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#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.20 映像作家 藤井亮さん

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photo: Taio Konishi Photography

Illustratorと私」制作作品

第20回にご登場いただくのは、映像作家の藤井亮(ふじい・りょう)さん。先日公開されて話題になった、実在する37社のCM入りMV『4文字メロディー』や戦国武将をプロモーションする『石田三成CM』、恋愛が及ぼす悪影響を説明するNHK『ストップ恋愛』、絶対にロゴにならなさそうな言葉を集めた『サウンドロゴしりとり』などなど、いつも予想の斜め上を行く映像で見るものを驚かせてくれるクリエイターです。藤井さんとIllustratorの関係とは?

勝ち目があることをやる


ーー現在藤井さんは関西電通のクリエイティブ部に所属して様々なCMやMVなどの映像を作られていますが、そもそもクリエイターになったきっかけを教えてください。


Fujii:出身は愛知県の半田市です。中学までは割と勉強している普通の子だったんです。高校受験のときに無駄に頑張っちゃって、それなりの進学校に受かってしまったんですね。そうしたら、それまで上から10番目だった成績が、下から10番目になっちゃったんですよ。もう勉強する気がなくなっちゃって。そこで、その時に得意だった絵ならまだ勝ち目があるんじゃないか、と思って、武蔵野美術大学に進学したんです。

ーー美大では視覚デザイン科を専攻されているので、デザインを学ばれていたんですね。

Fujii:グラフィックデザインです。ムサビだし、周囲はみんなシュッとしたオシャレなデザインを作っていたような気がします。同級生には長嶋りかこ(デザイナー)なんかがいるんですが、学科全体がオシャレで知的なものを作る風潮で、そこでも勝ち目がなかった。というか勝負する気がなくなっちゃって、それでこっちなら、ということで、小学生の悪ふざけのような作品を作り出したんです。

ーーその逆張り精神は、現在にも通じますね。デジタルのツールを使い始めたのもその頃からですか?

Fujii:大学に「デジタルルーム」と呼ばれる部屋があって、そこで初めてMacに触りました。そこではIllustratorとかPhotoshopのツールバーとかを改造して遊んでいましたね。メニューが全部カーソルキーになるとか、プルダウンメニューのメニュー名が今週のヒットソングベスト10になってるとか。

ーーそれはかなり面白いですが普通に困りそうですね。大学時代に作品を自主制作されていたんでしょうか?

Fujii:アート作品を作ったことはないんです。丁度iMacが出た頃だったので自分で買って、コマ撮りをしてみたり、「After EffectsでCGみたいなの出せるらしい」と聞いては自分たちでドッヂボールをやっている映像にドラゴンボールみたいな光る玉を合成する、なんてやってました。当時はYouTubeがなかったので発表する機会がなかったんですけど。

藤井さんのご自宅の作業場。まるで要塞のよう

ーーご自分の名前で発表するようになったのは広告代理店に入られてからですか?

Fujii:今やっていることが作品なのかというとだいぶ怪しいんですが…。代理店に入ったのは、「映像で食っていくんだったらCMを作ればいいかな」と就職活動のときに思いついたという理由で、採用されたのはアートディレクター職でした。そこでもまた、みんながシュッとしたものを作ってるわけです。自分も一応頑張ってアートディレクターをやっていたんですが、あんまり得意じゃなかった。

ーー映像ディレクターとしてご自分の名前で活動されるようになったのはここ数年くらいですもんね。

Fujii:入社して十年以上はちゃんとした広告のアートディレクターとして仕事をして…。そのフラストレーションで、現在のように自分で企画して、ディレクションだけでなく絵も作って、というスタイルになっています。

現実として降臨させるツールがIllustrator


石田三成CM

ーー普段使っているツールを教えてください。

Fujii:一番使用頻度が高いのはPhotoshopとIllustratorです。PremiereとAfter Effectsもよく使います。

ーーIllustratorを使うのはどういったシチュエーションですか?

Fujii:まず、CM制作の流れというのは、クライアントからオリエンを受けて、これを売りたいとか、こういうことが困ってるというお話を聞くんですね。そこからプレゼンの資料を作り、コンテを描く。作ることが決まったら制作会社と一緒に撮影して編集して納品となります。この中で、プレゼンの資料は全部Illustratorで作っていますし、映像の中に出てくる素材もIllustratorとPhotoshopで描いています。

ーー昭和風のCMで話題になった「石田三成」はどのような制作過程だったのでしょうか?

Fujii:石田三成をプロモーションしたいというご依頼でした。その時に「歴史ファンをターゲットにしても広がりがないので、知らない層を狙いましょう」と提案しました。地方のPR動画というのは、今はたくさんありますから。そこでアピールするのに手っ取り早いのはCMだ、そういえば武将のCMは見たことがないからインパクトがあって話題になるのでは、ということであの企画になったんです。固くて悪いイメージのある石田三成なので、逆に親しみやすいローカルCM風にしましょう、という。もっとひどい案もあったんですよ。


石田三成CM 第二弾

ーーどんなひどい案だったのか気になります…

Fujii:ボツになってよかったです。Illustratorを多用しているものというと、「サウンドロゴしりとり」でしょうか。これは一番バカバカしいしりとりというか、絶対ロゴ化されないであろう言葉を探して、それを繋いでしりとりにしていきました。僕はチープなものを作りがちなので、Illustratorで作るとリアリティのあるチープなものができるんです。地方のスーパーっぽい架空のデザインなんかも、Illustratorだとホントにありそうな感じがでる。

『サウンドロゴしりとり』で制作された架空のロゴ

ーーこの世に存在しないものを、あたかも存在するかのように降臨させるためにはIllustratorというツールが良いと。

Fujii:ものに説得力が出るんですよね。鉛筆で描くとただの嘘だけど、他愛もない嘘に説得力を出すために、Illustratorってすごく便利なもの。最初にIllustratorできっちり組んだものを作って、それを壊すというか、クオリティを落としていくといい。ローカルCM風の映像を作る時などは、そこからわざと荒らすために、VHSにダビングしてボロボロにしたり、紙にプリントしたものをもう一回スキャンしています。石田三成のCMでもそうですが、初めから下手に作ると、わざとらしくて見てられないものになるんです。

『サウンドロゴしりとり』より

ーー壊すためにキレイなものを作らなければならないというのは逆説的で面白いですね。

Fujii:レトロ感のあるものは、当時の人たちがちゃんと作ってたんだな、というようなものでないとリアリティがないんです。作り手側が「ギャグですよ」とふざけているものって、ノレないんです。それよりも、作ってる側が本気なのかちょっとわからないくらいの方が面白い。まあ僕が使っているIllustratorの機能は、ツールバーで言うと回転ツールより上だけで、シェイプツールとか遠近ツールはまだ使いこなせていません…。

面白い、面白くないの判断

ーー藤井さんは、「面白い、面白くない」の判断はどうやってされているんですか?

Fujii:たった一行の言葉や、ペラ一の資料でもわかるような企画がやっぱり面白くなると思います。…ってよく言われてますが、実際自分で映像を作っている時は、ラフの段階で一回繋いで絶望するんですよ。「全然面白くない!」って。そこからせめてディテールを詰めようと思って、作り込んでいくという。宇治市のプロモーションでは、架空のゲームを作りました。キャラクターを設定してデザインして、ドット絵を全部描いて…普通はディレクションだけするものだと思うんですが、僕は自分で描かないとなにかと不安で。


【宇治市PR動画】【ゲーム実況動画編】観光アクションゲーム「宇治市〜宇治茶と源氏物語のまち〜」

ーーニーズがないところにものすごい手間をかけるという。

Fujii:テレビゲーム風の広告はよくありますよね。そうじゃなくて、馬鹿馬鹿しい無駄な手間をかけると、無駄なカロリーをかけたぶんだけ変なオーラが出るというか、よくわからないパワーが出るかなと思って。全部ドットで起こしたイラストをプログラマーに頼んで動くようにしてもらっていました。制作には何ヶ月もかかってしまった。それでもやっぱり、自分で作りたいんです。

ーー自分はディレクションだけ、というのはやりたくない?

Fujii:もの作りの一番美味しいところは、自分で手を動かして作るところ。そこを他人に渡して、「自分がつくりました」って言うことにずっと違和感があって。広告の仕事、特に代理店のクリエイティブディレクターになると、企画はプランナー、演出は外部のディレクターに頼むことが多いんです。企業としては効率的な仕事の仕方なのだと思うのですが、それは僕のやりたいことじゃなくて、どうしても自分で作りたかった。

ーーなるほど。そこを経て現在の仕事のスタイルがあるんですね。

Fujii:そこで、依頼に対して、自分が手を動かせるような企画を提案していくようになりました。自分がやりたい方向に、企画を持っていくという(笑)。普通はプランナーは企画を考えるだけですが、僕の強みはPhotoshopやIllustratorが使えるから、映像編集の現場でさらに素材を作って足すことができること。編集担当に「ちょっと待って!」と言いながら、その場で絵を作って、そこに当ててもらう声を録ったり…。いつもギリギリなんです。

iPadでスケッチ

ーー現場で思いつくことと、実現のスピードによって、どんどん完成度を高めていくことができるんでしょうね。仕事や作品を完成させる時に最も気をつけるポイントはなんですか?

Fujii:自分が面白いと思えること。でも毎回うまくいかない。大体「もうお終いだ…」となって納品する…「これはいいのができたぞ!」と自信満々で納品できたことはまだありません。自信がないから最後まで詰める事ができるんだろうと思います。根がネガティブなんです。ポジティブな人って、打ち合わせの段階で「これ最高やん!」ってテンションが上がるじゃないですか。僕はスーパーネガティブなので、最後まで「もうお終いだ…」とテンション低く作っているんです。

ーー作品のテンションは高いですが、ご自身はそうなんですね。

Fujii:過剰な心配性なんです。駅のホームに立ってるときも、「いま背中を押されたらこう避ける」とか、車を運転してても「隣の車のカップルが喧嘩しているかもしれない、助手席から突然女の子が飛び出して来たらどうしよう」とか考えてしまうんです。「こうだったらどうしよう」ということを常にシミュレーションしています。

ーーこれからのクリエイターに必要なことはなんだと思いますか?

Fujii:正直ぼくもわかんないです。でも、自分のことで言うと、若いうちに不得意なジャンルを仕事で色々苦労してでもやらなきゃいけなかったのが、よかったなと思っています。もし大学を卒業してすぐの時に「君面白いね〜!!何でも好きなもの作っていいよ」と言われたら、多分何も作れなかった。自分の思うようにならない時が長かったことで、いろいろ揉まれる経験ができた。「得意な部分だけやった方がいい」と言われますが、自分の得意分野とちょっと違うところが伸びると、自分がやれることの面積が広くなります。

ーーそれが広告だったのでしょうか?

Fujii:僕は美大を出て、関西電通でプランナーとして働きだして何年かしてから、伝統的な関西の面白CMを制作しているグループに運良く入れたんです。そこで言葉で勝負する人たちと仕事が出来たのは、すごく勉強になりました。打ち合わせのたびに何十個も企画を出さなくてはいけない。それで一個も通らない。

ーーそれは鍛えられましたね。

Fujii:美大生だと絵で面白くする”絵ボケ”で終わりがちですが、そこに言葉とか音とかリズムとかが入ってくると、また違う方向の面白さが出て来たりするんです。そういうことは、大阪に来て学んだものです。

ーー今回、「Illustratorと私」ではIllustrator Drawで制作して頂きましたが、いかがでしたか?

Fujii:基本の作業はフィニッシュまで全てIllustratorで行いました。アイデアラフの段階では、Illustrator Drawを使用してイラストスケッチなどを描きました。

ーー最後に座右の銘を教えてください。

Fujii:座右の銘……無いんですよ。なにか一個あれば良いと思うのですが、変に人と違うものとか、面白いのとか言おうとするとひどい火傷しそうで。無難なもの言っても、「コイツ置きにいったな」と思われそうで。もしいつか次回、こんな機会があればそれまでに考えておきます。

ーーありがとうございました。

藤井亮(ふじい りょう)
https://twitter.com/ryofujii2000

株式会社電通関西支社 映像ディレクター・アートディレクター。1979年愛知県生まれ。武蔵野美術大学卒。中学生が思いつくようなくだらないアイデアを大人が本気で作ったようなものを多数制作。(近作) 滋賀県『石田三成CM』NHK『ストップ恋愛』『プロファイリング昔話』『サウンドロゴしりとり』宇治市『ゲームCM』PiTaPa『記憶イラストリレー』三戸なつめ『前髪切りすぎたMV~落書き篇~』 赤城乳業『BLACK』、大阪府『警察官募集ポスター』、金鳥『サンポール』、サノヤス造船『造船番長』など。 (受賞) 第49回佐治敬三賞、ACC CM Festival 金賞・審査員特別賞、ギャラクシー賞優秀賞 カンヌライオンズ・銀賞・ヤングクリエイティブ日本代表など国内外の受賞そこそこ。


いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30 (イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

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齋藤 あきこ

宮城県出身。図書館司書を志していたが、“これからはインターネットが来る”と神の啓示を受けて上京。青山ブックセンター六本木店書店員などを経て現在フリーランスのライター/エディター。