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デザイナーが選んだ。私が好きなデザイン 2018年5月号

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デザインはストーリーを伝えます。使われる状況やテクノロジーは様々でも、伝えたいことを形にするのはデザインの役割です。今月紹介されているデザインは、それぞれ、どんなストーリをどのように伝えようとしているでしょうか?

澤田浩二、執行役員/CDO、株式会社オハコ(ポートフォリオサイト:Behance

私の好きなデザインを考えた時に、どうやら、使っているその過程で「そうだよね、そうなるよね。」と思えてくるデザインが好きなようです。理由を考えてみたのですが、そういったデザインはいつも、自分の潜在的な欲求の言語化と視覚化を触発してくれるからです。

今回は、業務上デジタルプロダクトを扱ってる事もあり、tsukuruba inc.(ツクルバ) の提供する、cowcamo(カウカモ)というサービスの、iOSアプリをご紹介します。

このサービスは、“リノベーション住宅の魅力を伝え、「一点もの」の住まいとの出会いを提供する” というコンセプトの元に展開されている通り、ホーム画面では「出会う」というラージタイトルが目を惹きます。

好きなデザイン:cowcamo(カウカモ)

タイトル下のエリアでは、美しい画像と短いコピーで特集が掲載されています。特集を象徴するイメージカット、そして、無味乾燥な特集名ではなく、また、マンションポエムほど大げさではないコピーのテイストに興味を喚起させられます。

特集トップ画面/物件一覧画面

特集のサムネイルをタップした後に表示される特集トップ画面では、遷移直後に物件一覧に気づかせるマイクロインタラクションが過不足なく気が利いており、「そうだよね、そうなるよね。」と思わせてくれます。この後、特に注目したいのは、物件詳細画面での「取材」タブでのコンテンツの展開です。

「取材」タブ画面

物件の紹介はもちろん、最寄り駅、物件の周辺エリア、近隣の店舗に至るまで、特集のテーマに沿って、丁寧に撮られた写真と共に豊かに語られています。あたかもコーディネーターに付き添われて紹介されているような体験ができる編集は、その情報量と比較しても読み飽きさせません。

無機質にスペック情報を中心に物件を紹介するサービスが多い中で、このcowcamo(カウカモ)は、物件情報に編集の概念を加え、物件単体ではなく、家を含めた周辺の生活空間、また、またそこで創られていくであろうライフスタイルを情緒的に想起できるという体験価値を提供しているように思えます。

人生の中でも最も大きい買い物である「家」だからこそ、こういった丁寧さで信頼感を醸成しようとしているのではないでしょうか。まさに、「そうだよね、そうなるよね。」と思わせてくれる、私が好きなデザインです。

川上貴士、映像編集 / モーショングラフィックデザイナー / イラストレーター / グラフィックデザイナー、フリーランス(ポートフォリオサイト:映像とデザイン

先日、unknown/asiaという毎年大阪で開催されているアートイベントがきっかけで、バンコクのカルチャースポットである「The Jam Factory」で開催されたアートフェアに参加しました。
タイ語はもちろん英語もほとんど話せない自分が、たくさんのタイの方々と作品を通して対話することができ、表現の世界は本当にボーダーレスなのだと実感できました。その際に知ったタイ人のアーティストsunturさんの作品を紹介させて頂きたいと思います。

sunturさんの作品はイラストレーションが基本です。どの作品もとてもデザイン性を感じさせる構成で、見る人の想像を掻き立てます。

特に個展「Zero Decibel」で発表された作品が好きなのですが、静止画作品はもちろん動画作品も絵画的で、どちらも見ていて本当に心地が良いです。アニメーション作品は、シンプルなイラストと最小限のモーションデザインで構成されていますが、その余白にストーリーを感じさせ、見る人を引き込みます。まさに「動く絵画」といった感じです。

彼のInstagramページには、上のアニメーションと同じモチーフの静止画作品がいくつも公開されています。静止画作品も動画作品もそれぞれに違った良さが出ているところが驚きです。

好きなデザイン:0DECIBEL

私自身、映像編集やモーションデザイナー、イラストレーターとして活動していることもあり、アニメーションや、イラストレーションが上手く融合されているデザインがとても気になります。特に、少ない要素で物語を感じさせることが最近の自分のテーマでもあり、sunturさんの作品には嫉妬を感じてしまいますが、同時に、私も映像・イラスト・デザインを上手く融合させた作品を、今後制作していきたいと強く感じさせてくれました。

神谷郁、Chief Design Officer、MAMORIO,Inc. (ポートフォリオサイト:Medium

今回ご紹介するのは、ソニーが開発したハイブリッド型スマートウォッチ「wena wrist」のUI/UXデザインです。
wenaというブランド名の語源は「wear electronics naturally」で、もっと自然にウェアラブルデバイスを身につけて欲しいという思いが込められているそうです。そのコンセプトの通り、wena wristには人とテクノロジーを自然につなぐ工夫が凝らされています。

好きなデザイン:wena wrist

スマートウォッチというとタッチスクリーンの製品を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、wena wristは機能をバンド部分に内蔵しており、ヘッド部分は通常の時計です。
充電を忘れてしまっても時刻を見ることはできるので、うっかりな私は助かっています。

wena wristの機能は、電子マネー、通知、活動ログと、いつも身につける腕時計という形を生かした3つに絞り込まれています。通知が来るとバンド部分のバイブレーションと光がお知らせしてくれます。

wena wristとペアで使うwenaアプリのUIもとってもシンプルです。今日使った金額、受け取った通知の数などをグラフで表示し、「ちょっと使いすぎちゃったかも…。」「通知の数が多いから、着信のお知らせだけ受け取ろうかな」といったことをさり気なく気づかせてくれます。

こういったIoTプロダクトでは、使う前にスマートフォンアプリと連携するための初期設定が必須です。この初期設定が、デザイナー泣かせの画面です。どれだけいいプロダクトであっても、ここが分かりにくいと使ってもらえないからです。
wenaアプリでは、初めてのユーザーが一歩ずつ設定できるよう、説明書を一枚ずつめくるような構成を採用しています。ユーザーは安心して着実に設定を進められます。

wenaのUI/UXデザインの好きなところは「必要以上にテクノロジーを意識しなくていい」ところです。
プロダクトを開発するとき、デザインをするとき、作り手はどうしても機能や意匠を盛り込みたくなります。ですが「ユーザーが本当に必要なもの」を考え、要素を絞り込むことが、人々の生活に自然に溶け込み、違和感なく使ってもらえるプロダクトを生むのかもしれません。

私もIoTプロダクトの開発に関わっていますが、自然な形で人々の生活を豊かにできるような、人とテクノロジーをつなぐデザインをしていきたいなと思います。

飯山嘉之、デザイナー、株式会社シナップ(ポートフォリオサイト:Behance

私がご紹介するのは、WebVRプロジェクト「Dance Tonite」です。ニューヨークのダンスロックバンド「LCD Soundsystem」の楽曲を、Web上の仮想現実空間(VR空間)で体験することができます。情報を最低限まで削ぎ落とした無機質さの中にも、心惹かれる点がたくさんあるデザインです。

VR空間を構成しているのは、壁に丸い穴が空いた鮮やかな配色の部屋、部屋の中で踊る円錐と円柱で表現されたダンサー、部屋から部屋へと直進する円、この3つです。楽曲が進むにつれて、黄色い円の入った部屋ではダンサーが様々な踊りを披露してくれます。ビジュアル要素はどれも簡易な図形で構成されたミニマルなデザインです。

空間は3つの視点から見ることができます。俯瞰的に部屋を見下ろす視点、部屋内のダンサー視点、直進する円の視点を、クリックまたはタップで切り替えて体験できます。

好きなデザイン:Dance Tonite

Oskar SchlemmerのTriadic Balletから発想を得たというビビッドカラーの部屋や、黒い背景に映えるダンサーの配色と、音楽にシンクロしたコミカルなダンサーの動きは、ミニマルな中にも暖かさを感じさせます。

HTC ViveなどのルームスケールVRデバイスがあれば、モーショントラッキングで記録した自分の動きをダンサーとしてVR空間にアップロードすることもできます。

インタラクティブなVR体験を、様々な環境下のユーザーに高い品質で届けるべく、情報を適切な粒度に絞りWebVRによって実現したことで、「Dance Tonite」は、デバイスやプラットフォームを問わずアクセスできるコンテンツになっています。

新しいツールや先進的な技術を用いるのは時に困難な課題ですが、ユーザーに届く時には、誰もがわかりやすく簡単に楽しめるように、柔らかくデザインを考えてカタチにしていきたいと思っています。

  AUTHOR

akihiro kamijo

アドビのコンサルティングチームでリードアーキテクトとして主にUIデザインプロジェクトに関わる。現在は独立してデザイン/開発に関連のマーケティング企画や情報発信、プロジェクト支援を行っている。