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UXが気になるグラフィックデザイナーは知っておきたい大事なコト

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グラフィックデザインとUXデザインは、多くの重なる領域を持つ近い間柄に見えます。実際、グラフィックデザインの教育を受けてからUXに転進した、優れたUXデザイナーは何人もいます。

UXデザインへの職業としての注目と必要性が高まる中、2つのデザインのどこが似ていてどこが違うのか、詳細に理解するのはデザイナーにとって重要です。基本的に、グラフィックデザインもUXデザインも、デザインを通じて問題を解決する点は共通していますが、一方で、はっきりと異なる点もいくつか存在します。

グラフィックデザインは一種の視覚的なコミュニケーションです。グラフィックデザイナーは、画像、色、シンボル、テキストを使用して、メッセージやアイデアを伝えます。人類はその存在の早い時期から、視覚コミュニケーションを利用してきました。そして、印刷メディアの発明が、その利用方法とデザインツールに革新をもたらしました。

一方、UXデザインは、コミュニケーションという側面よりは、(デジタルの)製品やサービスを使う体験の強化に重心があります。UXデザインのルーツは、人的要因の研究や人間工学、そしてHCI(Human Computer Interaction – 人間とコンピューターの相互作用)です。UXデザインは、人々と、機械やコンピューターとの関わり方をデザインする必要性から発展しました。

UXデザインを始めるのにすぐに役立つグラフィックデザインのスキル

グラフィックデザインの素地を持つなら、UXデザインに転用が可能で意味のあるいくつかのスキルを既に保持しています。真っ先に挙げられるは、見た目の美しさを強化する能力です。並べ方や情報の階層化、そしてレイアウトを詰めるための豊富な知識が役に立ちます。優れたビジュアルデザインは、間違いなくユーザー体験を向上させ、そのため、「美的ユーザビリティ効果」として知られる原則もあります。ニールセン・ノーマングループのケイト・メイヤーは、この原則について、「ユーザーがビジュアルデザインに対する肯定的な感情を示すと、サイトの些細なユーザビリティの問題には寛容になる」と解説しています。

グラフィックデザインの、細部へのこだわりとコミュニケーションへの注力は、優れたユーザー体験の良い支えとなり、デジタル製品を引き立てるでしょう。デザインは確かに詳細に宿り、グラフィックデザイナーの技能の多くは、詳細を十分に検討することに立脚します。

これらのスキルは、UXの他の側面も強化します。例えば、調査結果を視覚的に説得力のある見せ方で提示する場合です。グラフィックデザインの経験を持たないUXデザイナーにとっては、これがやや困難な作業になりがちなことが知られています。一般的に、洗練された美しいドキュメントやプレゼンテーションを整えられることは、デザイン畑で働く誰にとっても、とても有用な能力です。

UXデザインを実践するために鍵となる視点の切り替え

以上のように共通性はあるものの、UXデザインとグラフィックデザインの間には、はっきりとした根本的な違いがいくつかあります。そのため、グラフィックデザイナーから転進したい人は、少し物の見方を変える必要があるかもしれません。特に、UXデザインは静的なデザインよりもしっかりとしたプロセスが必要で、ユーザー調査やテストはその主要な作業の一部です。UXデザインにとって重要な3つの視点を以下に紹介します。

  • 作業に合った適切な忠実度を選ぶ(ピクセル単位以外も)

    グラフィックデザイナーは、美しくて洗練された製品をつくることに慣れています。コンセプトを描く場合も、アイデアを完全に伝えようとして、忠実度の高い表現をすることがよくあります。

    UXデザイナーとしては、プロセスの効率化を念頭に置いて、適切な忠実度を選ぶ力が重要です。例えば、ドキュメントにあまり依存しない開発手法を採用したチームであれば、コンセプトはホワイトボードへの簡単なスケッチでも十分でしょう。ユーザーテストの場面なら、調査の目的や、プロセスのどの段階で行うかによって、テストに使うプロトタイプに適切な忠実度は大きく変わります。必要ならば、磨き上げて完成した見た目をつくりたいという気持ちを押さえられるのは、UXデザイナーの心構えとして重要です。

  • 使うためにデザインする(コミュニケーションや美しさのためでなく)

    UXデザインは、人々が簡単にそして楽しく使える体験をつくることがすべてです。これは、視覚的なひねりや気の利いたタイポグラフィーを用いたコミュニケーションを考えることと比べて、ずっと機械的で、あまりクリエイティブに感じられないかもしれません。しかしIntercom製品担当部長のポール・アダムスが指摘するように、「これまで何度となく、醜い見た目の製品が成功し、美しい見た目の製品が失敗するのを私達は目撃してきました」。

    この記事の始めに書いたように、美しさは、製品の体験そしてユーザビリティにさえも実際に影響を与えます。しかし、それだけでUXデザイナーの仕事が終わるわけではありません。使うためにデザインすることは、コンセプトを理解してそれを実現させる行為とも言えます。UXデザイナーの中に、ビジュアルデザインに全く関わらない人がいるのは、心に留めておく価値のあることです。

  • 調査とテストを重視する(クリエイティブなひらめきよりも)

    UXデザインの重要な段階に「調査」があります。ユーザーのニーズや状況を理解するための情報収集が目的の調査も、デザイン中の製品の使い勝手を試す評価目的の調査もあります。グラフィックデザインは個人努力になることが多いかもしれませんが、UXデザインでは、必然的に、他の人々とやり取りして、彼らを理解することが求められます。ユーザーインタビューを行い人々のニーズや動機を深く掘り下げたり、ユーザビリティテストで自身のデザインが悲惨にも失敗する様を進んで見ることは、UXデザイナーとしては譲れない行為です。「ニーズの発見」と「ユーザー調査」は、グラフィックデザイナーにとっては、新しく学ぶ領域かもしれません。手始めに読む本としては、Interviewing UsersJust Enough Researchの、どちらもとてもおすすめです。

    UXデザイナーは、絶え間なくユーザーを意識することが求められます。考えるべきは、対象であるユーザーの体験の手助けであり、自身がユーザーではないことの自覚です。最終的な成果物が自分に魅力的である、自身のクリエイティブな美的感覚を満足させる、のどちらもUXデザイナーにはあまり意味を持ちません。デザイナーの仕事が成功か失敗かを決めるのはユーザーだからです。

補完するものだが、異なるもの

UXに特化したツールは多数存在しますが、特にUXに乗り換えたいグラフィックデザイナーへの良い知らせは、ツールにも両方の分野に使えるものが存在することです。中でも、Adobe XDのような新しいツールは、プロトタイプ作成をはじめとするUXの作業との隙間を埋めてくれます。

グラフィックデザインとUXデザインには、共通するスキルがいくつもあり、確かに相互に関係する分野です。その間にある繊細な差異を理解することは、必要なスキルの習得や、進路の判断を明確にするよい助けになるでしょう。


この記事はWhat Every Graphic Designer Thinking About UX Should Know(著者:Linn Vizard)の抄訳です

  AUTHOR

akihiro kamijo

アドビのコンサルティングチームでリードアーキテクトとして主にUIデザインプロジェクトに関わる。現在は独立してデザイン/開発に関連のマーケティング企画や情報発信、プロジェクト支援を行っている。