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#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.25 デザイナー 木村浩康さん

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photo: Taio Konishi Photography

Illustratorと私」制作作品

Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第25回にご登場いただくのはライゾマティクスにてアートディレクター/インターフェイス・デザイナーを担う木村浩康さん。『Perfume GLOBAL SITE PROJECT』やgggでの展覧会『グラフィックデザインの死角展』、経済産業省『FIND 47』など、プログラムとグラフィックが融合するオンスクリーン表現で幅広く活動中。木村さんとIllustratorの関係とは?

ペンツールを極めよ

——クリエイターになったきっかけは?

Kimura:祖父が陶芸家で、子どものころ遊びに行くとお弟子さんたちはみんな美大卒だから、上手な絵を描いて遊んでくれるんです。それが楽しくって、自分も絵を描いて生きていきたいと思いました。それで東京造形大学に入学したんですが、一番倍率が低いという不純な動機でプロダクトデザイン科に進み、在学中はあまりデザインをした覚えはないですね…。でもセガのビデオゲームが好きだった影響でインターネット・カルチャーにすごく惹かれて、Illustrator、Photoshop、flashを使ってWebのデザインをやり初めて。大学院を中退してWebプロダクションに入社し、在職中にライゾマティクスのプロデューサーと出会ったのがきっかけで、2010年にデザイナーとしてライゾマに入社しました。当時は僕以外全員プログラマだったので、プログラムとデザインについてはかなり実践で叩き込まれたという感じです。

——最初に使ったIllustratorは?

Kimura:8でした。大学(東京造形大学)を出てデザイン会社に就職した時に、当時は既に10が出ていたと思うんですが、8が一番覚えやすいからこれから使ってと言われたんです。やっぱりIllustratorで一番特徴的なのはベクター操作なので、8は純粋に機能が集約されている感じがしたからやりやすかったです。パスの操作に慣れるためにいろんなものをトレースして、カーブをキレイに引けるようになるという修行をしていました。Illustratorでは何を書くにもベクターの操作に尽きるので。やっぱりペンツールの習得は必須だと思います。

——ペンツールを使えるようになると、どのような良いことがあるのでしょうか?

Kimura:ベクターのゴミを取ったり、補正したり。オートトレースしてもゴミが付くので、処理する時には必須です。ロゴを作る時にも、細かなディテールの調整はペンツールだし、何をするにもペンツールが必要ですから。

——木村さんが考えるIllustratorのメリットは?

Kimura:僕がIllustratorを使う理由のメインは、プログラマーとデザイナーが作業するときの翻訳機に近いというか、結局データが集約しやすいのがIllustratorなんです。ベクターの絵というのは結局文字列、プログラムによって出来ているから、プログラムを変換しやすい。

——データビジュアライゼーションなどを行う上で、それはメリットになりそうですね。

Kimura:データからグラフィックを作る時には、プログラマーに「こういうデータがあるから、こういう絵としてアウトプットしてください」と依頼します。OpenFrameworksなどのツールでジェネレイトされたイメージをPDFやSVGに変換してもらって、デザイナーがビジュアルの一部として表現に落とすんです。プログラミングベースでグラフィックを作ろうとしたら、その素材を作ることができるのはプログラマーしかいない。そこにデザイナーの意思や、直感的な操作でアレンジを加えるということを実現してくれるのがIllustratorだと思います。Illustratorのaiのファイルもコードから出来ているんですよね。だからこそ、その法則性さえわかればプログラマーと共同してIllustratorで絵を作ることができるんです。

スキャンデータがグラフィックになる

「ライゾマティクス inspired by Perfume」展 撮影:木奥恵三 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
(2013)

——データから作ったグラフィックといえば『Perfume GLOBAL SITE PROJECT』や2013年にICCで行った展覧会『ライゾマティクス inspired by Perfume』などがありますね。

Kimura:はい。『ライゾマティクス inspired by Perfume』はライゾマティクスがPerfumeと共に作り上げてきた衣装やインスタレーションを展示したものです。Webで展開した『Perfume GLOBAL SITE PROJECT』と同じく、メンバーの肖像はなくても、存在の気配を感じるビジュアルを作りたかった。そこでスキャンデータを使ってグラフィックを作りました。その頃丁度Photoshopが3Dデータのobjを読み込めるようになったので、一旦Photoshopでデータを読み込んで、4値化したものを平面的にします。Photoshopの4値化だけだとグラフィックとしてはまだ成立しないので、Illustrator上で細かく手作業で補正していきました。


『オテロ』3Dスキャンデータをベクターに転用したグラフィック

——オペラ『オテロ』の宣伝美術は、実際に公演が行われる会場を3Dスキャンしたデータを使ったグラフィックということですが、どのように制作されたのでしょうか?

Kimura:劇場を3DスキャンしたデータをMayaでベクター化して、Illustratorで変換して素材にしています。これはすごくデータが重くて開くのだけで一苦労なんですよ。発想のきっかけは、最初はワイヤーフレームの線だけで作ろうと思っていたところを、偶然塗りと線を反転させてしまったことでした。スキャンデータ自体もまだ編集されていないタイミングだったので、偶然穴が空いていたというのも良く転がったと思います。


『Phosphere』宣伝美術(2017)

——こちらもライゾマティクスリサーチの公演『Phosphere』の宣伝美術ですが

Kimura:宣伝美術だと、まだ公演の内容が決まらない段階からグラフィックを作ることがあります。この場合はアーティスト名を素材にすることにしました。ビジュアルのイメージとしては、とにかく密度が欲しかった。そこでプログラマに、Mayaで立体的にしたロゴを、さらにランダムで高さを押し上げた素材を作ってもらいました。そこから側面を剥ぎ取って表面だけにしたものをベクターデータに変換し、グラフィックにしていったんです。背景はデータですが、背面のデータに対して文字の抜け方や陰影の関係を反転させるというのはデザイナが決めることなので。そこはIllustratorを使っています。


『Phosphere』宣伝美術(2017)

——そうやって、プログラマと協業してチームで行うからこそ出来るグラフィックですね。

Kimura:データとデザインのバランスは一番気を使うところです。データそのものだと伝わらないから、デザイナーが読みやすいように調整するわけですが、やりすぎるとデータが嘘になってしまう。インフォグラフィックスを作るときにも重要なところですね。データに対してどれだけデザインが介入するか、どこを折衷案にしようかというバランスをいつも探っています。

データとビジュアルの落としどころ

——インフォグラフィックスでは、データサイエンティストと組んでビッグデータをグラフィックにするプロジェクトを行われていますね。

Kimura:ディープラーニングのプロジェクトだと、ビジュアルを作るプログラマのほかに、データサイエンティストとも協業が必要です。これは日本のグラフィックデザイナーの組織「JAGDA」の会員に対して行ったレポートの結果にもとづいて作ったインフォグラフィックスで、アンケート結果の数量は600くらいでしょうか。全国のグラフィックデザイナーに”悩んでいること”と”喜びをもたらすこと”を聞いて、そのアンケート結果を徳井直生さん(Qosmo)が解析(形態素解析)して、ディープラーニングで二次元空間にマッピングしてもらったものを元にしたグラフィックです。


公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(2017年)『JAGDA REPORT191号 デザインのあれこれ 100 keywords of design』より


Kimura:ディープラーニングによってマッピングした座標をJSON(テキストベースのデータフォーマット)でもらって、それをベクターデータに変換します。そこからIllustratorでレイアウトしていくんです。マッピングした状態だと情報が全く読みとれないので、座標から出来るだけ離れないように、でもビジュアルとして成立するようにレイアウトします。

——デザイナーにとって胸が痛くなるワードが散見されますね…

Kimura:こうやって見ると面白いですよね。ネガティブなワードには改善、修正、納期、公開、赤字なんて言葉が並んで。大きく分けるとデザイナーは仕事と家庭に喜びを持ってるっていうのがわかったり。

——データからグラフィックに飛躍させる構想はどうやって考えているんですか?

Kimura:ラフを描くということもあまりなくて、いきなりパソコンに向かって、Illustrator上で試行錯誤するうちに思いつくことが多いです。そうやって思いついたイメージをプログラマに伝えて、開発が完了するまでにグラフィックのアイデアも積み上げておく。そうやってWebサイトを作るのも、Illustratorを触るのも、自分にとっては仕事だからやることというよりも、楽しいからやっている、娯楽に近いものなんです。ゲームをやっているような感覚というか。

——だからこそ続けられるんでしょうね。この先の野望はありますか?

Kimura:僕は昔からビデオゲームにすごく影響されてきた人間なので、いつかは『ファミ通』で点数を付ける人になるのが夢なんです(※『ファミ通クロスレビュー』のこと)。あのイラストで二頭身になりたい(笑)。キャリアを経た人って文化人みたいになっていくじゃないですか。そういう枠が本当にあるのだとしたら、僕はファミ通のクロスレビューに呼ばれるような人になりたいんですよね。

——なれるといいですね。木村さんはいつもデスクトップで作業をされているとのことですが、今回Illustrator drawを使ってみていかがでしたか?

Kimura:今まであまりモバイル環境で制作をしたことがなくて、というのもその理由はモニタのサイズが小さいことが大きかったんですよね。でもiPad proはPCと遜色ないサイズになったので、ストレスなく作業をすることが出来ました。僕みたいに、手描きのラフを取り込むことすら面倒なタイプであっても、これなら出来そうです。可能性を感じました。

最後に座右の銘を教えてください。

Kimura:帰る勇気とまた来る元気。友人が通っていた長崎のゲーセンに貼ってあったという標語です。良い言葉だなと思って、作業が深夜に及ぶ時は良く思い出しています。

ありがとうございました。

木村 浩康(アートディレクター/インターフェイス・デザイナー)
Rhizomatiks Design

株式会社ライゾマティクス/Rhizomatiks Design所属。アートディレクター/インターフェイス・デザイナー。東京造形大学卒業後、Webプロダクションを経てライゾマティクスに入社。最近の主な仕事にggg『グラフィックデザインの死角展』、ヴェルディ:オペラ『オテロ』宣伝美術、経済産業省『FIND 47』など。文化庁メディア芸術祭最優秀賞など多数受賞。

◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

  AUTHOR

齋藤 あきこ

宮城県出身。図書館司書を志していたが、“これからはインターネットが来る”と神の啓示を受けて上京。青山ブックセンター六本木店書店員などを経て現在フリーランスのライター/エディター。