連載  /  

#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.18 イラストレーター 瓜生太郎さん

BY 公開

photo: Taio Konishi Photography

Illustratorと私」

Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第18回にご登場いただくのは、ファッションと女性をテーマにスタイリッシュな女性像を描くイラストレーター、瓜生太郎(うりゅう・たろう)さん。資生堂『花椿』のイラストやジェーン・スー著『今夜もカネで解決だ』カバーイラスト、銀座三越のウインドウディスプレイなどを手がけ、幅広く活躍されています。瓜生さんとIllustratorの関係とは?

ZINE『くつ』

デザインが好き、と気づいて

——クリエイターになったきっかけは?

もともと絵を描くことが好きで、故郷の福岡のそばにある大学の美術課程に入ったんですけれど、伝統を重んじる風潮が何か違うなあと思ってすぐにやめてしまったんですよ。それから東京に出てきて、ずっと絵から離れていたんですが、やっぱりアートには惹かれるものがあって「黄金町バザール」というアートフェスティバルでアルバイトを始めたんです。

それは「アートによるまちづくり」を目的とするアートフェスで、アーティストたちが横浜の初黄・日の出地区の空き家を利用して滞在制作と展示を行っていました。そのアートフェスに公式マップがあったんですけれど、会期中に展示が入れ替わっていくためにあまり機能しておらず、僕は勝手に「うりちゃんマップ」というガイドを作っちゃったんですよ。杉浦茂さんという漫画家に影響を受けた「うりちゃん」というキャラが会場を案内するマップで、1週間に1度ぐらいのペースで更新していました。

そういうことを続けていると周りから「次は出ないの?」とか「うちの子が集めているんですよ」とか反響が返ってくるじゃないですか。それを聞いて嬉しくなってしまって「イラストレータになれる」と勘違いをしてしまったんですね。それでお金を貯めてパソコンとIllustratorとPhotoshopを買い、コンペを探しては応募するという生活を始めたんです。

銀座三越のウインドウディスプレイ(2016年)

——それからすぐにイラストレーターとして活動を?

いや、最初は全然でした。パソコンを買ってすぐに「イラストレーターならIllustratorだろう」と思ってIllustrator CS5で描こうとしたんですけれど、使い方がまったくわからなくて挫折し、2年目ぐらいまではPhotoshopとペンタブレットを使って手描きタッチのイラストを描いていました。

そのうちに自分が好きなのは“デザイン”なんだ、それがIllustratorでできているんだってことに気づいて、今度は教本を見ながらIllustratorとマウスで描き始めたんです。当時は基本的なことがわかっていなかったので、印刷所の人に「CMYKってなんですか?」とか聞いたりしていました(笑)。その頃に描いたイラストが「イラストレーション」(玄光社)という雑誌のコンペに入賞し、それがきっかけで「HAIR MODE」という美容師さん向けの雑誌から初仕事を頂いたんです。それからしばらくはコンペに入賞しては仕事を得るということを繰り返していました。

「HAIR MODE」(女性モード社)に1年半に渡り掲載された、連載コラムのイラスト。反響が良く、連載が半年間延長された。

ジャズの即興演奏のように、生き生きと

——普段使っているツールを教えてください。

デジタルはほぼIllustratorのみですね。手で描くのも好きで、電車の中で人物のクロッキーをしたりも。ラフは太めの鉛筆を使って描いています。

資生堂『花椿』音楽家・菊地成孔さんによるコラム「どうしたいか解らない病の処方箋」のためのイメージイラスト。『花椿』(Web)に連載中

——どんな風にイラストを制作されていますか?

まず鉛筆でアイデアスケッチを描いて、構図が決まったらいきなりマウスで描き始めます。スケッチをパソコンに取り込む時もありますが、あえてスキャンしないことの方が多いですね。手描きの感覚が残っているうちに、一気に描きます。僕はジャズが好きなんですが、ジャズの即興演奏のようにかっこいいことをやりたいなと思って。デジタルでも、どこかに手の跡や心を残したいんです。

——マウスで描くのはなぜですか?

ベジェ曲線は、やっぱりマウスかなぁ。アンカーポイントを打ってハンドルを伸ばす時、気持ち的には手で伸ばしているんですよ。マウスが手と化して彫刻を作っているような感じです。

自分のイメージが100%出せる、Illustrator

——デジタルツールによってクリエイティビティが広がったと実感したことは?

2年前に表参道ヒルズで初個展をした時に、等身大パネルを作っている会社に頼んで女の子のパネルを12体作ってもらいました。そういうことができるのはデジタルの良さですよね。自分のイメージが100%そこに出せるというか。サイズを選ばず、いろんなフォーマットに出せるというのもIllustratorの良さだと思います。

個展「QUIET CARNIVAL」(2015年、表参道ヒルズ)

——これまで手がけられたなかでもっとも思い出深かったお仕事は?

表参道ヒルズの個展はやっぱり思い出深いですね。その個展がきっかけで表参道にあるギャラリー・ルモンドに声をかけて頂き「CAT POWER 2016」という展覧会に参加したり、表参道ヒルズのウィンドウディスプレイを手がけたりしました。

『CAT BROOCH』チャリティ展「CAT POWER 2016」出展作品。猫犬の殺処分を無くしたいという考えに賛同するイラストレーターたちによる展覧会(2016年、ギャラリー・ルモンド)
ウィンドウディスプレイ(2015年、表参道ヒルズ)

揺るぎないテーマ、ファッションと女性

——絵を描くときにテーマにされていることは?

「ファッションと女性」というテーマは描き始めた当初から変わっていないです。取っかかりは、好きなものを描くしかないから。昔からレディースファッションが好きで『装苑』や『花椿』を集めていました。

——瓜生さんのアイデアスケッチはまるでファッションのラフ画のようです。ファッションのインスピレーションはどんなところから得られていますか?

最新のファッション誌やファッションショーの映像はよく見ていますが、最近は家具や工事現場の骨組みのような、機能美を感じられる物の形をモチーフにしています。自分の絵を本物のファッションデザインに使って頂けたらうれしいですね。

——作品を完成させる時に意識されていることは?

自分の絵がジャズやファッションや映画がもたらす感動に負けていないか、その高みに達しているかということはいつも気にしています。その作品を作った人が僕の絵を見て「まだ甘いんじゃない?」って言わないかな、とか。画面上でファッションショーの映像と見比べて、見劣りしないか確認したりしています。

——これから手がけたいお仕事は?

20mぐらいの大仏のような、大きいものを作ってみたいですね。大仏は昔から好きで、僕が描く女性のモチーフでもあるんです。ビルの壁面を覆う広告幕なんかも憧れますね。

——今回制作いただいた「Illustratorと私」にも、巨大な女性が描かれていますね。

僕が常に抱いている「自分の作品を大きく使われたい」という願望を一足先に叶えました。4mぐらいでしょうか。もっと大きく、10〜20m級で使われるのが夢です。

——どのように制作されましたか?

普段通りできるだけ複雑なことはせず、マウスを使って正円・直線・滑らかな曲線をシンプルに構成して描いています。線を描くというより、点と点(アンカーポイント)をつないでいって”面”を描いているようなイメージでしょうか。また、ビルのガラスに映っている車を表現するために、普段はほとんど使わない「透明効果」を、使ってみました。Illustratorとしては極めて初歩的な機能だとは思いますが、僕にとっては数少ないハイテク表現の一つといえます。

——これからのクリエイターに必要なことはどんなことだと思われますか?

自分自身にも言い聞かせているのは、勘違いし続けること。今はインターネットが浸透しているから、みんな自分より凄い人がいるということにすぐ気づいてしまい、昔のように「俺天才!」とか思えなくなってきたんじゃないでしょうか。「井の中の蛙」ゆえの狂った価値観みたいなものを持ち辛いんじゃないかな、と。僕も周りの目が気になってしまう方なんですけれど、できるだけ狂えるような「井の中の蛙力」を保っていたいと思います。

——最後に、座右の銘を教えてください。

「正直」。普段から自分に対して正直になる癖をつけておくと、自分が描いている絵がいいものか悪いものか判断できると思うんです。そういう癖をつけておかないと、自己満足に陥っちゃう。例えば好きな音楽と自分の絵を見比べて「この音楽に負けているよ」とか、そういうことを毎日自分に言い続けていかないと。そうやって自分が120%、200%の力でやっていると、クライアントにも満足してもらえるんじゃないかなと思います。

瓜生太郎(うりゅうたろう)
http://tarouryu.com/TAROURYU/
https://www.instagram.com/tarouryu/

イラストレーター。福岡県出身、東京都在住。ファッションと女性をテーマに、幅広い分野のイラストで活躍。資生堂『花椿』イラスト、銀座三越のウインドウディスプレイ、ジェーン・スー著『今夜もカネで解決だ』( 朝日新聞出版 ) カバーイラストなどを手がける。主な個展に「QUIET CARNIVAL」(2015年、表参道ヒルズ)

◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

  AUTHOR

宮越 裕生

神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへてライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。