「3Dデザインの普及」に期待するプロのクリエイターが増えている理由

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わずか60年前の映画館では、3Dはごく珍しい演出でしたが、今ではコンピューターが生成する映像が映画界を席巻するまでになっています。グラフィックデザインの世界でも同様に、人々は3Dの普及を目の当たりにしています。プロのクリエイターにとっては見逃せない動きです。

最近のあるトレンド記事には、グラフィックデザインに3Dが浸透しているさまが記述されています。ネオモーフィズムに見られる3Dの外観や、現実の物理法則に従う視覚効果など、イラストレーション、アニメーション、そしてタイポグラフィさえも、3D要素を含むよう進化しました。また、2Dに3Dの要素を組み合わせたアイソメトリックデザインや、3Dイラストをアニメーション化した動画のようなミクストメディアも見られます。BBC Twoのブランド変更が示しているように、ブランドアイデンティティも例外ではありません。

Adobe Dimensionで制作されたキャティ・トレハンの作品 Memory Palette
Adobe Dimensionで制作されたキャティ・トレハンの作品 Memory Palette

こうしたトレンドは偶然ではなく、デザインの最前線に3Dを提供する多くの技術の登場によるものです。伝統的に習得が困難で制作コストが高いとされてきたこのアートの形式は、今では人工知能(AI)と機械学習(ML)技術の恩恵により、利用しやすく直感的なものになりました。たとえば、最近の3Dツールでは、デザイナーは現実世界の物理法則に基づいた照明やテクスチャを簡単に適用できます。といっても、必ずしも現実を制作する必要はありません。

デザインにおける3Dの力

3Dの流行には数え切れないほどの利点があります。まず、3Dはグラフィックデザイナーのクリエイティブな表現力を高め、強化します。同時に、グラフィックデザインをより効率的にします。

「3Dは現実世界を真に反映することができる手段です」とアドビのプロダクトマネージャーでデジタルアーティストのジャネット・マシューズは言いいます。「本物に近い形でアイデアを共有できるリアリズムは、抽象的な表現を用いた場合と比べると、コンセプトの理解度において大きな違いを生みます」

しかしながら、3Dの持つ力はリアリティだけに限らないと彼女は言います。「3Dはまた、不可能だったはずのことを可能にします。たとえば、アイスクリームで車をつくることだってできるでしょう。これは、実現不可能なのに本物らしい見た目を持つ興味深い組み合わせのシナリオです」

Elasticは、長編映画やテレビ番組のために高レベルのタイトルシーケンスをつくることを専門とするクリエイティブデザインスタジオです。彼らの成功のために、これまで常に3Dは重要なファクターでした。HBOの「Westworld」、「Game of Thrones」 「His Dark Materials のオープニングタイトルのシーケンス、あるいはAppleやGoogleの目を見張る広告は、よく知られている彼らの作品です。こうした壮大なビジュアル体験をつくるために、Elasticはアドビのの3DテクスチャリングソフトウェアSubstanceのようなAIが支援するツールを使います。

Elasticの3D作品
出典: Elastic TV

「3Dを使用すると、強力なクリエイティブなコンセプトを2Dの枠を超えて発展させて、クライアントがすぐに反応するような、より充実したものへと昇華させることができます」とElasticのクリエイティブディレクターであるクラリッサ・ドンレヴィは語ります。

Elasticのエグゼクティブプロデューサーであるルーク・コルソンは、これに次のように付け加えます。「私たちのデザインプロセスでは、アニメーションに着手する前に、まず3Dの作成を進めます。すると、私たちがアイデアをクライアントに売り込むとき、実際の制作プロセスを開始する前であるにも関わらず、クライアントは完成した製品がどのように見えるかを知ることができます。つまり、放映される最終的なシーケンスとほぼ同じくらい完成した、完璧な見た目で、美しく、競争力のある一コマをつくるのです。これは以前の状況を大きく改善しました。かつて私たちは、クライアントにコンセプトを提示して、そこからのクリエイティブで想像力豊かな飛躍を要求していたものです。今では、作業を迅速かつ容易に進められます。表現力も大幅に向上しました」

3D革命への参入

それでも、Elasticで働くすべてのデザイナーが、すぐに3Dの力を使いこなせるようになったわけではありません。3Dは伝統的に参入の敷居が高い分野でした。「たしかにチャンスはたくさんありますが、技術的なハードルもたくさんあります」とジャネットは話しています。

伝統的なアニメーターとして訓練を受け、テレビ業界でデザイナーとして働いた経歴を持つアンナ・ナッテラーは、3Dの技術的な学習曲線の厳しさに加えて、価格の高さにも阻まれました。「仕事でいろいろな3Dソフトを試してみましたが、どれもあまりに複雑で、しかも普通の人には手が届かない高価なものでした。フリーランスとして働き始めたとき、顧客が付いていない仕事のために30万円から40万円もの代金を払うことはできませんでした」

Adobe Dimensionで制作されたアンナ・ナッテラーの作品 Crystal Castle
Adobe Dimensionで制作されたアンナ・ナッテラーの作品 Crystal Castle

グラフィックデザイナーでビジュアルアーティストのキャティ・トレハンが3Dの力に気付いたのは、それほど昔のことではありません。ですが、当時はその外側に立って、中をのぞいているような状態でした。「当初、私は、写真を編集したいと考えていたものです」と彼女は振り返ります。「その後、適切な写真を探してきてそれを自分の望む形に変形させる必要はなく、ゼロからすべてを自分の望む通りにつくれるのだということに気づきました」

しかし、当時の3Dツールでは、使い方の学習から始めたときの参入障壁は高いものでした。「私がそのツールを開いた時、その画面は本当の本当に威嚇的でした。それを定期的に行うには強い自制心が必要でした。そのためほとんど信仰にも近い気持ちを持たなければなりませんでした。特に、当面の実際の課題が、現実とその再現方法を理解することだと気づいたことは、一番の苦痛でした。実際に光がどのように刺すのかを理解するのは達成の困難なプロセスです。周囲のテクスチャを見回して、それを3Dに変換しなければなりません」

幸いなことに、こうした障壁は、新しい技術により克服することができる種類のものです。

AIで3Dの壁を乗り越える

クリエイティブツールへのAIと機械学習の採用の増加は、3Dデザインの制作体験の単純化を支えています。Adobe Sensei(アドビのAI/ML技術)が可能にした機能を備えるDimensionやSubstanceのようなツールを使用すると、プロのクリエイターは、ビジュアル、ストーリーテリング、複数メディアでの体験に、容易に3Dデザインを取り入れられます。

「SubstanceのようなAIを活用したツールの使用に関しては、長くて退屈な作業を短縮できる点が評価されるようになってきました」とクラリッサは考えています。「特定の動きや振る舞いを作成したり、奥行と雰囲気を併せ持つ光の反射を作成したりといったことが、以前よりも簡単にできるのです。それは私たちのビジョンを、これまでよりもずっと素早く、大抵はリアルタイムで実現してくれます」

Dimensionは、3Dデザインの学習曲線をなだらかにします。さらに、3Dプロセスに伴う多くの面倒な作業を不要にします。例えば、3Dモデルの表面にグラフィックを即座に配置することできます。以前なら、UVマッピングと2Dテクスチャを作成してから3Dオブジェクトに張り付けていたかもしれません。これは数時間を要するかもしれないプロセスで、さらに専門的なトレーニングと広範な実践経験が必要とされました。

「私たち人間が現実世界に触れるとき、色だけを感じているわけではありません」とアドビのリサーチディレクターであるネイサン・カーは指摘します。「物体は輝き、反射します。その表面には光沢があり、材質ごとに外観が異なります。3Dデザインへの最新ソリューションを使用することで、デザイナーは光と素材をインタラクティブに、楽しく扱うことができるようになります」

アドビの3D&immersive部門でリサーチディレクターを務めるタミー・ボブカーはこれに続けて「例えば、AIが駆動するシステム『Image to Material』は、一枚の写真から3Dマテリアルを生成します」と解説します。彼によると。このAIシステムは手続き型の処理も併用しています。何らかの特徴を抽出するためのルールセットです。手続き型の処理はAIを補完し3Dを高速化するために使われます。それと同時に、非破壊的であるという利点もあります。そのため、ユーザーは、3Dパイプラインの中で正確な調整作業を行うことができます。

また、Image to Materialでは、撮影された写真に含まれる光源を暗くしたり、シャドウを削除したり、ハイライトを検出したりすることができます。AIを使用すると、周囲の光によってどのような暗さや影が発生しているか、そして、固有のカラーバリエーションによってどのような効果が発生しているかを判別できます。さらに、高品質なトレーニングのお陰で、Image to Materialは非常に正確な法線マップと高さマップを生成します。

「実際には2つの技術の組み合わせです」とタミーは言います。「1つは、すべてを統合する手続き型のグラフィックス技術です。もう1つはAIで、こちらが学習と関係しています。合成と学習それぞれの側の最先端の技術を組み合わせると、アセットひとつから表現する力を引き出せます。それは大きな力です」

AIによるクリエイティビティの民主化

デザインにおけるAIの進化と浸透は、経験豊富なチームがクリエイティブな境界を押し広げることに貢献しただけではありません。個々のデザイナーやアーティストがスキルを高め、領域を拡大することも可能にしてきました。

「Dimensionの前に座って、モデル、グラフィック、マテリアル、照明などを利用すると、写真のようにリアルな3D作品を数分でつくることができます」とジャネットは言います。この製品はAdobe IllustratorおよびAdobe Photoshopと統合されていて、2Dグラフィックデザイン要素を既存のワークフローに簡単に取り入れられます。

Dimensionには、2Dの背景画像と3Dシーンを、一枚の写真のようなリアルな描写で即座に合成する機能もあります。Dimensionは、組み込みのAI機能とML機能を使用して、背景写真の地平線と照明を自動的に検出し、遠近感と照明の両方に合わせて3Dシーンを調整します。これにより、合成プロセスに必要な困難ないくつかのステップが自動化されます。写真と3Dシーンの間の一体感を維持することは難しい作業で、リアルさを求めると数時間かかる場合もあります。それが数秒でできるのです。

「オブジェクトのライティングを間違えると、シャドウが間違った方向に移動し、シーンの一部のように見えなくなります。このAI技術は、1回のクリックで複数のステップを実行します。その結果、オブジェクトを画像の前に配置した瞬間に、互いが一体化したように見えるのです」とネイサンは説明します。

3Dデザイン革命の次のステップ

AIを利用した新しい3Dツールがデザイナーによる3Dの利用を一般化するにつれ、クリエイティブの可能性は際限なく広がっています。Elasticの3Dチームのトップであるカーク・シンタニは、より魅力的な顧客体験を作り出すためには、これらの強力な新しいツールと既存のツールの両方を適用する必要があると考えています。

「どのようにすれば、単に実行するために実行するのではなく、実際に目的を与えてくれるユニークかつ創造的な方法で、すべての技術を活用できるのでしょうか」と彼は問いかけます。「私の考えでは、主要なタイトルシーケンス、コマーシャル、その他のメディアを視聴者にとってより良い体験にするために、各領域を横断してデザインツールやプロセスを統合する方法は、今後さらに成長するでしょう」

キャティが期待するのは、AIを利用した3Dツールがデザイナーの単純なタスクを更に引き受けてくれる方向への飛躍です。「次の目玉は、デザイナーが周囲の物理的な物体を簡単にスキャンし、コンピューターで修正して3Dモデルを作成できるようになるこかもしれません」と彼女は言います。「もしそうなれば、モデリングのパイプラインを混乱させることになるかもしれませんね」

ネイサンもこれに同意します。

「写真に写っている物の奥行や形を理解する技術は今後も進歩していくと思います。写真を読み込んで、3D形状を簡単にサーフェスとして扱えるようになるのではないでしょうか。より深いレベルの画像合成と言えるものです」

そうなれば、デザイナーが扱うものは「もはや3Dの三角形の集合体ではなくなります。セマンティクスを自動的に推測することでより高いレベルで3D形状を操作できれば、デザイナーが3Dでの制作を習得するのがずっと容易になります」と彼は続けます。

また、AIは非常に効率的にノイズを除去できるとタミーは指摘します。「レンダリングからノイズを除去するのは退屈なプロセスですが、AIがかなり効率的であることが証明されています。将来的には、ARやVRレンダリングなどのリアルタイム体験が、AI技術に広くサポートされることになるかもしれません」

とはいえ、現時点のデザインツールにおけるAIは、頭の中で想像したものに形を与えるデザイナーに、3Dツールのみが与えられる自由を開放する力です。

「グラフィックデザインにおける3Dは、次元、奥行き、およびリアリズムの要素を追加します。それは、より没入的で楽しい体験です」とクラリッサは言います。「その結果、見た人々の反響と興奮が高まります。そして、それは私たちデザイナーにとって刺激的なことです」


この記事はWhy creative professionals are joining the 3D revolution(著者:Sebastien Deguy)の抄訳です

POSTED ON 2020.09.17