市川リョウコ「ベクターも描けるAdobe Frescoは仕事の幅を広げてくれる」 Adobe Fresco Creative Relay 09

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アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募はかんたん、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートをハッシュタグをつけて投稿するだけです。
11月のテーマは「宇宙」。
宇宙というとどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。さまざまな星たちが散りばめられた広大な空間、満点の星空、宇宙旅行、果ては宇宙人まで。みなさんが思い描く“宇宙”をAdobe Frescoで描いて、 #AdobeFresco #宇宙 をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第9回はイラストレーターの市川リョウコさんにご登場いただきました。

“何でもアリ”な宇宙のファンタジー

「テーマが“宇宙”と聞いて、まず一番最初に出てきたイメージは宇宙飛行士でした。それをファンタジーのような世界観にできないかなと考えたのがスタートです。
私の場合、イラストのスタイルがシンプルなので、リアルできれいな宇宙空間は描けません。それなら、楽しい感じのものを描いていきたいなと思って。まず、楽しそうに浮かぶ宇宙飛行士を黒で塗った宇宙空間に描いて、そこからちょっとずついろんなものを置いていきました。星をつまんだり、抱えたりしているスケール感も、ファンタジーの宇宙なら“何でもアリ”ですから(笑)。
“宇宙”と聞くと星だけでなく、惑星や星雲が思い浮かんでしまうのは、ニュージランドで星空ガイドをしていたとき、天体望遠鏡で見ていたイメージが残っているのかもしれませんね」

遺跡発掘、そしてニュージーランドで星空ガイド

やわらかい線と心地よい色づかいが魅力の市川リョウコさんのイラスト。実はこのスタイルに至るまでには、長い長い、試行錯誤と葛藤がありました。

「わたしはもともと“イラストレーターになりたい”と思っていたわけではありませんでした。美大(東京造形大学)も単純に“絵を描くのが好き”という理由で入り、学芸員になるための勉強をしていたのですが、学芸員の勉強をしているうちに“絵を見ること”もさらに好きになり、草間彌生さんの作品に圧倒されてから現代美術も好きになって。いま振り返ると、“何がやりたい”“こういう仕事に就きたい”というよりも、”何が好きか”という理由だけで行動をしていたのでしょうね。
大学生の頃はスケッチ、デッサン、水彩……と、目に見えるものはなんでも描いていましたが、それでもイラストレーターになることを将来の夢として思い描くことはなかったんです」

レポートを書くために博物館、美術館をめぐり、多くの美術に触れていた市川さんは、将来につながることになる、ひとつのバイトに巡り合います。それはなんと「遺跡発掘」でした。

「遺跡や歴史が好きだったということもありますが、たまたま近所で募集があったので(笑)。単位はほとんど取得していたので時間もありました。在学中は発掘作業をしていたのですが、卒業後、その会社の方から声をかけていただいて、遺跡調査の報告書制作の仕事をすることになったんです。Adobe Illustratorで図面を作り、Adobe InDesignでレイアウトをする、いわゆるDTPですね」

4年間、ここで働きながらアート制作していた市川さんは、“このままではよくない”と環境を変えることを決意。次に選んだ行き先はニュージーランドでした。

「ニュージーランドには知人がいたので不安はありませんでした。ほとんど旅をして過ごしていたのですが、そのなかで出会ったテカポの景色に一目惚れしてしまって。ここにしばらく留まろうと思っていたら、ちょうど日本人向けの星空ツアーのガイドの仕事が見つかったんです。
このツアーガイドの仕事は、ただ星空に浮かぶ星座を解説するようなものだけではなくて、巨大な天体望遠鏡で木星やマゼラン星雲を見てみるような、天文学的なガイドで。今回のイラストもテカポで見た星空、星のイメージが出ているんじゃないかなと思います」

なお、ニュージーランド滞在中もスケッチブック、クロッキー帳は常に手元にあり、いい景色と思えば筆を走らせ、ときにはその姿に人だかりができることもあったそう。“絵を描くのが好き”という気持ちは変わることはありませんでした。

イラストも描けるデザイナーか、イラストレーターか

1年間のニュージーランド滞在を経て帰国した市川さんは、エディトリアルデザインの事務所に就職します。
デザイン作業をすることもあれば、デザインの一要素としてカットイラストを描くこともありました。

「イラストも描けるデザイナーが少なかったこともあって、とにかくたくさん描きましたね。といっても、自分の作風のようなものは出さず、求められるタッチで描くんです。“水彩画風で”と言われればそのように、“Illustratorではっきりしたラインで”と言われればIllustratorで描く……その作業は嫌いじゃありませんでしたし、ある意味鍛えられたと思うのですが、自分の作品を描く時間がまったく取れなくなってしまって。
それなら、いっそのこと、イラストレーターとして活動できないかと思い、退職を決意しました」

しかし、イラストレータとしての作風が定まっていなかった市川さんは、なかなか仕事に結びつけることができず、暗中模索の日々を送ることになります。

「その頃の絵は自分でも迷いがあり、完成されていない絵でした。デザイナーとしての自分の目から見ても、需要がない絵だったんですね。
そこで、“じゃあ、需要のある絵ってどんな絵なんだろう”と見つめ直すところから始めました。
自分が好きなものは、ディック・ブルーナやサヴィニャック、東欧の絵本……それならもっとシンプルな線のほうがいいんじゃないか。イラスト作品はアクリルで描いているけれど、Photoshopで描くほうが合っているんじゃないか。とにかく試行錯誤の日々でした」

そうした葛藤を抜け出すきっかけを作ったのは、あるプロジェクトの仕事でした。そして、そこで描いたイラストは市川さんのスタイルを決定づけるものになりました。

「“もし『The Tokyoiter』という雑誌があって表紙のイラストを依頼されたら”というテーマで国内外のイラストレーターがそれぞれの東京を描き、雑誌の表紙を作るというプロジェクトでした。
この『The Tokyoiter』のイラストで自分のスタイルを作り上げようと思い、1年かけて、ようやく納得のいくイラストを描き上げることができたんです。これは自分の自信にもつながりましたし、このスタイルで描いたポートフォリオを作ってから、一気に仕事が広がりました」

The Tokyoiter|http://www.thetokyoiter.com

そのスタイルとは、シンプルな線、限られた色とセンスにあふれる計算された配色、整理された構図、そして“群衆”です。描き出される世界観はやさしく、おだやかで静かなトーン。目にした人をほっとさせる包容力を持っています。

「最初にこの色を使うという3、4色を決めて、そこから描いていきます。スタートはまず色ありきですね。色数を絞っているので肌の色にあう色がないときもありますが、たとえ肌が青や赤になってしまってもイラストとしてはおもしろいんじゃないかと思って。いろいろチャレンジしながら描いています」

Photoshopに移行してイラストの質も上がった

イラスト作成にPhotoshopを採用しはじめたのは、実はデザイナー時代から。スタイルが確立したいまは、完全にPhotoshopで描くようになりました。

「“アナログで描いてこそイラストレーター”と思っていた時期もあったのですが、デザイナー時代に仕事で描いていたイラストは、すべてペンタブレット+Photoshopだったんです。自分のイラスト作品も効率を追求するなかでデジタルに移行していきました。
やっぱりデジタルのほうが描き直しもかんたんですし、表現方法も幅広い。時間が節約できることで、イラストの質を上げるために時間を使えるようになりました。結局、デジタルのほうが性に合っていたのでしょうね。
群衆のイラストの場合、Photoshopでまず色を決めてから人を描いていき、少しずつ組み合わせて構成しています。人はそれぞれ別のレイヤーで描かれているので、人が重なって隠れているところも実は描かれているんです。コラージュのような感覚で構成をしています」

Adobe Fresco+Photoshop、驚きの連携法

これまでもペンタブレット+Photoshopで描いてきた市川さんは、iPad上で動くAdobe Frescoにどのような印象を持ったのでしょうか。率直な感想を伺いました。

「まったく違和感なく描けます……というのは、わたしがいま試している作業環境が、iPadをSidecar(新しいmacOSに搭載されているiPadをディスプレイとして使う機能)でMacと連携させて、iPad上のPhotoshopで描くというものなんです。iPad上でデスクトップ版Photoshopを使っている状態ですね。
Adobe Frescoは、sidecar上のPhotoshopに比べてはるかに反応がよく、機能もシンプルなぶん、Photoshopよりもさらに描きやすい。iPadが最新でないこともあるのか、Sidecarで表示したディスプレイは少し反応が鈍くなることもありますが、Adobe Frescoで描いたものを、iPadのままデスクトップ版のPhotoshopに切り替えて作業ができるのでとても作業効率がいいんです」

Arioのお仕事はAdobe Fresco+Photoshopを組み合わせて描いた最初のイラストで、その作業スタイルはすでに実践投入済み。
ペンタブレット、液晶タブレットも使いつつ、常に新しい、効率的な作業環境の模索にも余念がありません。

株式会社イトーヨーカ堂 ショッピングセンターArio|Ario夏のWOWメインビジュアル

ベクターデータもAdobe Frescoなら対応できる

市川さんが注目しているAdobe Frescoの機能のひとつに「ベクターブラシ」があります。
これはペンの描画をピクセルではなく、ベクターデータとして描く機能です。

「イラストがシンプルなこともあって、ベクターデータで納品してほしいという依頼もいただきます。でも微妙なにじみを持たせた線が絵の特徴にもなっているので、そうしたニュアンスを損なわずに、Illustratorでなぞっていく必要がありました。
こうした依頼があったとき、いままでは“時間がかかります……”というお答えしかできませんでしたが、Adobe Frescoのベクターブラシなら、その手描き感をのこしたままベクターデータにできる。これはお仕事が広がりそうだぞ、と思いました」

今回のイラストはすべてAdobe Frescoのベクターブラシで描かれており、最後にデスクトップ版Photoshopでテクスチャを加えて仕上げられています。

「Adobe Frescoとデスクトップ版Photoshop、このふたつの組み合わせには、新しい可能性を感じています。ノートパソコン+iPadさえあれば、いつでもどこでもイラストが描けるし、仕事ができるようになるのですから」

イラストレーター
市川リョウコ

web|https://ricoliro.com
Behance|https://www.behance.net/ryokoichikawa
Twitter|https://twitter.com/ricoliro11
Instagram|https://www.instagram.com/ricoliro/

POSTED ON 2020.11.19