連載  /  

物語から始めるUXデザイン: ストーリーテリングと魅力的な製品デザインの関係を学ぶ | アドビUX道場 #UXDojo

BY 公開

ストーリーテリングは、デジタルデザインの世界にも広がっています。ブランドには「ユーザーが体験する物語」をつくるユニークな手段があることに、人々が気づいたのです。

フリーランスの製品戦略コンサルタントとして活躍するドナ・リシャウは、デジタル製品やサービスの魅力を高めるために物語を利用しようとしている、スタートアップ企業、非営利団体、そして世界的なブランド企業を指導しています。リシャウは、しっかりと組み立てられたストーリーを「最も古くから伝わる無駄のない効率的な手法」と呼び、見過ごされがちなこうした物語を効果的に活用する方法について、世界各地でワークショップや講演を開催しています。

多様なデバイス、画面、イベント、体験が溢れる世界において、自分の持つストーリーを一貫して伝えるには、どのようにUXが利用できるのか、『ストーリーマッピングをはじめよう』の著者に尋ねてみました。

ブランドやユーザーに忠実なデザインを保つにはどうすればよいですか?

ユーザーにブランドと関連付けて欲しいストーリー、あるいはユーザー自身がブランドと関連付けているストーリーを理解することが最善の方法です。

一旦ストーリーを理解したら、それをブランドに関連する製品、マーケティング、セールス、カスタマーサービスなど、人々が体験するすべてのものに組み込みます。顧客がブランドに触れて、ストーリーを体験する機会が増えるほど、自身が得た体験に価値を見出して、いずれは他の人にも同じ体験を勧めるようになります。

ドナ・リシャウ

製品デザインにストーリーテリングの手法を適用するには、何から始めればよいですか?ストーリーを見つける方法は?

まずは、顧客が既存のブランドや製品に対してすでに思い描いているストーリーを探しているのか、まだ書き記されていない新しいストーリーを探しているのかを自問することから始めます。

すでに存在するストーリーなら、顧客と語り、ストーリーに抱く印象や雰囲気、関わり方や具体的な行動の変化を探ります。成功したブランドや製品を対象としているのであれば、ストーリーの出来が良い可能性は高いでしょう。単にそれを明らかにするだけで、取り組んでいる製品の構築や改善に役立てることができます。

たとえば、ファスト・カー・カンパニーというスポーツカーを製造する会社のWebサイト向けに、車をカスタマイズできるウィジェットを新しく構築しているとします。その際に必要なストーリーは、高級車ブランドのエレガント・カーズ社用とは異なるものになるでしょう。人々は、そのブランド、車やディーラーなどと、どのような関係にあるでしょうか?すでに確立していて、少しでも人気があるブランドなら、説得力のあるストーリーが見つかるでしょう。そのストーリーはスピードとクラフトマンシップに関するものかもしれません。それが、車のカスタマイズ機能をどのようにデザインするかを決定します。

ここで重要な点は、発掘したストーリーが、単なるキャッチフレーズや流行語ではなく、構造や行動を促すポイントなどの、デジタル(と映画)の世界でそれを効果的なものにする要素が備わったものであるということです。

ストーリーの構造と働き。人々の製品に対する捉え方と価値の推移を示している。画像提供: ドナ・リシャウ

ストーリーの方向性が正しいことを確かめるには、どのようなツールとテクニックがお勧めですか?

良いデザインと同じように、優れたストーリーはドラフトの作成から始まり、プロジェクト初期には忠実度の低いプロトタイプ、後の段階では忠実度の高いプロトタイプを作成し、公開後もその作業を続けます。

私の本では、いくつかのサンプルや事例を通して、この作業手順を示しています。基本になる考えは、紙面にドラフトを書き、できる限り早く検証して、ストーリーをつくり始めるというものです。ユーザーインタービューで口頭で伝えたり、製品やサービスのコンセプトを試せる紹介用のプロトタイプを使う場合もあるかもしれません。また、Webサイトやアプリを構築しているのであれば、直接紙面にプロトタイプを作成し、その後早めにデジタルに移行する手段もあります。多くの場合、ホワイトボードで数時間もドラフト作成を行えば、ストーリーを実演するための、クリックやタップ可能なプロトタイプを作成できます。

このようにすると、関係者にアイデアを売り込んだり、同僚やユーザーとテストするのに役立ちます。誰かがプロトタイプ操作するのを見れば、意図したとおりにストーリーが展開しているかどうかをすぐに見極めることができます。もし、初期の忠実度の低い状態であれば、デザインを簡単に繰り返し調整することもできるでしょう。開発時には、より定性的な方法 (インタビューやユーザビリティテストなど) で、ストーリーを検証できます。一般に公開したら、Webやモバイルの解析ツールを使用してストーリーの成功度を測定します。優れたストーリーはデータから生まれます。これについても、本で少し触れています。

付箋を使ってユーザー調査から得た情報を壁に並べるとき、ストーリーの転換点を使って考えや洞察を整理することができる。画像提供: ドナ・リシャウ

デザイン、製品、開発チームが、マーケティングや営業と協力しながらストーリーをつくるには、どのような方法があるでしょう?

最も力のあるストーリーは、デザイン、エンジニアリングといった枠を超え、更に顧客の協力も得ながら共同制作されたストーリーです。

実際の顧客と一緒にストーリーを見つけ、プロトタイプを作成してテストをすれば、ストーリーをつくり出しているというよりは、よく踏みならされたあぜ道を舗装する作業に近いと気づくでしょう。

組織の他の人たちとスートリーを制作する場合には、人々にすでに内在していて、しかしまだ言葉にされていないストーリーを見つけるでしょう。ストーリーを表面に出すことにより、他の分野の人と同じ言葉を共有して理解しあえるため、より素早く手際良く作業を進めることができます。これは、何もかもが速いテンポで進むテクノロジー産業では非常に重要です。

ただし、最も重要なのは、組織を超えた人々と共同してストーリーを制作すると、作業を効率的に行えることです。同じように大規模な技術プロジェクトである映画製作で、リスク緩和のため長年使われている方法のように、実際のピクセルやコードに取り掛かる前に、紙面やホワイトボードに描いたストーリーの図表を使って検討を行うのです。この取り組み方なら、コストと手間がかかるデザインや開発の段階になってから迷う前に、皆でストーリーが適切かどうかを確認することができます。

ストーリーテリングを上手に使っているブランドと、その効果に関する実例を教えてください。

これは、ストーリーテリングというよりもストーリー構築の例ですが、現実世界のストーリーを見たいのであれば、日常的に使用するアプリや製品から、お気に入りのもの、利用価値のあるもの、必要不可欠なものを思い描くと良いでしょう。

それが何をするのに役立つか?生活にそのアプリが存在しなければ、どのようにして達成していたか?そのアプリを使用する前は、どのようにしていたか?使用を止めるとしたら、その理由は何か?使用し続けている理由は何か?そのアプリを使ってよかったと最終的に思わせたものは何か?このアプリを他の人にどのように勧めてきたか?

これらすべてがストーリーです。ブランドや製品側のストーリーではなく、自身が持つストーリーです。同時に、ビジネスとして製品を成り立たせているひとりの顧客が持つストーリーなのですから、ブランドや製品のストーリーです。優れたストーリーであるほど、製品の使用頻度が高まり、ブランドに魅力を感じ、多くの価値を見出すようになり、他の人にも同じ体験を勧めているでしょう。これを裏付けるたくさんの理論について私の本で詳しく触れていますが、結論を言えば、最もお気に入りの物について分析することが、実際に機能している最高のストーリーを見つけるのに有効だというのが私の意見です。

Slack誕生の物語の分析。画像提供: ドナ・リシャウ

UXと製品デザインについて映画の世界から学べることはありますか?

何でも学べます。 映画は莫大な予算がかけられた高額で複雑な制作物で、大規模なチーム (多くの場合分散したチーム) によって作られます。映画が成功するには、観衆の心をつかむことが必要です。その基盤はストーリーにありますが、これは映画が演劇や小説からヒントを得た手法です。初期の映画にはストーリーがなく、効果と目新しさに重点が置かれていました。映画がより複雑化するにつれ、映画製作者たちは、ストーリーが成功の鍵であることに気づいたのです。

デジタル製品 (そして人によるサービスなどの、あらゆる種類のビジネス) は、人々が触れて体験するものであるという点で映画に非常によく似ています。優れた映画と同様、製品ビジネスも人の心をつかむことが鍵です。これは時間をかけて起こる関係で、テレビ番組やビデオゲームなどのように、その中核をストーリーに負う物に何年も夢中になるのと似ています。デジタル製品やゲームで選べる選択肢は多種多様だとしても、頭の中に構成されるストーリーは直線的で、その根底には普遍的な仕組みが働いています。製品をつくる際に、そのストーリー (ほとんどの場合、複数のストーリー) が何であるか、そして何がストーリになる可能性があるかを特定し、時間の経過とともにストーリーが強化され、それが繰り返される状況を準備するのは、デザイナーであるあなたの役目です。

リシャウのその他の仕事は、同氏のWebサイトをご覧ください。


この記事はStory-First UX Design: Donna Lichaw on Using Storytelling to Craft Products That Engage(著者:Oliver Lindberg)の抄訳です

  AUTHOR

akihiro kamijo

アドビのコンサルティングチームでリードアーキテクトとして主にUIデザインプロジェクトに関わる。現在は独立してデザイン/開発に関連のマーケティング企画や情報発信、プロジェクト支援を行っている。