連載  /  

#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.30 アーティスト 井上涼さん

BY 公開

photo: Taio Konishi Photography

Illustratorと私」制作作品

Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。最終回、第30回を飾るのは、アーティストの井上涼さん。NHK Eテレ「びじゅチューン!」などでお茶の間でもおなじみ。アニメーター、イラストレーター、シンガーソングライターを兼任、つまり絵、音楽、歌、全部を自分ひとりでこなして、ユーモラスで不思議な世界観を作り上げるアーティストです。井上さんとIllustratorの関係とは?

エヴァンゲリオンをコマ送りする子供時代

アトリエにて

——クリエイターになったきっかけを教えてください

Inoue:父が彫刻家と高校の美術の先生をしていて、母はピアノの先生。何かを作ったり、音楽をやることに親しみやすい環境にありました。私自身、子どもの頃から絵を描くのが好きで。こういう世界に興味を持ったのは自然なことだったんですよね。自分でも何かを作りたい、と強烈に志したのは、小学校の頃にアニメを好きになったことが直接的なきっかけだと思います。

——どんなアニメですか?

Inoue:『新世紀エヴァンゲリオン』が最初に好きになったアニメでした。でもその頃住んでいたのが田舎(兵庫県小野市)で、電波が入らないから本編を家のテレビで見れないんです。

——じゃあ、どうやって見ていたんですか?!

Inoue:夕刊のテレビ欄のタイトルから内容を想像して楽しんで、その穴埋めをアニメ雑誌でするというやり方です。後からレンタルビデオで見ると全然想像と違ったんですけどね。しかもビデオはコマ送りで一コマずつ進めて見るというかなりオタクっぽい行動を取っていて、母親が「この子大丈夫かな… 」って心配してました。

——それは創造力が鍛えられそうですね。その後は美大(金沢美術工芸大学)に進学されますね。

Inoue:油絵などでは食べていけなさそうだったので、就職先がありそうな、デザイン科に進学しました。そこで広告の勉強をして、デザインを志して東京の広告代理店に就職したんです。結局、卒業してから7年くらい勤めていました。

——井上さんにサラリーマン時代があるというのが新鮮です。広告代理店時代には、社員とアーティストと二足のわらじをされていて。

Inoue:広告代理店にクリエイティブとして入社したんですが、想像していたことと、ちょっと違うこともありました。例えばCMの絵コンテができたら消費者を集めて「これ、どう思いますか?」とアンケートを取り、「これはつまらないと思いますね」と意見されたら修正していくという段階を踏むこともあって。そうすると、どんなに考え抜いた企画でも、どんどんカドが取れて丸くなっていってしまう。

——そうやって作られるCMもあるんですね。

Inoue:そうすると表現としては誰も文句がないものができるんですが、注目されることもない、平凡なものになってしまったりして…。それでも、自分が仕事上で役に立っているんだという実感はありましたし、好きな先輩やクリエイターと仕事をできるのは楽しかった。仕事のやりがいは感じていました。

——独立された理由は、やはりアーティストに専念したかったということでしょうか?

Inoue:もともと割とアーティスト気質というか、自分の作品を作りたい欲が高い方なので。CMはクライアントさんのものですから。「作・井上涼」と付けることができるものを作りたかったんです。とはいえ、アーティストの仕事も依頼ベースのものが多いですが。

ストーリー、イラスト、映像、歌…


びじゅチューン! NHK Eテレにて火曜よる7時50分〜放送中 http://www.nhk.or.jp/bijutune/ 動画はこちら

——ストーリー、映像、音楽、アフレコまでお一人でされてしまうマルチな作品制作をされていますが、普段お使いのツールは?

Inoue:Photoshopが多いですね。手書きでアニメの線画を描いて、スキャナーで取り込みます。色を付けるところからフィニッシュまではPhotoshopとAfterEffectsで行っています。

——歌はどのタイミングで作られるんでしょうか?

Inoue:全体のフローでいうと、アイデアを出して、まず曲を作ります。『びじゅチューン!』ではコーラスバージョンの編曲家の方に曲を送る必要があるので、曲が最初です。まず曲が出来た段階で「今回こんな感じで、1分20秒くらいです」と映像の話を進めておくんですね。完成までの間に撮影をしたりとかコーラスの録音に行ったり、アニメの制作にかかるのは最後です。完成するのは、放送の3日前くらいに試写があるので、そこまでに。

——井上さんのように音と映像が一体になった表現では、どうやってあのような生き生きとしたアニメーションができるんでしょうか?

Inoue:「びじゅチューン!」では、まず美術作品を見て、どういう動きをしたら面白いのか、この絵がどう動いたらいいのかをよく考えています。また、ぱっと見で思いついたものが、結構一般の方が思っていることに近いんじゃないかと思うんですね。最初に「山が気になるな」と思ったら、他の人もそこが気になっていたりする。じゃあ山を大事にした作品に持っていこうとか、そういうことに気をつけています。

——作品においてIllustratorはどのように使われていますか?

Inoue:Illustratorは、曲の歌詞を入れる時に使います。私の作品は歌が入るので、歌詞をテロップとして出しているんです。プロジェクションの作品「マチルダ先輩」はIllustratorで作っています。

——こちらはプロジェクションマッピング”風”の作品ですね。井上さんの歌に合わせて女の子がいろんなコスチュームに変化する、カワイイ作品です。

Inoue:当時、すごくプロジェクションマッピングが流行っていたのでやってみようか、というくらいのノリで作った作品です。マッピングはしていないので、プロジェクションマッピング”風”ですね。映像は四角形で作って、プロジェクションした時に人形の型のマスクを乗せているんです。彫刻の形に合わせて、映像の方で頭の部分を削るという。ズレに関してはプロジェクターをやや斜めにしたり、ちょっと持ち上げたり、そういうことで解決していきました。

——工夫ですね!なぜIllustratorを使ったんでしょうか?

Inoue:コピペがしやすいからですね。アニメは、ちょっと動いただけでも新たに絵を一枚描かなきゃいけません。でもIllustratorやPhotoshopだったら、コピペして、次のレイヤーを作ればちょっとの動きでアニメーションを作ることができるので。

愛されるびじゅチューン!グッズ


びじゅチューン!グッズ

——井上さんの作品は次元を超えて3次元のグッズとして愛されています。現在では400種類もあるそうですね。

Inoue:はい、監修という立場で関わらせていただいています。アニメーションの素材からグッズを作るので面白いですね。この前、ビームスジャパンにて、九谷焼きなど、日本の工芸の職人さんとコラボしたグッズを作りました。一個一個職人さんが絵付けしてくれて、ありがたかったです。


ビームス ジャパンでの「びじゅチューン!ジャパン」におけるコラボグッズ。通信販売でも展開中

——仕事や作品を完成させる時に最も気をつけているポイントは?

Inoue:私の場合は音楽と動きを一人で作るので、その”音と映像のシンクロ率”を高めることでしょうか。例えば、テレビアニメのオープニングでサビの前にヒロインの目がパッと開いて、目を開けると同時にサビに行く演出があります。その目を開けるタイミングがサビのピークにあるのか、途中のほうがいいのか、音が始まる前なのかによって結構快感が違うんです。だからそこを一番見ていて気持ちがいい、シンクロが強いところにするようにしています。

告知まで含めてクリエイターの役割


——デジタルツールによってクリエイテビティが広げられたことがありましたらお教えください。

Inoue:わたしの場合、制作とは別に、告知の作業も仕事のウエイトを占めています。PhotoshopでGIFアニメとかを作ったり。GIFアニメを作ると告知の広がり方がまったく変わるので。

——告知まで、クリエイターの役割になっているんですね。

Inoue:人によると思うんですけどね。私の場合は最初から自分でやらなきゃいけなくて、それが今は癖になっているという感じです。「SNSにこういうことを書いたら前の映像よりも広まったけど、何でだろう?」とかって工夫していると面白くて。お昼12時から1時と、夕方6時から7時と、寝る前にみんなスマホを見るからその時間が狙い目とか、いろいろあるんですね。

——もう、完全に代理店のようなお仕事ですね(笑)。

Inoue:そういうことが大事って染み付いているのかもしれません(笑)。でもきっと既にそういうことが自然にできる人が増えていると思います。それが苦痛だとちょっと大変だと思いますね。

——それでは最後に、座右の銘を教えてください。

Inoue:例えば「この人いやだな〜」って思っても、絶対自分も似たようなことをしてるんですよ。今、LGBTなどのダイバーシティについての活動もしているんですが、何かしら世間に不満があったとして、でもそれが独りよがりになっていないかといつでも自分で考えるようにしています。人にやられて嫌なことを他人にはしない、自分に置き換えてみないといけないなって最近思っているんです。

——LGBTを扱うような主張がある作品を発表していく時には、そういうことに気をつけていかなくちゃいけないんですね。
Inoue:LGBTにまつわる作品に限らず、いろんな視点に立つっていうことがより一層大事になってきていると思います。何かを主張するときには、他の視点も必要。そうしないと主張も強くならない。逆に視点を気にしすぎて主張が弱くなるのもまた良くないから、その塩梅が本当に難しいなと思って試行錯誤を続けています。

——ありがとうございました。

井上涼(いのうえ・りょう)


ただいま発売中!オリジナルDVD「忍者DVD

アーティスト。金沢美術工芸大学卒業。「赤ずきんと健康」でBACA-JA2001映像コンテンツ部門で佳作受賞。作品に『びじゅチューン!』『やる気あり美』『井上涼のJ-WAVE街角アート劇場』『ハコダテミュージカル』など。作品に合わせた音楽はみずから作詞・作曲・歌唱まで手がけ、独自の世界を繰り広げている。ただいまオリジナル作品『忍者DVD』発売中。

【お知らせ】
本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」が、2017年11月28日(火)にパシフィコ横浜にて開催されるAdobe MAX Japan 2017にて特別展示を行います!会場ではインタビューで彼らの素顔に迫ったポートレート写真から生まれた作品「Illustratorと私」を展示。ただいまイベント参加のお申込みを受付中です。詳細はWEBサイトにて。


◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

  AUTHOR

齋藤 あきこ

宮城県出身。図書館司書を志していたが、“これからはインターネットが来る”と神の啓示を受けて上京。青山ブックセンター六本木店書店員などを経て現在フリーランスのライター/エディター。