イラストレーターのloundraw、たった一人で初めてのアニメーションを創る

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※本記事はMdN2017年9月号(2017年8月5日発売)より許可をいただき転載しています

 

先日、イラストレーターのloundrawがWeb上で発表した個人制作のアニメーション作品は、loundrawのイラストの世界観をそのまま映像に落とし込んだ意欲作だ。驚くべきことに本作は、loundraw自身初めてのアニメーション制作にも関わらず、全てのシーンをたった一人で作り上げたという。一体どのように制作されたのか、その裏側について聞いた。(取材 編集部 ● 文 高瀬 司)

 

本作は、大学生のソウタが、地球の命運を握る力がある少女ユキの真実に迫っていくと いう架空の映画のフェイクP V。あくまでも個人制作として発表されたものだが、登場するキャラクターの声は下野 紘と雨宮 天といった人気声優が名を連ねる

アニメ制作の理由

『君の膵臓をたべたい』(住野よる)、 『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜) などの装画で知られ、昨年末には初の画集『Hello, light. ~loundraw art works~ 』も上梓したいま注目の若手イラストレーター、loundraw。その活動はイラストだけにとどまらず、 オリジナルTVアニメ『月がきれい』のキャラクター原案、アーティスト集団「CHRONICLE」のメンバーとしての音楽活動など多岐にわたるが、そんなloundrawが制作した映像が7月13日に公開された。彼が大学の卒業制作として一人で個人制作したアニメ作品である。「架空の劇場映画のフェイクPV」として作られたその1分30秒あまりの映像は、YouTube上で公開されるや否や、1週間で30万再生を突破、Twitterでの「いいね」が16万を超えるなど大きな話題を呼んだ。

本作における繊細で美しい光のエフェクトや、被写界深度を意識した独特の画面構成といった美意識は、確かにこれまでのloundraw作品の延長線上にあるものだ。しかし、大学在学中からすでにプロのイラストレーターとして活躍していた彼が、いまなぜ絵ではなくアニメーションを、それもたった一人で手がけることにしたのだろうか。

「以前からアニメ作品をディレクションしてみたいという気持ちがあったんです。もともと僕にとって、イラストを描くというのは表現手法の一つという感覚。ちゃんと伝えたい感情 が表現されていれば、イラストでも、 音楽や映像でも、表現手法としてこだわりはなく、またアニメーション制作のように作業を分担することも その答えのひとつだと考えています。いつかディレクションの仕事をすることを視野に入れて、これを機に一度アニメを一人で制作してみようと思ったんです」

ただ本作が志向するような日本的な「アニメ」作品は通常、作業量が膨大になるため、高度な分業体制のもとで制作されてきた。そのため将来的にアニメを監督したいのであれば、一人での個人制作ではなく、仲間と協力した集団制作でよかったように思われるかもしれない。

「でも、もし今後プロの現場でディレ クションをする機会が得られたとしても、その監督が一度もアニメを作ったことがなかったら、スタッフからの 信頼は得られないと思うんです。なので、自分でも制作フローを一通り経験し、それぞれのセクションにどんな苦労や難しさがあるのかを少しでも 感じ取っておくことが必要だと感じていて。そこで卒業制作という、まだ失敗が許される場で一度、シナリオからキャラクターデザイン、原画、彩色、 背景美術、撮影、編集まで、自分一人でやり抜くことに決めたんです」

その明確な目的意識は、フェイクPVという形式にも強く表れている。

「制作に当てられる期間は4ヶ月ほどだったので、一人で全部をやるとなるとあまり長い作品は作れない。それなら物語映画よりも縛りが少なく、一本のなかで様々な技術やシーン にチャレンジできる形式がいいだろうと思い、フェイクPVを選びました」

 

アドビ製品の力

完成した作品を観てまず何よりも驚かされるのが、これだけの映像をたった一人で作り切ってしまったという事実だろう。いったいどのようなワークフローのもと、どういったアプリケーションによって生み出されたのだろうか。

「はじめに取りかかったのはビデオコンテです。絵コンテは作らず、簡単な線画とセリフのテロップを組み込んだビデオコンテをAfter Effectsで制作しました」

ビデオコンテとは、一言でいえば動画で作られた絵コンテのこと。絵コンテは監督の抱くイメージの込められた、作品の設計図となる重要な指針だが、しっかりと読み込まなければ 理解しづらいものでもある。それに対して、動画として確認できるビデオコンテは、関係者やスタッフとのイメージ共有がしやすくなるなどのメリットから、近年ではプロのアニメ制 作現場でも広く普及しはじめている手法だ。

「次にCLIP STUDIOでキャラクターの原画・動画を、SAIで背景美術を、Blenderで3DCGを作成していったんです」

アニメ制作における色味は一般的に、色彩設計というセクションが、キャラクターごとに「ノーマル」「夕方」「夜」「室内」などベースとなる色の組み合わせのパターンを定め、その指定に則り仕上げ(彩色)担当者が各シーンを塗り分けていく。しかし本作は、各カットごとに個別に彩色が行われており、そのこともリッチなビジュアルイメージを支える大きな要因の一つとなっている。

「また、背景美術の制作工程に関しては、Photoshopに作業を移してから、1点ごとに色味やハイライトなどを調整していました。Photoshopは、色調補正の項目が多く、フィルターも豊富なところが魅力です。ノイズを加えたり、コントラストを高くしたり、ボカしを入れたりと、最後の撮影で使ったAfter Effectsとあわせて、僕の写真ライクな絵作りには欠かせないアプリケーションですね」

アニメ制作における「撮影」とは、作画・背景美術・3DCGといった素材をコンポジット(合成)する工程のこと。プロのアニメ制作現場でも、撮影はAfter Effectsを中心に行われ、光の表現やレンズ効果のエフェクト、被写界深度の操作などはこの工程で付け加えられる。

「After Effectsを本格的に使ったのは今回がはじめてだったんですが、インターフェイスもわかりやすく、Photoshopのレイヤー階層そのままに作業が行えるところもよかったですね。業界のスタンダードとなるアプリケーションなので、これを学んでおけば無駄な回り道をしないで済むという信頼もありました」

次なる一歩に向けて

最後に今回の個人制作の手応えを聞いてみたところ、loundrawはアプリケーションの進化による功績を強調した。

「制作で一番足りないのは時間だったんですが、それは逆に言えば、Adobe Creative Cloudを使えば、時間さえかければ一人で、自分がイメージしたクオリティの映像を実際に作り出すことができるなと。そこがすごく衝撃で、すごいものを手にした気持ちになりましたね。今回は編集も撮影と一緒にAfter Effectsで行いましたが、ようやく全体の作業イメージもつかむことができたので、次はPremiere Proも導入してみたいですね」

そんなloundrawは、近い将来、実際に商業作品の映像制作を行うかもしれないという。それはおそらく、一人での個人制作ではなく、スタッフと連携した集団制作になるというが、本作での経験はその目標へ向けた大きな一歩となるはずだ。

loundrawのアニメーション制作のワークフロー

アニメーション制作のとっかかりとなるムービーコンテを作る

使用ツール:Adobe After Effects CC


まずは各シーンを簡単な線画で描いていき、大まかなイメージを掴んでいく


先ほどの各シーンの線画をAfter Effectsでタイムライン上に並べ、全体の構成を見通せるようにムービーコンテを作る。After Effectsは動画加工のアプリケーション。エフェクトなどの機能が、Photoshopの使い勝手と近く、初めての人でも使いやすい

描き込みや着彩後、色味を調整し各シーンを作り込む

使用ツール:Adobe Photoshop CC

背景の描き込みや着彩を行う(左)。その後、ファイルをPhotoshop上で開き、同ソフトのハイエンドな色調補正機能で色みを調整(右)。なお、キャラクターの動画制作などはペイントツールのCLIP STUDIOで行う

被写界深度などを表現し、アニメーションを仕上げていく

使用ツール:Adobe After Effects CC


背景とキャラクターの動画の各ファイルをAfter Effects上に読み込み、合成する作業「コンポジット」を行う。さらにここでは、loundrawの持ち味とも言える被写界深度によるぼかしや光の効果なども加えていく

左が背景とキャラクターをそのまま重ねたもので、右が被写界深度によるぼかしなどの効果をAfter Effects上で加えたもの。比べてみると効果によって、大きく印象が変わることがわかる

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loundraw:
[ラウンドロー]イラストレーター。透明感のある色彩と被写界深度を用いた緻密な空間設計を魅力とし、装画、キャラクターデザインとジャンルを問わず活躍中。

 

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