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「まず人々のことを考える」:UXの開拓者ドン・ノーマンからのアドバイス

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ドン・ノーマンはUXデザインのレジェンドです。1960年代以来、彼はHCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)を先導してきました。また、ユーザー中心設計の提唱者でもあります(彼の好む呼び方ではピープル中心設計)。彼はカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)で、長らく学問に関わってきましたが、アップルのAdvanced Technology Groupのバイスプレジデントなども勤めました。(最初、彼はUXアーキテクトとしてアップルに加わりました。記録上UXという言葉を含む初めての役職です)

現在、ドンはUCSDデザインラボの責任者です。そして、デザインに関する多くの書籍を執筆しています (彼の最も知られた本、「誰のためのデザイン?」は、最近、改定と増補が行われ、新しい版が公開されました)。そんな彼に、様々なレベルのUXデザイナーへのアドバイスを聞いてみました。

あなたは文字通りユーザー中心設計の本を書きました。この言葉は、あなたにとってどんな意味を持ちますか?

1980年代後半、UCSDの私の研究チームは、人々がコンピューターを使う際の困難さについて、大変憂慮していました。当初、私達が調査していたのは、人々とテクノロジー全般との関わりでした。家庭向けのコンピューターが登場し始めた頃、Apple II、IBM PC、MS DOSなどは、どれも人のためにつくられてはいませんでした。そこで、私達は、それらを使わなければならない人のため、デザイン手法の探求をしようと決意しました。そして、私達はUCSDと呼ばれた本を書きました。UCSDは大学の名前であり、同時に、”User-Centered System Design (ユーザー中心システム設計)” という言葉を表しています。

その後、多くの企業、特にアップル、そして徐々にマイクロソフトが、その必要性を理解し始めました。彼らは家庭で使用する製品を販売していましたが、人々はただ困惑していました。コンピューターは、開発者によってプログラムされたものであって、デザインされていなかったのです。コンピューターは、技術用語を使ってメッセージを伝え、操作ミスを犯した相手には文句を言いました。

今では、次々にいくつもの業界が、自社製品を使う人のためにデザインすることが意味を持ち、顧客を幸せにし、コスト削減につながることを理解しています。

ただ、「ユーザー」 という言葉は常に私を悩ませてきました。私は人々をユーザーと呼ぶことが好きではありません。”Human-centered design (人間中心設計)” という言葉を使うようにしましたが、それも私は気になりました。というのは、私は、社会で暮らす人々を指して人間とは呼びません。そのため、現在、私達は ”people-centered design (ピープル中心設計)” という呼び方をしています。

数百万単位の人々のためにデザインするとき、その手法はどのように適用できるでしょう?

私達が考案したピープル中心設計は、数人のためにデザインするには役立つかもしれません。率直に言って、何百万もの人のためにデザインする場合、この手法は不適切です。変種の手法として、アクティビティ中心設計があります。人々が活動のために適切だと感じるものをデザインすれば、人々はそれを受け入れ学ぶというものです。たとえそれが使い辛かったとしても。

バイオリンはその良い例です。バイオリンは奇妙な道具で、演奏するには手、腕、そして指を曲げなければならず、職業病を引き起こすことが少なくありません。多くのバイオリニストがそのために弾くことを諦めています。しかし、誰もが「それがバイオリンというものだ」と考え、バイオリンのデザインへの文句は言いません。

私が話したいのは、これとは正反対のアプローチです。一旦「アクティビティ」を理解したら、それを学ぶために必要なことをしようとするでしょう。例えば、車の運転を学ぶのに必要なことです。それをするのは自然で当然に思えるかもしれませんが、運転を学ぶのに数ヶ月費やしたことが抜け落ちています。

目的を持ってデザインすればよいのですか?

目的というよりは構造の理解でしょう。一般の人はコンピューターや車が欲しいわけではありません。欲しいものは、コンピューターや車が可能にする他の何かです。例えば車であれば、ほとんどの人は移動手段として使用しています。コンピューターも同様です。「何か別のこと」をする道具として使われています。

道具は分かりやすいようにデザインするべきです。適切な道具なら、「何か別のこと」に役立つでしょう。それがアクティビティになります。

ユーザーがアクティビティを完遂できるように、UXデザイナーができることは何でしょう?

多くのUXデザイナーに共通する問題は、細かな点に気を取られることです。メニューについてならスワイプできることが分かるかとか、ページについてなら人々が目にしたものが理解できるか、といったことに力を注ぎたがります。しかし、滅多に一歩下がって、「これは人々が達成しようとしていることではない。よけいな一歩だ」、とは言いません。

人々が本当に何を達成しようとしているのかを考えれば、それがシステムであることを理解するでしょう。デザイナーは立ち止まって、「システム全体をデザインしよう」と言うべきです。そして、主要なアクティビティが簡単に見つけられるようにするのです。私は何が可能か発見できるべきです。何か起きているか知ることができるべきです。操作を戻してやり直せるべきです。このやり直し機能は大変強力で、人々はよく意識して使っています。私の場合、簡単に元に戻せることを前提にした変更を行うことがあります。

こうした全ての考慮点は、今日の最新のテクノロジーに躍起になる中で見失われました。見つけやすさを取り戻す鍵の一つはアフォーダンスです。すなわち何が可能かを伝えるシグナルです。画面のどの箇所がクリックできるのか、ダブルクリックすべきなのか、それともスワイプかを伝えてくれるシグニファイアが必要です。

その他の主要な原則は制約です。これは、いくつかの主要な操作だけを可能にすることで実現できます。それから、フィードバックです。行為の結果何が起こったのか、やり直しが可能なのかを知る必要があります。

UXデザイナーになりたての人、なりたい人にアドバイスはありますか?

私は、デザイナーが受けている教育に不満を持っています。UXデザインの教育にはふたつの取り組みがありますが、どちらも満足のいくものではありません。

まず、昔ながらのデザインスクールです。こちらは、通常は芸術を基礎に、美しさや感情への影響が関心事です。こうした学びはとても重要ですが、本当に必要な、内在する理論や人々の振舞いの理解については教わりません。

もう一方は、HCI分野に由来する学校です。大抵は情報科学の学生が学び、基礎的な理論を理解していますが、デザインはあまり得意ではありません。感覚的に心地よく楽しい体験をデザインする能力が無い人が大半です。理解しやすくすることは得意です。

必要なのはこれら両方のスキルを併せ持つことです。または、少なくとも両者をチームとすべきです。デザインは一人でできるものではなく、チームで行うものです。異なるものの見方や違うスキルを持つ他の人たちと働くべきです。

それから、自分がデザインで支援しようとしている人々が作業する様子を観察しましょう。そして、全ての作業を支援しましょう。作業をちゃんと支援したとき、細部に不満な箇所が残ったり、ぎこちなかったとしても、それは問題ありません。細部を多少しくじっても作業の助けになっている方が、細部を全てきちんとこなして作業の役に立たないよりは、はるかによいことです。

優れたデザインが、製品の利用者のためにできることは何でしょう?

それはパラドックスです。もし正しくデザインすれば、ヒトは気持ちよく目的を達成できるでしょう。その際、デザインに気づくことはありません。不可視であることは、優れたデザインをすることの持つ危うさです。

例えば、UberやLyftは、タクシーを利用する際の主要な面倒事を取り除きました。しかし、目的地について運転手にお礼を言って車を出るとき、ほとんどの人は支払いを容易にしている機能が存在することに、まず気がつきませんし、サービスの優れた点の一つとして取り上げることもありません。人々は本当に簡単にデザインを見逃します。

そこでマーケティングが必須になります。何かをより簡単にしたとき、それが人々の活動を楽にしていたとしても、多くの人々はそのことに気づかないでしょう。マーケティングの役割は、それがどれだけすばらしいことかをみんなに知らせることです。

デザイナーには優れた観察者になることを強く勧めます。物事の仕組みや、人々の働き方を知っていると思い込まないようにしましょう。外に出かけて実際の人々を観察しましょう。それから、私は、反復デザインの大ファンです。機会があれば試しましょう。紙にすばやく絵を書いて、それをシステムを使う人々に見せて、「これで何をしますか?」と聞きます。その場でフィードバックを得て、システム全体について考え、実際に人々が行っている作業を観察します。これを繰り返し行います。

ドン・ノーマンについて、また彼のデザインに対する洞察や助言を更に学びたければ、彼のWebサイトに進みましょう。


この記事はPutting People First: Tips and Advice from UX Pioneer Don Norman(著者:Patrick Faller)の抄訳です

  AUTHOR

akihiro kamijo

アドビのコンサルティングチームでリードアーキテクトとして主にUIデザインプロジェクトに関わる。現在は独立してデザイン/開発に関連のマーケティング企画や情報発信、プロジェクト支援を行っている。