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デザイナーが選んだ。私が好きなデザイン 2018年8月号

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夏休みのシーズンがやってきました。好きなデザインをじっくり探すにはよい機会かもしれません。今月も4名のデザイナーが好きなデザインを紹介してくれています。フィールドワーク先でみつけた人や、偶然プレゼントされた人など、好きなデザインと出会ったきっかけは様々だったようです。

米道 昌弘、アートディレクター/デザイナー、FOURDIGIT Inc.

素直にちゃんと作られたサイト。
かっこよく言うとオーセンティックなサイトデザインが好きです。

僕がもともと派手なデザインが得意ではなかったというのも理由の一部ですが、特にレスポンシブ全盛期の頃に流行り始めた大げさに見せるデザインがどうも好きになれず、どんなデバイス向けにも一つ一つ丁寧に、そして合理的につくられたサイトに惹かれるようになりました。

今回紹介したいのは「HIOS」のサイトです。
Semitransparent Design」さんが数年前に制作されたもので、今でも記憶にしっかりと残っている、とても気持ちが良いデザインです。

好きなデザイン:HIOS

このサイトは一見、ごく一般的な正統派コーポレート・ブランドサイトに見えます。しかし、取り扱っている製品の持つメカニカルで精密な質感を、うまくサイト全体のトーンに落とし込んでいる絶妙な「デザインのさじ加減」が見事です。精密機器のシズル感とセクシーさを感じるビジュアル、一貫したアートディレクションが製品自体の魅力を引き出して、その印象をより高いレベルへと昇華させています。

派手な演出や過度な賑やかしは一切ありません。最低限のデザイン要素で世界観を表現している点はとても潔い印象です。カタログっぽい秩序を感じさせるレイアウト、ウェブ特有の事務的な外観、徹底的に整理して設計された文字・オブジェクトのサイズ、それらの組み合わせが見ていて本当に心地よく感じられます。

また、このサイトはレスポンシブのブレイクポイントを5段階に設定しています。どの表示幅でも、一定の情報密度、同じトーンを保っていて、間延びすることはありません。この点からもデザインの完成度が高いと言えます。

いろいろと変化や流行の移り変わりが早いウェブデザインの世界ですが、こういった「正攻法なサイト」にもまだまだ役目はあると思います。むしろ、このようなサイトにこそ、デザインの奥深さが潜んでいそうでデザイナー心を動かされます。

麦田ひかる、デザインディレクター、株式会社スキャナー

私が紹介するのは、アイスランドにある世界最大級の温泉施設「BLUE LAGOON」のウェブサイトです。

私はデザインディレクターとして、衣食住・暮らし・観光に関わるブランドデザインを手がけています。その仕事柄もあって、事例リサーチを兼ねてヨーロッパを1ヶ月ほどまわってきました。その折にBLUE LAGOONを訪れたのですが、ウェブサイトから現地施設での体験に至るまで、コンセプトの一貫したブランド設計に感激したので、今回ご紹介できればと思います。

好きなデザイン:BLUE LAGOON

ポイントは大きく3点。

1つ目は、独自の強みの表現です。特に冒頭の「Experience the Wonder」のブランドコンセプト。
リゾート施設に多いRelaxやLuxuryといったワーディングではなく「感嘆/奇跡」を示すWonderを選んだ点に感心。施設とそれを取り巻くアイスランドという国の特性を分析し、「圧倒的な自然」を軸にブランドの差別化を図っています。

2つ目は、ユーザーが「想像/期待」するための”余白”を設けたビジュアル設計です。「感嘆/奇跡」を軸としたブランド設計であれば、詳細なテキスト情報よりも圧倒的なビジュアルで訴求する手段は有効でしょう。

象徴的なカットで統一された写真や映像、淡い水色と灰色を基本とした色調、余裕を持って間を設けたレイアウトやアニメーションからは、「トロリとしたお湯の質感」「灰色の溶岩に囲まれた一帯」「地熱で湧き上がる蒸気」といった情景が想起されます。

3つ目は、世界観とストーリーの一貫性です。オンラインから現地施設までコンセプトもトーンも統一されており、施設のグラフィックや各種サイン、建物のエクステリアとインテリア、さらにはギフトショップのパッケージデザインとスタッフの制服・・とあらゆる「デザイン」に及びます。仕事柄、これらを一貫させる難しさを知る身として、ここまでの完成度へ高めるまでには、長期にわたって根気強くそして適切なブランドディレクションが行われていたのだと察します。

BLUE LAGOONを始め、この他にも様々な都市/施設/ブランドを見て回ったのですが、私が惹かれたものには、上の3つが共通しているように思います。

今回のリサーチでは、フィールドワークの大切さを実感し、自信の体験から得た感覚や視野や思考を大切にしながら、よりクライアントワークに貢献していきたいと考えさせられました。

植木葉月、エディトリアルデザイナー、株式会社コンセント(ポートフォリオサイト:Uekipedia

いとこから送られてきた古本の中で、その真っ青な文庫本はひときわ目をひきました。表紙には、柔らかく突き刺さるような一節。緊張感のある佇まいに惹かれて、ドキドキと本を開いたのを憶えています。

好きなデザイン:スカイ・クロラ 文庫版、 カバーデザイン:松田行正、出版:中公文庫 中央公論新社

強い色面と文字要素の妙が作り出す緊張感。文庫版という規格も、この鮮やかな青を際立たせるのにはちょうどよいサイズ感です。

内容は戦闘機まわりの描写が多く「表紙ではそんなこと言ってなかったよ」と思う反面、しっかりと肉付けられた世界で生きる登場人物たちの物語に「表紙に惹かれて読んで良かった」と思ったものです。

数日後、書店に寄ると、何やら美しい気配の漂う本が積まれていました。タイトルを見ると「スカイ・クロラ」という文字。何のめぐり合わせか、単行本の『スカイ・クロラ』が平積みされていたのです。

スカイ・クロラ 上製本(単行本ハードカバー)、 ブックデザイン 鈴木成一デザイン室、出版:中央公論新社

透明なフィルムカバーで青空の写真を覆った装丁は、コックピットからの視界を意識して作られたというのが面白いところです。

初見で「これはコックピットだ」と分かる人はいないでしょう。しかし、読み終わってから「これが主人公たちが見ている世界か」と気づいたときには、改めて後味を噛みしめられます。「美しいものを買って幸せ、読み終わって気づく幸せ」という二回の体験が得られる素晴らしいデザインです。

そして、暫くのち、また違う『スカイ・クロラ』を、こんどはオンラインショップに見つけました。表紙は登場人物のイラストです。

スカイ・クロラ ノベルズ版 、カバーイラスト:鶴田謙二、カバーデザイン 福田功+しいばみつお(伸童舎)、出版:C★NOVELS 中央公論新社

細部まで描写された硬い機体と、遠くを見つめる華奢な女性が醸し出す世界観は素晴らしく、小説の内容を十二分に伝えます。しかし、手に取る読者は前の2冊とは異なる層かもしれません。
このような体験を通じて、装丁は、物語を容れる器を作ると同時に、読者の体験をかたちづくるものであることに気づいたのが、私がデザインを意識するきっかけだったように思います。

近年、電子書籍という新しい媒体が現れました。かつては本をジャケ買いしていた私も、場所をとらない、いつでも読める電子書籍を利用することが増えました。
しかし、本の延長線上に電子書籍があるわけではありません。紙の書籍は、体積を持つモノならではの魅力を活かしてこそより面白くなるのではないかと、本の構造から考えてみたりページをめくらなければ読めないことを逆手に取ったりと、試行錯誤している今日このごろです。

その気持ちは、あの日のスカイ・クロラの手触りや衝撃に支えられていると思います。

城戸貴子、Web/グラフィックデザイナー、フリーランス(ポートフォリオサイト:sockid

イギリスで長年、動物や植物のドキュメンタリー番組を手がけている学者、サー・デイビッド・アッテンボローの動画作品をまとめたアプリ、BBC earth「Attenborough Story of Life」をご紹介します。

彼のドキュメンタリー作品はもちろん素晴らしいのですが、このアプリのデザインも素敵なんです。

好きなデザイン:Attenborough Story of Life

動画がメインなのでデザインは控えめでミニマムですが細部をよく見ると、写真・動画を引き立てつつも、アイコンや文字の可読性を上げるための細かなテクスチャ加工が施されています。アイコンは特に苦労したんじゃないかな?と思われるぐらいの数と、抽象的な言葉で構成されています。

基本的は動画アーカイブアプリなので、構造はとてもシンプルですが、他ではあまり見ない操作性が新鮮です。画面上で指をぐるっと回すダイナミックなジェスチャーで、動物の種類や生息地をフィルタリング検索できるところが個人的に好きですね。初めて起動するときのヘルプは最小限の内容で分かりやすくまとめられており、直感的に操作が分かるUIだと思います。

このアプリで動物や昆虫のドキュメンタリー動画を見ていると、「デザインのヒントやモチーフは自然の中にある。アイデアに煮詰まったりしたら、外に行って自然に触れ合うとひらめきがあるぞ!」という、デザイン学生時代の恩師の言葉を思い出します。
動画の中に、海辺の貝殻や岩、公園の木の葉っぱや幹など、自然の中にある規則的な模様やパターンを見ると「自然の作り出すデザインはすごいなぁ〜!」と、今でも感動を覚えます。

初心に戻って自然の中からアイデアをもらい、お仕事に活かせるようにしたいものです。

  AUTHOR

akihiro kamijo

アドビのコンサルティングチームでリードアーキテクトとして主にUIデザインプロジェクトに関わる。現在は独立してデザイン/開発に関連のマーケティング企画や情報発信、プロジェクト支援を行っている。