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#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.28 アートディレクター 佐藤央一さん

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photo: Taio Konishi Photography

Illustratorと私」制作作品

Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第28回にご登場いただくのは、アートディレクターの佐藤央一さん。2010年、突如音楽シーンに現れた4人組バンド「SEKAI NO OWARI」のCDジャケットやステージのアートワークを担うほか、フリーランスのアートディレクターとして、さまざまな企業のロゴなどを手がけられています。そんな佐藤さんとIllustratorの関係とは?

人間が作る一番大きなものって?

「Twilight City at NISSAN STADIUM」(2015)

——佐藤さんがクリエイターになろうと思ったきっかけは?

佐藤:漠然と何か大きいものを作りたくて、人間が作る一番大きいものは何だろうと考えて、大学の建築学科へ進んだんです。その後、もっと大きいのは都市だということに気づいて、大学院で都市計画を勉強するんですけれど。ものを作ることは昔から好きで、中学の時に友達の部屋をプロデュースしたり、高校でバンドのフライヤーを作ったりしていました。

——中学生で友達の部屋をプロデュースですか?佐藤さんはSEKAI NO OWARIのホームといわれているライブハウス「clubEARTH」も手がけられていましたね。

佐藤:昔からそういうことをしていたので、いつから仕事になったのかよくわからない感じです(笑)。中学の時に手がけた部屋では、自分たちで家具を作ったり、部屋の中に砂利を敷いたりしていました。結局、その友達のお父さんが大工さんだったので後から色々直してくれたみたいです。

——SEKAI NO OWARIとのつながりは、ライブハウス「clubEARTH」を手がけた頃から始まっています。どんなきっかけで関わられたのですか?

佐藤:ヴォーカルのFukase君とは予備校で知り合ったんですけれど、大学に入って半年後ぐらいに電話がかかってきて、いきなり「ラップしない?」と言われたんですよ。それからFukase君がバンドを始めて、彼らの活動に参加しているうちにフライヤーのデザインを頼まれたり、「ライブハウスを作りたい」という相談を受けたりするようになって。だから最初は、Fukase君が夢を実現したくて集めた仲間のなかの一人、という感じだったんです。初めて話を聞いた時から何かわくわくして面白そうだな、と思いましたね。

自分たちでライブハウスを作る

佐藤:当時はとにかく予算がなかったから、安く借りられる所を探して、羽田空港の近くにある元印刷工場を見つけてDIYで改装して、防音設備とかも全部自分たちでやりました。大学1年の時に作り始めて、ちゃんとお客さんを入れられるようになったのは2、3年経ってからだったかな。

——clubEARTH」があったから今のSEKAI NO OWARIがあるという感じでしょうか?

佐藤:音楽を作るにはお金がかかるから、そこでいくらでも練習と制作ができたというのは大きかったですね。セカオワの活動には「自分たちでやる」という意識が強くあって、それには当時、自分たちの力でライブハウスを作ったということがかなり影響していると思います。

ライブは空想都市

「Twilight City at NISSAN STADIUM」(2015)

——現在はトータルアートディレクターという立場でSEKAI NO OWARIの仕事を手がけられています。当初から今に至るまで、どんな形で関われてきたのでしょうか?

佐藤:最初の頃はどんな服を着るかとか、DJ LOVEのピエロのマスクのデザインとか、CDジャケットのアートワークとか、何から何まで一緒にやっていたんですけれど、2011年にメジャーデビューしてからは、グラフィックデザインをメインに担当するようになりました。ただ、その頃の彼らは、メジャーデビューしたことによっていろんな制約に縛られ、自分たちのやりたいことができなくなるというジレンマを抱え始めていたんです。それで彼らもすごく葛藤があって、デビューして2年後ぐらいに、自分たちでライブを作っていきたいから佐藤君も関わってくれないか、と相談を受けたんですよ。その時はさすがに「ライブか..」と考えました。でも、その時も何かわくわくしたんですよね。

それからライブチームを一新して、ほぼ同世代のメンバーでライブを作るということを始めて、それが初めて実現したのが2013年の「炎と森のカーニバル」(富士急ハイランド)でした。飲食店や売店、警備員の衣装なんかも、全部自分たちの考えを提案して作ったんですよ。

「Twilight City at NISSAN STADIUM」会場マップ

——6万人規模のライブでした。新しいチームが手がけていたとは信じられないです。

佐藤:ライブを作るというより、テーマパークや都市を作る考え方に近いですよね。全体を通してセカオワのコンセプトを表現する、という。会場構成を考える作業は、都市計画や建築の考え方にも近くて面白かったです。初めてのことばかりのチームだったので大変でしたけれど、徐々にチームワークも高まって、日産スタジアムで開催した「Twilight City at NISSAN STADIUM」(2015年)には僕たちがやってきたことが凝縮されていたと思います。

——日産スタジアムの時の『ムーンライトステーション』という曲では、頭上に汽車が飛ぶ演出が感動的でした。

佐藤:屋外の空での演出は風の影響を受けやすいので、1日目は強風で断念し、2日目の公演でやっと実現しました。僕たちはそういうリスクの高いことにあえて挑戦しているようなところがありますね。リスクのない演出って、皆やっていることだったりするじゃないですか。「炎と森のカーニバル」でも、「ウォータースクリーン」という水を利用した演出を行っていました。通常、楽器は水に弱いので生演奏のステージでは滅多に使わないのですが、圧倒的に迫力のあるステージが作れるので。そのおかげで一度、システムがダウンし演奏がストップしてしまったこともあります。

——奇想天外なアイデアをどうやって実現させていくのでしょうか?

佐藤:メンバーと演出家の方と話しながらアイデアを練って、僕がディティールやパーツをデザインし、皆で形にしていきました。ミーティングでは自由に意見を出し合って決めていくので、いつも誰か一人に決定権があるというより、皆が納得のいったアイデアを採用しています。

汽車のデザイン画

アイデアと1枚のスケッチからステージが実現する

「Twilight City at NISSAN STADIUM」のためのアイデアスケッチ

——普段はどんなツールを使われていますか?

佐藤:メインで使っているアプリケーションはIllustratorとPhotoshopと、SkechUpという3Dモデリングソフト。あとはiPadとペンタブレット。iPadはここ1年ぐらいでよく使うようになりました。

——ステージのデザインからライブのDVDジャケットまで、ひとつのコンセプトが貫かれていますよね。「Twilight City at NISSAN STADIUM」の制作課程について教えていただけますか?

佐藤:まずメンバーから話を聞いて、僕がステージのラフを描きます。日産スタジアムの時はステージの真ん中に木の都市があるというコンセプトでした。これはFukase君のアイデアで、「炎と森のカーニバル」の時から続いているモチーフです。次に、そのスケッチをパソコンに取り込んでPhotoshopで色づけして、会議でプレゼンします。

「Twilight City at NISSAN STADIUM」のためのアイデアスケッチ。Photoshopで着色したもの。

佐藤:その企画が通ったら日産スタジアムへロケハンへ行き、PhotoshopとSkechUpでより詳細な絵を描いていきます。その時点で照明の配置とかも決めちゃったりしますね。絵的にステージをデザインできるので。

「Twilight City at NISSAN STADIUM」のためのイメージパース。PhotoshopとSkechUpで制作したもの。

佐藤:DVDのジャケットは、最終的にできた絵をアニメーターさんに渡し、イラスト化して頂いたものをデザインしました。

DVD「Twilight City at NISSAN STADIUM」イラストはアニメーターのアカツキチョータさんによるもの。

——『Death Disco』という曲の中で「正義」などの歌詞をライティングする演出は迫力ありましたね。

佐藤:あれは光が遠くまで届く、特殊な照明を使った演出です。Illustratorで作った文字のデータからフィルムの型を作ってもらい、照射しました。プロジェクションマッピングも面白いのですが、照明の方が黒を照射できるのでドーンと迫力のあるライティングができるんですよ。

文字を投射した演出(「Twilight City at NISSAN STADIUM」ダイジェスト動画1:29〜1:40)

——いつもお客さんへのサプライズを用意しているというところに、メンバーの愛情やエンターテイメント精神を感じます。

佐藤:会場が大きくなっていくにつれて、昔小さな会場でやっていたことができなくなっていくんですよね。それでもセカオワの世界観を伝えられるように、お客さんがゲートをくぐってから帰るまでのストーリーを作り、会場全体を生かせるような演出を考えています。

——大規模なライブを新しいチームで作り上げていくのは大変だったと思います。あえて若いメンバーでチームを構成したのは何故ですか?

佐藤:初めての人たちでやると、皆何ができて何ができないかもわからないから、誰も「できない」って言わないんですよ。だから、実際にやってみてできなかったこともたくさんありました。でも“やってみる精神”みたいなものがないと、新しいことってできないと思うんです。いろんな意味で大変でしたけどね。日産スタジアムは日本で1番大きい会場ですが、ライブとしてとことんやりきったという達成感がありました。

ファンタジーをデザインする

——佐藤さんにとってトータルアートディレクションとはどんな仕事ですか?

佐藤:僕の仕事はクライアントの要望を作品に落とし込み、具現化していくことなんですけれど、クライアントがイメージするファンタジーみたいなものがあって、それをクライアントの言葉通りに形にするというのもちょっと違うんじゃないかなと思っているんです。何故かというと、クライアントが考えていることって、実際には形のないものなので、言葉で作られた世界を形にしても「これじゃないな」みたいなことになってしまったりするんですよね。たとえ複数でミーティングして「いいね、こんな感じにしよう」と話がまとまったとしても。

それで僕は仕事場に戻ってから、皆のアイデアと現実を照らし合わせて、土台から構築していくわけなんですけれど、それってちょっと大袈裟にいってしまうと、クライアントの意向を汲んだ上で“でっち上げる”みたいな作業なんですよね。彼らがイメージする真実の部分を具現化するといいますか。その辺のところにアートディレクターのクリエイティビティが発揮されるんじゃないかな、と。アーティストというより、デザイナーに近いと思います。

——クライアントがかなり現実的なイメージを持っている場合もありますよね?

佐藤:そうですね。特にセカオワの場合はイメージもしっかりしているし、話が早いです。でも2、3行しかイメージを言ってくれなくて「あんまり言うとイメージから離れていってしまう気がするからこれ以上言わない」とか言われる時もあります(笑)。でも彼らとは付き合いも長いし、イメージしていることは大体わかりますね。

ロゴデザインは建築に似ている

——今回制作頂いた「Illustratorと私」はどのように作られましたか?

佐藤:Illustratorを使って“新宿という街に絵を描く”ということ自体を表現してみました。この写真を選んだのは、僕の頭のちょうど真上から陸橋が二股に別れて“パッカーン!”ってなっているところが、僕が頭の中で思い描いている新宿にぴったりな構図だと思ったからです。

——多岐にわたるお仕事を手がけられていますが、好きなお仕事は?

佐藤:プロジェクトの最初の方から関われる仕事が好きですね。例えば、ブランド立ち上げに伴うロゴをつくったり、名刺をつくったり。わくわくしますね。もしはじめから関われなくても、最初のモチベーションやプロジェクトの意義みたいなものは必ずお聞きします。

シングル『眠り姫』

佐藤:特に好きなのは、ロゴデザインです。1番ごまかしが効かなくて、デザインという概念そのものみたいな感じがするんですよ。構造やコンセプトを形にするという意味では、建築にも似ている。ロゴを作る時はいつもクライアントに取材をするのですが、話しているうちにクライアントの中でもやりたいことが明確化されていき、そういう作業を一緒にやることで、クライアントのロゴに対する愛着も湧く。そういうプロセスも含めて、ロゴデザインが好きです。セカオワの『眠り姫』というシングルのロゴは、彼らが活動当初から海外を視野に入れてきたということをふまえて、アルファベットで漢字を構成しました。

シングル『眠り姫』ロゴ

——今日はありがとうございました!最後に座右の銘を教えてください。

佐藤:「back to the basic.」。

佐藤央一(さとう・ひろかず)
アートディレクター、デザイナー。1985年、宮城県仙台市生まれ。2012年、工学院大学大学院都市デザイン卒業。


◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

  AUTHOR

宮越 裕生

神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへてライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。