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#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.13 グラフィックデザイナー岡本健さん

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photo: Taio Konishi Photography

Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第13回にご登場いただくのは、グラフィックデザイナーの岡本健さん。多くの企業ロゴや書籍の装丁のほか、21_21の展示「単位展」への出展や三越百貨店の包装紙「華ひらく」のリデザイン、また多摩美術大学統合デザイン学科でも教鞭をとるなど、さまざまな仕事を手がけられています。岡本さんとIllustratorの関係とは?

多摩美術大学統合デザイン学科での授業

ーー授業では1年間かけて生徒たちのIllustrator技を鍛えていくんですね。※岡本健さんの授業レポート記事はこちら

Okamoto:「エディトリアル演習」という名目で、様々な環境下での文字情報の整理整頓術を教えています。書体は一種類しか使ってはいけない、などの縛りを設けて、架空の展示チラシの裏面や、パッケージの成分表示面などをレイアウトしていきます。レイアウトを進める上で必須となるショートカットなど、Illustratorを使うための基礎的なことも教えていますが、これは武道の「心・技・体」でいう技の部分です。その先の体としての「目利き」や、制作に取り組む心構えは、普段の仕事などの雑談を交えながら伝えています。(※後日授業のレポートを公開予定)

ーー普段使っているツールは?

Okamoto:メインはIllustrator CCとPhotoshop CCです。InDesignは自分ではあまり触らないですね。最近は「パワーポイントやワードで綺麗なフォーマットを作って欲しい」という仕事の依頼もあって、そういうこともやっています。

ーー最初に使ったAdobe製品を覚えていますか?

Okamoto:Illustratorが8.0、Photoshopが6.0だったと思います。プロダクトデザイナーだった父が美大進学に反対していたので、大学は心理学に進んだんですが、一人暮らしを始めるときに父が譲ってくれた初代iMacにIllustratorとPhotoshopが入ってて。形を作れるのが面白くて、四六時中触ってました。ずっと家でゲームをやっているような、おもちゃで遊んでいるような感覚でした。

考える時間が大事

清刷書体集

ーー普段はアナログとデジタルの使い分けをどうされていますか?

Okamoto:アナログでいうと、文字を扱うことが多いので「モンセン(モンセン・スタンダード欧文書体清刷集)」などを使うことがあります。アナログで書かれていたものなので、微妙に滲んでいたり、わずかに歪んでいたりと、フォントの形に揺らぎがあって綺麗なんです。パソコン上だとすぐに書体を選んで変えることができますが、モンセンを眺めながら「この書体はたぶん合わないな」とか、「これは意外とはまりそうだな」とか、作りたいものをイメージして想像する時間が、僕にとってはすごく大事です。

ーー岡本さんはロゴタイプなどをはじめ、様々なタイプフェイスを作るそうですね。デザインにおける文字の重要さは、岡本さんのなかでかなり大きなものなんでしょうか。

Okamoto:自分は、絵が作れるタイプのデザイナーではないと思っていて。ビジュアルを作るというよりは、情報をいかに整理するか、どうやって情報を面白く見せるか、ということが職能だと思っているので、結果的に文字を扱う機会が多くなります。時には文字遊びのような方向に向かっていて、単位展の展示(『ことばのおもみ』)に繋がったりもしています。


単位展 『ことばのおもみ』「 ゛(濁点) 」を1.00 gと仮定して、それぞれの面積比から平仮名の重さを計測し、平仮名を組み合わせた言葉の重さを可視化した作品

ーーたった1文字にも、すさまじい時間をかけていますよね。

Okamoto:試行錯誤の繰り返しです。ベジェ曲線のアンカーポイントの位置や方向線の伸ばし方など、ちょっとしたことで見え方が変わってしまう。そこをきれいに作れるかどうかが、デザイナーの職人芸だと思うので。といっても、ディティールを詰めることに執着しているわけではないんです。自分が作ったものが何十年も残って欲しいと考えたら、グラフィックもプロダクトも建築も考え方は一緒で、しっかりと耐久性があるものを作らなければならない。また、きれいな文字ということは当然として、プロジェクトに対して最適な機能や役割が持たせられるといいなと思っています。

カメラレンズのための書体

『タムロン』新しいプロダクトデザインに合わせ、印字書体やプロダクトロゴを制作した

ーーこちらはタムロンのカメラ交換レンズのデザインを担当されたとのことですが、どのようにプロジェクトを進められたのでしょうか。

Okamoto:Takramが全体のディレクションとプロダクトデザインを担当し、僕は製品に印字する書体制作とレイアウトを担当しました。レンズの上に印字するための書体とはどうあるべきかを考えた結果、一本のパスだけの書体を制作しました。製品印字では、文字をシルクスクリーンで印刷します。印字する情報によってフォントサイズも変えなければならないのですが、パス1本で書体を作ると、レイアウトした後にIllustrator上で書体の線の太さを一括で変更できるんです。文字の大きさが違っても、書体のウェイトをプロダクト上で全部統一することができるので、視覚的にも見やすく、量産時のクオリティも保たれる。また、パス1本なのでイタリックやコンデンスなども簡単に作成できます。Illustratorならではの書体設計かなと思います。プロダクト自体の開発と同時進行でスタートさせてもらったので、ディスカッションも含めてすごくやりやすかったですね。

『タムロン』のためのロゴタイプ

いま求められるデザインのリファイン


三越のオリジナル包装紙「華ひらく」のデジタルデータ化を手掛けた

ーーまた、既存のデザインのリファインのプロジェクトも多くなっているとか。

Okamoto:三越の「華ひらく」のリファイン・プロジェクトを行いました。もともとは、1950年に画家の猪熊弦一郎さんが絵柄を描き、当時社内の宣伝部にいたやなせたかしさんが図案化したもの。おそらくどこかのタイミングで版下データがデジタル化されていたんですが、きれいなデジタルデータとは言い難いものだった。そこでもともとの図案に忠実なデジタルデータを再制作するために”リファイン”を行いました。華ひらくの原画や、1950年当時の包装紙などをスキャンして、猪熊さんとやなせさんが作ったデザインの再現を試みました。

「華ひらく」デザインデータ

ーーパスの数がものすごいことになっていますね。こうしたリファインはいま需要があるんでしょうか。

Okamoto:おそらく今も昔も一定の需要があったとは思いますが、印刷技術の向上やパソコンのスペック向上を含めて、今だから作れるものがあると思います。デジタルデータで、日本画の修復作業をやっているような感じですね。東京大学の生産技術研究所のロゴマークのプロジェクトでも同じようにリファインを行っています。

東京大学 生産技術研究所ロゴ

ーーこちらも有名なロゴタイプなので、デジタルのリファインには苦労がありそうです。

Okamoto:この場合は最初のオリエンテーションの段階で「形は大きくは変えず、リファインして整えて欲しい」という依頼でした。そこでリサーチをした結果、最古のものと思われるものが見つかったのですが、やっぱりそれが一番綺麗で機能的だったんですね。そこでこのアナログのデザインをいかにデジタル化するかが課題でした。

ーー具体的にどのような作業を行ったんですか?

Okamoto:まず、イチョウの葉っぱを円弧状にしてガイドを作りました。ロゴの中の文字や周りにある書体も全て作り直しています。また難しかったのが文字の角度で、既存のフォントであればすぐに打てるのですが、オリジナルの書体なので角度の計算図から作っています。適当に目で引いてもできないものなので、デジタルならではです。

ーーお話を聞いているとすごくリサーチをされていますね。

Okamoto:制作する前にリサーチをすることはすごく大事です。「華ひらく」では猪熊さんが生まれた香川を何回も訪ね、猪熊弦一郎美術館で「このピンク色はどう決まったんですか」など、当時の話を聞きました。そうやって様々な方と一緒に、リサーチを重ねながら作っていきます。

ーーリサーチを前提とした制作物は他にありますか?

Okamoto:例えばこれは、三越伊勢丹全店で使う掛け紙のリニューアル・プロジェクトです。掛け紙として、歴史を踏まえた最も正しい形の掛け紙を作ろうということで、室町時代から続く「小笠原流礼法」の小笠原敬承斎さんに監修いただき、のし紙の機能、水引の正しい形などをグラフィックに落とし込みました。例えばこの”熨斗”は、アワビを畳の上でのしたものを表しているんです。だから畳の目がないと正しくない。

のし紙のデータ

ーーそこまで厳密とは…

Okamoto:熨斗紙も、折形として折る角度が厳密に決まっているので、実際に作ってもらったものをスキャンしてパス化しています。水引のカーブの角度や先端の形状まで全て監修して頂いて。でも、複数本ある水引のラインを等幅でデジタルデータとして作ってしまうと抑揚がなくなってつまらない。そこで一旦綺麗に作った後、手作業で1本1本微妙に歪ませています。なるべく自然に結んだ見え方を作るように。これは本当にIllustratorを駆使しました(笑)。掛け紙は包むものによって大きさも様々で、水引の結び方も真結びや双輪結び(もろわなむすび)があり、仏事では関東と関西で色使いも違えば、表書きとして書く文字も様々。それらを全て展開する必要があったので、入稿したaiデータは百種類以上あったと思います。

手描きとデジタルの中間にあるIllustrator Draw

ーー今回の作品はどのように作られましたか?

Okamoto:集合写真は、授業を履修している生徒との集合写真の上に、授業の課題である「チラシの裏面」「パッケージの成分表示」「電話の子機」などを敷き詰めてみました。

ーーポートレートはかなりファニーな雰囲気になっていますね。
Adobe Illustratorにデフォルトで入っている「シンボルライブラリ」を使ってみました。不思議なモチーフが満載で、昔からずっと気になっていたんですが、使う機会がなくて..。まさに今回のタイミングがこのシンボルライブラリを使える絶好の機会では!と思い、Illustratorの30周年にあわせて、シンボルライブラリの「お祝い」を使って制作しました。次回はぜひ「寿司」や「マッドサイエンス」などにトライしてみたいです。

多摩美術大学の生徒さんがIllustrator Drawで描いた岡本さん

ーーIllustrator Drawを使ってみていかがでしたか?

Okamoto:一番面白いと思ったのは、Illustrator Drawが手描きとデジタルの中間にあることです。自分の手で描きつつも、ある程度アプリが解釈してくれて、カーブを柔らかくしてくれるのが面白いですね。デジタルとアナログの中間を触っているような気がします。自分の手で描いたら絶対に描けない線です。また、モバイルからデスクトップへのデータ移行の速さに驚きました。

ーー最後に座右の銘を教えてください。

Okamoto:「続けることを続けること」。あるミュージシャンの言葉なんですが、すごく難しいことなんです。

ーー続けるための努力をするということですか?

Okamoto:デザインの領域がどんどん広がっているからこそ、唯一無二の技術を持っておくことも重要だと思います。思考や視野の部分でデザインの領域を広げるとともに、技術としてIllustratorを極めるとか、ひとつの技能を磨き続けることで備わる職能もあるかと。そういう技能を磨いた人が集まれば領域は自ずと広がるので「餅は餅屋」で良いのではと思っています。自分の気分的には、ずっと日本刀を一本持って心技体を磨き続けて仕事をしていたいみたいなテンションなんです。

ーーありがとうございました。

岡本健
http://okamotoken.jp/

1983年、群馬県生まれ。千葉大学文学部行動科学科にて心理学を専攻、研究の一環で調べたグラフィックデザインに興味を持ち、方向転換。卒業後、数社のデザイン事務所にて実務経験を積み、株式会社ヴォル、株式会社佐藤卓デザイン事務所を経て2013年に独立。2015年より株式会社岡本健デザイン事務所を設立。多摩美術大学統合デザイン科非常勤講師。


◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

  AUTHOR

齋藤 あきこ

宮城県出身。図書館司書を志していたが、“これからはインターネットが来る”と神の啓示を受けて上京。青山ブックセンター六本木店書店員などを経て現在フリーランスのライター/エディター。