンでそのまま描画してベクターとして扱えるという考えかたに驚きました。印刷物にも使えるし、定規の機能も面白い。いまフォントをデザインしているのですが、フォントのデザインにはすごく重宝しそうです。


iPad Proでの作業

ーーこれからのクリエイターに必要なことは何だと思いますか?

Arima:いまの時代って、あまりにもいろいろな事ができてしまうので、「何者にもなれないリスク」がすごく高いと思うんです。何でもできるけど、何の専門家にもなれないというか。だから好きなことを突き詰めるのがいいと思うんですよね。具体的に言うと、僕はアニメが好きで、デザインがもっと機能すれば素敵だなと思っていた。でも、予算や時間、仕組みの制約が厳しいところに、現代的なしくみを用いることで、今どうにか道が見えてきました。それはただ自分が「変えたい」と思ったエゴから始めたことですが、エゴがなければ情熱も生まれないので。目の前にたくさんの情報があると、判断することのコストは増大していきますが、そういうときに明瞭な判断をするために、素直さや、ちょっとしたエゴを大事にした方がいいと思っています。

有馬トモユキ

デザイナー。1985年長崎県生まれ。複数社を経て日本デザインセンターに参加。音楽レーベル「GEOGRAPHIC」クリエイティブディレクター、タイポグラフィ教育機関「朗文堂新宿私塾」講師。コンピューティングとタイポグラフィを軸として、グラフィック、Web、UI等複数の領域におけるデザインとコンサルティングに従事している。主な仕事に「ハヤカワSFシリーズ Jコレクション」装丁デザイン、TVアニメ「アルドノア・ゼロ」「ブブキ・ブランキ」「Re:CREATORS」アートワーク、NHKスペシャル「神の領域を走る」アートディレクション、さくらインターネット株式会社VI計画などがある。

http://www.tatsdesign.com/

本企画「Illustrator 30_30」では、イラストレーター愛あふれる30代までのクリエイターの情報を募集しています。自薦/他薦/ジャンルは問いません。Illustrator CCを使って、さまざまなクリエイティブ活動をされている方はぜひ @creativecloudjp に【お名前、作品、Illustrator歴、ポートフォリオのURLなど】をご連絡ください!

 

  AUTHOR

齋藤 あきこ

宮城県出身。図書館司書を志していたが、“これからはインターネットが来る”と神の啓示を受けて上京。青山ブックセンター六本木店書店員などを経て現在フリーランスのライター/エディター。