イラストレーターのための「著作権」入門講座 : 第四話 肖像権ってどんな権利?#AdobeStock

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日本人で初めて「Adobe Creative Residency プログラム」に選出されたイラストレーター、福田愛子さん。さまざまなクライアントと仕事をするなかで、著作権に関する疑問が増えたといいます。

そこでお話を伺ったのが、日本を代表するイラストレーターの団体、東京イラストレーターズ・ソサエティ。なかでも著作権に詳しい会員で構成された「TIS著作権委員会」のみなさまに、福田さんの疑問を投げかけました。

第四話では、著作権に類する権利である肖像権について学びます。イラストレーターはもちろん、すべてのクリエイターに読んでいただきたい連載です。

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■人物をモデルにする場合は、肖像権にも注意しましょう。

F:写真資料を使う際に著作権者から許可を得ることの重要性を伺いましたが、人物写真を使う場合、モデルからの許可はいらないのでしょうか?

T:ケースバイケースですね。人物をモデルにする場合には、肖像権が関わってくるからです。肖像権は著作権とは異なる権利ですが、理解しておいて損はないと思います。

F:ぜひ肖像権についても知りたいです。どのような権利なのでしょうか?

T:肖像権とは、自身の容姿や姿態をみだりに利用・公表されないための権利です。日本では肖像権に関する法令はありませんが、プライバシーに関する権利として古くから判例で認められています。代表的な判例は次の通りです。

F:なるほど。この判例は写真に関するものですが、イラストについてはいかがでしょう?

T:イラストについても、それが人の容姿や姿態を描写したものであれば、みだりに公表してはならないとされています(最高裁平成17年11月10日判決・和歌山毒カレー事件)。人物写真をもとに描かれたイラストでも同様で、モデルの許可がなければ肖像権の侵害となる可能性があります。

ただイラストの場合は、写真よりも作者の主観やタッチが作品に反映される割合が大きいため、肖像権の侵害にあたるかはイラストの特質を考慮した上で判断しなければならないとされています(同最高裁判決)。

F:具体的にはどのように線引きされるのですか?

T:先ほどもあげた新ゴーマニズム宣言事件の判決が参考になります。

つまり、写真のように写実的に描く「肖像画」ではなく、作者がデフォルメして描く「似顔絵」なら、肖像権の侵害にはあたらないと考えられます。

■有名人の肖像は、それ自体が財産です。

F:有名人の似顔絵を描いてSNSにあげているイラストレーターもいますが、ああいった作品も問題ないのでしょうか。

T:有名人の似顔絵を描く行為自体は表現の自由の範囲内ですので、その人の名誉や社会的信用を低下させるものでない限り肖像権の侵害にはならないと考えられます。ただ、有名人の肖像には「肖像権」とは別に「パブリシティ権」があることにも注意してください。

F:聞きなれない言葉ですが、どのような権利でしょう?

T:俳優、芸能人、スポーツ選手などの肖像には、商品の販売において有益な効果(顧客吸引力)があります。これを財産的価値と捉えて、他人から無断で利用されないようにするために定めたのがパブリシティ権です。過去の判例では、次のような場合にはパブリシティ権の侵害になるとされています。

F:つまり、商業利用する場合には、許可が必要だということですね。

T:その通りです。まとめると、その人の人格を貶めるものではなく、商業的に利用するのでもないのなら、本人の許可を得ずに有名人の似顔絵を描いてSNSで公表しても問題はありません。

F:なるほど! それを聞いて安心しました。

■公人や歴史上の人物に、肖像権はありません。

F:そういえば、「政治家は公人なので許可を得ずにモデルにしても問題ない」と聞いたことがあります。これは正しい情報でしょうか?

T:はい、政治家だけでなく、学者や芸能人、スポーツ選手、公務員なども含めて、社会的な立場にある人は「公人」とされ、肖像権はないとされています。

F:公務員まで「公人」に含まれるのは意外でした。ただ「社会的な立場にある」の判断が難しそうですね。

T:そうですね。公務員でいえば、上級職のキャリア官僚の場合は公人といえますが、県や市の一般職員となると微妙なラインです。

また、公人といえども、その人を公人たらしめる活動である「公務」から離れた姿を描くのは問題です。私生活の領域にまで踏み込み、公表されたくない姿をイラストにすることは、プライバシーの侵害にあたるでしょう。

F:過去の芸術家や政治家など、歴史上の人物を描く場合はどうですか? また肖像権に著作権のような保護期間はありますか?

T:肖像権に保護期間はありません。本人の死亡とともに消滅します。肖像の財産権的側面(パブリシティ権)については、財産権なので遺族に相続または譲渡される可能性もありますが、現状ではこれを認めた判例はありません。したがって遺族への許可取りも不要です。

F:そうなのですね。

T:ただ、歴史上の人物をイラスト化する際には肖像写真などを参考にしますよね? この場合、写真の著作権が残っている可能性があります。

F:そうでした! 撮影者からの許可を得ていなければ著作権の侵害になる可能性があるということですね。

T:その通りです。ちなみに、著作権は著作者の死後50年間は消滅せずに残ります。

■一般の人の肖像権が問題になるケースは稀です。

F:資料写真の一部に写り込んだ人を描く場合はどうでしょうか? 肖像権の侵害になるのでしょうか?

T:そのケースを考える上で参考になるのが、写真の「写り込み」について規定した著作権法30条の2です。ここでは写真中に他人の「著作物」が写り込んでしまっても、それが「軽微な構成要素」であれば、複製や翻案などができると認めています。

これにならって、イラストレーションに「肖像」が写り込んでしまった場合でも、「軽微な構成要素」であれば複製や翻案は可能だと考えられます。つまり、肖像権を侵害せずにイラスト化できることになります。

F:なるほど。ちなみに有名人をイラストにする場合には、パブリシティ権を侵害しなければ本人の許可は必要ないとおしゃっていましたが、これは一般人の場合も同じでしょうか?

T:そうですね。そもそも一般人の肖像にパブリシティ権はないため、ほとんどのケースで肖像権の侵害が問題となることはありません。もちろん、その人の名誉を侵害したり、他人に知られたくない姿を描くことは問題で、名誉毀損やプライバシーの侵害にあたります。

F:特定の個人を貶めるようなイラストを描いてはいけない。ある意味であたり前のことですね。

T:そうですね。有名人、公人、一般人といずれのイラストを描く場合も、そこに気をつけていれば、大きなトラブルは起きないはずです。

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次回は、「著作権以外に押さえておきたい権利。」です。どうぞお楽しみに。

<プロフィール> 

  • 福田愛子

ブリッジウォーター州立大学芸術学部グラフィックデザイン学科卒業。2014年よりイラストレーターとして活動を本格化現在は東京を拠点に国内外で活動する。1本のペンから描かれる味わいあるタッチを軸としつつ、アナログとデジタルを融合させた作品を制作。主な仕事は、雑誌BRUTUS「男の色気」イラスト連載、資生堂マジョリカマジョルカ「MAJOLIPIA」など。2019年には、日本人めてAdobe Creative Residency プログラムに選出された。 

 

  • TIS著作権委員会

一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティにおいて結成された、著作権について弁護士の協力のもと学び研究する委員会2018年、著作権をはじめとしたイラストレーターのさまざまな悩みに応える『Q&Aでわかる! イラストレーターのビジネス知識』を玄光社より発刊した。