Photoshop Camera レンズクリエイター インタビュー Vol.4 中⽥拓⾺「インスタレーションのような体験を、このレンズで表現したかった」

Creative Cloud Photo

すでにたくさんの方にご利用いただいている Adobe Photoshop Camera。被写体に合わせて写真に最適なエフェクトを瞬時に適用する魔法のような「レンズ」も続々と追加されています。

世界中のアーティストが制作、提供する多種多様なレンズは、使って楽しむだけでなく、自分でレンズを制作して世界中のユーザーに使ってもらうこともできます。

そこで、Photoshop Cameraのレンズ制作に携わった日本のクリエイターの方々に、作品のコンセプトやこだわりのポイント、制作にまつわるエピソードなどを連載でご紹介しています。

第4回目は、インタラクションデザイナーの中田拓馬さんにご登場いただきました。

自分の観点を一変させるような不思議なレンズ

中田拓馬さんは、インタラクティブ・インスタレーションやイマーシブ・エクスペリエンスと呼ばれる先端分野で、プログラミングをベースにした新しい表現方法を研究しながら、体験型作品の制作や、映像演出をはじめとする様々な制作活動をおこなっています。

その中田さんが制作した「表裏一体」レンズは、自分の観点を変えてしまうような新感覚のセルフポートレート向けのレンズです。アンドロイドのような手がスマートフォンを持ち、画面にはその背景にある被写体の写真が表示されます。まるで他の人が自撮りをしているようにも見えますが、実際の写真の被写体は自分自身。撮影者でも被写体でもなく、傍観者として客観的な視点から自分の写真を見てるという、なんとも不思議な体験を味わえます。

この最新のレンズは、Photoshop Cameraから無料でダウンロードできるので、ぜひ試してみてください。

中田さんは、日本で生まれてすぐに父親の転勤でブラジルに渡り、その後、セネガル、インドネシアなど世界各国を回りながら育ったといいます。オランダの大学に留学した際に、リアルタイムな映像生成に特化したビジュアルプログラミング言語「vvvv」と出会い、それまで映像作家を志していたという中田さんが、プログラミングを自身の表現に組み込めるようになりました。

その後、オランダのメディアアート集団「Born Digital」の一員として欧州でアーティスト活動を続け、帰国後は、クリエイティブチーム「CEKAI」ならびにテクニカルディレクターの集団「BASSDRUM」に所属しながら現在は京都を拠点に活動しています。また、2019年に日本人初のAdobe Creative Residencyのメンバーに選出され、同年に米国で開催されたAdobe MAXでは40m以上もの大型のインスタレーション作品を展示し、会場を沸かせました。

普段はインスタレーションを中心とした活動をおこなっている中田さんですが、今回のPhotoshop Cameraのレンズを制作するにあたり、どのような気持ちで臨まれたのでしょうか。

「普段はあまりビジュアルをメインにした活動をしていなかったので、最初にこのお話をいただいたとき、『絵作り』という点ではとても他のアーティストには敵わないなと思いました。それで、自分なりのアプローチってなんだろうって考えたときに、やはりここはインスタレーションで勝負すべきかなと。自分にとってのインスタレーションというのは、仮想的な現象を物理的体験に変換すること。本来そこにないはずの空間を出現させて、そこにいる人に不思議な体験してもらうというのが根底にあります。空間をハッキングするじゃないですけど、それに近い考え方を、今回のPhotoshop Cameraに持ち込めたら面白いんじゃないかなと思いました」

こだわりのポイントは?

インスタレーションの要素を取り込むという、今までになかったコンセプトで制作に臨まれた中田さん。一番こだわられた部分というのは、どこだったのでしょうか。

「スマホを持っているこの手、ここに一番こだわりましたね。この手があることによって、自分が撮っているんだけど同時に見せられている、そんなちょっと不思議な感覚を覚えるようにしたかったんです。

なぜアンドロイドのような手にしたかというと、年齢とか性別とかに囚われない、誰が持っても成立するような手にしたかったからです。写真だとどうしても特定されてしまうので、3Dを使って作成しました。色とか質感とか、あと持ち方なんかも、かなり時間をかけて研究しましたね」

人の手のようで、人の手じゃない。自分の手のように見えて、自分の手じゃない。まさに中田さんの思惑どおりの「手」に仕上がったのではないでしょうか。また、被写体の背景に浮遊するいくつもの球体が、この不思議な世界観をさらに広げてくれます。

中田さんは、ユーザーのみなさんにこのレンズをどのように活用してもらいたいのでしょうか。

「このレンズは、スマホに映った人物の写真があって、そのスマホを持つ手があって、さらにその背景にはぼやけた人物がもう一つ映り込んでいるという、この多重性によっていろんな錯覚を作り出すことができると思うんです。アンドロイドの手と自分の腕がつながるように撮ってみたり、あるいは自撮り棒を使うとどんな撮り方ができるんだろうとか。自分も想定していないような面白い撮り方を発見してもらえると嬉しいですね」

Photoshop Camera レンズの制作過程

中田さんがそもそもレンズを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょう。

「自分としては今までずっとインスタレーションというものを作ってきて、どちらかというとビジュアルよりもシステム的な部分に重点を置いてたんです。目新しさとかはプログラミング的な部分で表現できれば、ビジュアルの部分はちょっと蔑ろにしてもバレないだろうみたいな。そんな考えでずっと制作をしてきたんですね。

もちろんビジュアルの重要性というのは理解していたし、どこかでちゃんとやらないとなって。そうした中、今年はコロナウイルスの影響もあって、なかなかインスタレーションの活動ができず、それならもうほんとに籠もってひたすら絵作りを研究しようと。毎日Instagramにグラフィックを作って上げたりもしていました。ちょうどそのタイミングで今回のレンズ制作のお話が来まして、これは絵作りを頑張るという意味でもいい機会だなと思い、やってみることにしました」

普段はAfter EffectsやIllustratorで素材を作成し、vvvvを使ってそれらをプログラムに組み込んで作品を作り上げている中田さん。今回のレンズ制作では、After EffectsとIllustrator、そしてメインのアプリには以前はよく使っていたというPhotoshopを使用しました。

「Photoshopも時々触るんですけど、がっつり触ったのは随分と久しぶりだったので、一から使い方を思い出すところから始めた感じです。写真だけでなく映像や3Dとかの素材も全てPhotoshopに取り込んで、色調補正やオーバーレイ、マスキングといった作業をおこないました。

いやあ、かなり進化しているなって思いました。マスクの自動選択とか知ってはいたんですけど、触ったことがなかったので。手だとか、スマホだとか、ワンクリックでこんなに綺麗に切り抜けるのには、本当に驚きました。フィルターやエフェクトも面白いものがたくさんあって、すごく簡単に適用できる。今までの自分が作っていた工程を考えたら、今後はPhotoshopでやったほうが効率的だし、いろいろと挑戦できそうですね」

レンズ制作の醍醐味とは?

インスタレーションの考え方をレンズに取り込むという、今までのレンズ制作にはなかった取り組みに挑戦した中田さん。自分の世界観やこだわりを実現するためには、多くの苦労もあったと思います。

「絵的な部分が成立するように、どうクオリティを上げていくかというところが、一番苦労しましたね。アンドロイドの手を作るにしても、そもそも手の形を研究するところから始めました。

とにかく大量のレファレンス画像をIllustratorに貼って、そこからどんな手の形があるのかっていうのを割り出し、手の形に沿ったパスをそれこそ何回も引きましたね。それを3Dソフトでモデリングして、 自分が思うような形、なおかつ絵的に成立している形に仕上げていくんです。結構な数のパターンを作成しました」

初めてのレンズ制作、ご自身で納得のいく作品に仕上がったのでしょうか。

「今回のレンズ制作は、自分にとって2つのチャレンジがあって、1つはインスタレーションの要素をこのレンズにどう取り込めるか。この部分に関しては、出せる限りのものは出せたんじゃないかと思います。

もう1つは、絵作りですね。普段自分が作っているグラフィックをレンズにはめてみたのですが、なかなか合うものがなくて、結局は全く違うものを作ることになったんですが。まあ、もっと自分がPhotoshopを使えていたら、うまく合わせる方法を探れたんじゃないかと思いますね。ただ、Photoshopでいろいろ作り込んでいくのが本当に楽しくて、絵作りを頑張るにはやっぱりPhotoshopのようなソフトを使いこなさないとだめなんだなと、今回改めて実感しました」

いろいろな苦労があり、発見があり、楽しさがあった数ヶ月間。中田さんにとって、レンズ制作の醍醐味とは何でしょう。

「やっぱり、リリースされることが醍醐味じゃないでしょうか。作る過程で苦しいこともありますが、世界中の人たちがそれをダウンロードして、世界中のロケーションで撮影してくれるってすごいことじゃないですか。自分のレンズが世界中に置いてある、いわば自分の作品が世界中に置いてあるわけです。その喜びを味わうために、苦しい制作も頑張れますよね」

最後に、これからレンズを制作してみたいと思っているみなさんに向けて、何かアドバイスがありましたらお聞かせください。

「最初にどういうコンセプトで、どういう人に何を撮って欲しいのか、どういう場所でどう撮って欲しいのか、それを明確にイメージしてから制作に着手した方がいいと思います。作ったところで、撮り方や使い方がわからないと、だれも使ってくれないので。自分の場合、環境とか空間といったものをすごく重視するので、ユーザーが使用するシチュエーションについてはかなり研究しました。

あと制作については、Photoshopの中だけで完結するのも、もちろん素晴らしいですけど、IllustratorとかAfter Effectsとか、他のツールを横断して作ってみるのもいいと思います。他のレンズクリエイターの方たちからも、これを機に新しいツールに挑戦したという話を聞きます。Photoshopだけだとどうしても面的に考えてしまいますが、もっと立体的に考えたり、動きなんかもつけたりすることで、作品に奥行きやストーリー性が出て、より楽しくて完成されたレンズが作れると思います」

アドビでは、Photoshop Cameraの新しいレンズの制作にご協力いただける方を募集しています。

Photoshopをご利用のクリエイターの方で、興味のある方はこちらから詳細をお確かめください。

※応募いただいた後のコミュニケーション、コミュニティでは英語が必須となります。

中田拓馬

インタラクションデザイナー

1989年、静岡県生まれ。生後まもなく父親の転勤によりブラジルへ渡り、以来、セネガル、日本、インドネシアで育つ。京都精華大学在学中、オランダに留学し、現地のメディアアート集団「Born Digital」の一員として活躍。帰国後は、フリーランスとしてクリエイティブチーム「CEKAI」に所属し、京都を拠点にさまざまなプロジェクトの映像演出、インタラクションデザイン等を手がける。2019年、Adobe Creative Residencyのメンバーに選抜される。2020年からは、テクニカルディレクターの集団「BASSDRUM」にも所属。

Web : https://www.takumanakata.com/

Instagram : https://www.instagram.com/takuma.nakata/

Twitter : https://twitter.com/takumanakata

POSTED ON 2020.09.29

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