アルゴリズムがデザイナーの新しい親友になった、そのいくつかの証拠 | アドビUX道場 #UXDojo

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AIと機械学習によって自分たちの仕事が奪われてしまうのではないかと、多くのデザイナーが心配していたのはほんの数年前のことでした。まだ少し不安を感じている人がいるのであれば、この新しいテクノロジーがわれわれを助けるものであって、取って代わるものではないことを示しているいくつかの画期的な新しいプロジェクトを紹介します。

一歩下がって周囲を眺めてみると、AIの影響はクリエイティブ業界だけで感じられているわけではないことが分かります。大手新聞社ではロボットがニュースを伝え、SpotifyではAIにつくられた楽曲が盛り上がりを見せ、国際的なアートフェアではAIによる絵画が投票を競い合っています。クリエイティブの役割の定義は確かに劇的に変わりつつあります。

デザイナーの陳腐化は不可能に思えたかもしれません。ところがLookaというロゴメーカーは、AIによりつくられるカスタムロゴを550万個作成し、それが大きく成功したことにより、ブランディングアセット全体を扱う企業へと進化しました。

大手代理店もブランドの仕事にAIを取り入れてきました。2017年にOgilvy Italiaは、グラフィックアイデンティティの異なるNutellaの瓶700万個を製作しました。その際に使われたのは「数十のパターン、数千の色の組み合わせ、そして1つの特別なアルゴリズム」です。それぞれの瓶は(やや大胆なことに)芸術作品に例えられ、コレクターが認証できるように固有のコードが刻印されました。すべてが売り切れるまでに、一か月かかりませんでした。

実際にはAIはそれほど恐ろしいものではない

Pentagramのパートナーであるナターシャ・ジェンは、School of Visual Artsのデザイン&広告学士課程の卒業クラスの作品の要約である書籍、すなわち2019年のSenior Library of the School of Visual Artsの最も印象的なデザイン要素を独自のアルゴリズムを使って制御しました。ジェンは、各作品の色相、彩度、輝度(HSL)をベースに、「色を分解して要約した結果を生成する」アルゴリズムを使い、色のスペクトルに沿って204のアートワークを分類しました。次に、それらの色にHSLスケールの数値コードを割り当て、線形のカラースペクトルとして順番に並べ、本としてまとめました。

Senior Library of the School of Visual Artsの本には、卒業する学生の作品を色別に整理するために、独自のアルゴリズムが用いられました。
ナターシャ・ジェン SVAの本 2019年

商用目的以外にも、より広範な社会や政治に関わる問題に取り組む手段として、デザイナーにAIは利用されてきました。プエルトリコのデザインスタジオMuuaaaは、Soft Identity MakersプロジェクトでAIを利用して、現在のグローバルな社会的および政治的な状況における国民的アイデンティティの概念を追求しました。

このプロジェクトは、今日の不安定な国民性を表現できる流動的で柔軟なシステムを構築することを目的としており、全体で50万近い架空の国民アイデンティティを生成しました。「私たちは、誰もが共感できる国民的なアイデンティティをつくり出すためには、各ユーザーの欲求や連想を処理できるマシンを開発しなければならないことを理解していました」とMuuaaaの共同設立者兼CDOのミゲル・ミランダ-モンテス氏は話しています。

Muuaaaがデザインした気候、味、態度、スタイルなどのテーマをカバーする45枚の画像の中から、ユーザーは5つの「アイデンティティの目印」を選択できます。すると、アルゴリズムが選択された画像を処理して、各ユーザー固有の国民的アイデンティティを生成します。「私たちはロンドン・デザイン・ビエンナーレで毎日300から500のアイデンティティをつくり出していました。それは人間には不可能なことでした」

MuuaaaのSoft Identity Makersのインスタレーション用に設計された旗のひとつで、ユーザーごとに固有の国民的アイデンティティを生成するアルゴリズムが使用されています。
MuuaaのSoft Identity Makers

AIはそれほど未来的なものではないらしいこと

実際のところ、AIの到来は、手作業を機械化するだけでなく、認知に基づく決定への情報提供も約束するものです。しかし、日常的にデザイナーに使われているAIといえば、マージンの幅の決定や、色や書体やレイアウトの選択のためのプリセットを提供するプログラムといったものが一般的です。それらがあまりにありふれているために、デザイナーは意識すらしていないかもしれません。もちろん、こうした基本能力をより輝かしい目的のために使うには、生きて呼吸しているクリエイティブな人の存在が必要です。アルゴリズムに頼って動くツールのためにデザイナーがデザインプロセスから完全に排除されるという考えは、決してあり得ないとは言わないまでもも、まだ現実的なものには感じられません。

The Gridプラットフォームが公開されたたときの提供者からの約束は、モリーと名付けられたAIボットが「自らデザインするウェブサイト」をつくるというものでした。モリーは気まぐれだとされていましたが、「決して途中で止めることはなく、追加代金を請求することもなく、必ず期限を守り、もっとロゴを大きくという声に怖気づくこともありません」と冴えない女性蔑視のスローガンのような見出しを掲げていました。しかし、モリーのカラーパレット生成と画像の自動クロップにおける初歩的な能力は、当然のように型にはまった苛立たしいほどカスタマイズが難しいウェブサイトを生み出しました。そして、AIに支援された数々のロゴデザインツールと同じように酷評を受けました。

アデリア・リムによるアートプロジェクト、Promotional (Mis)information。テンプレートの持つ模倣性、面白みの無さ、反復的な性質を明らかにすることを目的とし、安価に生産された出力結果のコレクション。
アデリア・リム、Promotional (Mis)informationのはがき

The Gridのようなデザインプラットフォームは、Fiverrに代表されるクラウドソーシングのギグエコノミー向けプラットフォームの台頭と相まって、デザインを簡単に複製可能なコモディティに降格させ、思慮深さや厳密なコンセプトを欠いた制作物を生み出すことに世界が躍起になっているかのような印象を与えます。デザイナーでキュレーターで著者でもあるシルヴィオ・ロルッソはこの件に関して、「知的なデザイナーという存在は次第に想像上の存在になりつつあります。賢者の地位を獲得した一部のデザイナーに対して、大勢のデザイナーが、InDesignやPhotoshopの半自動化と、プロとしての認知度が低いことによる、5千円のロゴや3万円のウェブサイトの制作という苦行の日々を過ごしています」と述べています。

デザイナー無しでデザインが存在する世界というアイデアに、アデリア・リムは自身のプロジェクトPromotional [Mis]informationで没頭しました。彼女は、模倣的で面白みが無く反復的なテンプレートの性質を明らかにすることを目的として、安価に生産されたデザインのコレクションを生成しました。「私はチラシのテンプレート、ストックフォト、ロゴジェネレータなど、とにかく事前に品質が決められたものを集めて検討を始めました。それから、テンプレートが持ち込まれたときのグラフィックデザイナーの役割について疑問を持つようになりました。実際に、そのようなシナリオでもグラフィックデザイナーがまだ必要なのでしょうか」と彼女は言っています。一般的な(そして風刺的な)プレースホルダテキストがはがきの上に配置されていますが、これは、デザインを単純で安価なコモディティに貶めている業界の様子を反映したものです。

(良い)デザイナーが時代遅れにならない理由

自動化できるものはすべて自動化され、データを貪るニューラルネットワークがロゴ、レイアウト、ウェブサイトをつくることができる時代に、デザイナーが今でも制御できるものはクリエイティブプロセスの中に残されているのでしょうか?これらの賢いツールは、退屈なタスクに対処したり、形を与えるプロセスを引き受けることはできます。しかし、デザインが提供することを期待されている体験や感覚を発見して磨き上げる行為には、まだまだデザイナーの関与が必要です。「デザイナーの役割は、プロジェクトを企画し、編纂し、管理する立場へと進化するでしょう。企画者としては、デザイン上の問題を定義して、初期の設定事項を確立します。編纂者としては、マシンが生成したコンセプトの収集、接合、合成、抽出、選択を行います。最後に、管理者としては、デザインの結果の評価基準を作成し、実際に評価し、ドキュメントにまとめます」とはMuuaaaの考えです。

優れたデザインは、問題を適切に捉え、解決策を見つけているものです。今のところ、マシンはそうした人間的な方法で働くことはできません。リムは次のように語っています。「デザイナーの中核的な責任は今でも変わることはありません。共感を働かせること、常にデザインに影響を受ける人たちを意識して配慮すること、テクノロジやデータに留まらないリサーチを行い意思決定プロセスを主導すること、そして最後に、デザイナーである私たちは人間でありマシンの助けを借りなくても健全な決定を下す能力を持っているのだと認識することです」

AIを恐れて広がった雲は晴れつつあるようです。2018年のアドビの調査によると、殆どのクリエイターはテクノロジーに仕事を奪われることを心配していません。クリエイティビティが本質的には人間的なものであることを信じているのがその理由です。アドビでAI戦略開発部門のシニアマネージャーを務めるクリス・ダフィーは、「今日のデザイナーは、使用しているテクノロジーの大半にAIがすでに含まれており、そのおかげで以前に認識されていたよりも直感的に操作できるようになっていることを認識しています」と述べています。調査報告書Creativity and technology in the age of AIの筆頭著者であるアンドレアス・ファイファーは、「人工知能に代表される機械や技術は、人間の創造性を高めたり、退屈な作業を管理することはできますが、人間の創造的なひらめきの代わりにはなりません」と付け加えました。

それでも、デザイナーがアルゴリズムによる支援を手にした世界で成功するためには、デザイナーは進化する必要があります。Muuaaは「誰もが海賊になるべきです。ルールを破るだけでなく、ルールを書き換える能力も必要です」と主張しています。ロルッソのデザイナーへのアドバイスは、彼がいつも自身に言い聞かせていることです。「年齢にかかわらず、業界に何回も入りなおしましょう。懐疑と熱意の間のバランスを見つけましょう。不機嫌そうに保守的になるのではなく、技術に朦朧として麻痺させられるのでもなく、幼児が世界に触れるように振舞うことを心がけましょう。新しいものに畏敬の念を抱きつつ、それがどのように機能するのかを理解するために分解する準備を常に心がけておきましょう」

この記事は、AIGAのEye on Designと共同で執筆されました。


この記事はAlgorithms Are a Designer’s New BFF—Here’s Proof(著者:Ritupriya Basu)の抄訳です

POSTED ON 2020.01.15