世界的なパンデミックの中で、行動変容のためにデザイナーができること | アドビUX道場 #UXDojo

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Mad*Powで行動変容デザインのバイスプレジデントを務めるエイミー・ブヒャー博士は、彼女が関わるデザインプロジェクト全体に行動変容の原則を適用しています。彼女は、行動変容についての著書Engaged:Designing for Behavior Changeを、2020年3月に出版しました。また、彼女は、世界的なパンデミックの中での行動変容の原則の重要性についても語ってきました。以下のQ&Aでは、この困難な時期の行動変容について、デザイナーが知っておくべきことをすべて共有するよう彼女に頼みました。

どのようにして行動変容のデザインに関わるようになったのですか?

Mad*Powの行動変容担当バイスプレジデントを務めるエイミー・ブヒャー博士のポートレート写真。

心理学の博士課程を修了したとき、アカデミックな仕事には就きたくないと思っていました。当時、デザイン心理学を仕事にしている人はほとんど世間にいませんでしたが、私は医療にとても興味があったので、ヘルスケアのスタートアップ企業に参加し、心理学を仕事に応用する中で、健康とデザインの関連について多くの経験を積みました。行動変容デザインは非常に強力で、薬剤服用の順守、健康的な食事の実践、睡眠の習慣を確立するための認知行動療法(CBT)などをデザインするプロジェクトに取り組んできました。

行動変容デザイナーになりたい人のための見取り図のようなものは存在していません。私が本を書いた理由のひとつは、学術的な知識をデザイナーが仕事に使えるようにすることでした。そのときに私が意図していなかった点は、現在起きている出来事、そして物理的な距離がある状況に人々が置かれることでした。行動変容の原則は、パンデミックの最中に何が起きているのか、なぜ一部の人々は物理的距離をとることになかなか適応できないのかを理解するのに役立ちます。

エイミー・ブヒャー博士の「Engaged:Designing for Behavior Change」の表紙。

デザイナーが理解すべき主要な原則は何ですか?

行動変容に関しては、デザイナーが理解しておく必要がある重要な高次の概念が2つあります。モチベーションの働きと、3つの基本的な心理的要求です。

最初のコンセプトは、モチベーションの働きに関する心理学です。モチベーションは、人をある種の行為に駆り立てます。多くの人がモチベーションについて思いつくのは、それが内発的(自身の中から生まれる)か外発的(外部から与えられる)かのいずれかであり、高いモチベーションと低いモチベーションがあるということです。

自己決定理論(SDT)によれば、モチベーションは下図のようなある種の連続する領域の上に存在します。その領域の両端にあるモチベーションは、内因性と外因性です。内的なモチベーションは何かをするための最も強いタイプのモチベーションです。一方、外的モチベーションは最も弱いタイプです。この領域に存在するとされるモチベーションの種類には、「認定済(Identified)」や「統合済(integrated)」もあります。「認定済」のモチベーションは、ある行動を自分が本当に価値を感じる目標と結びつけることで発生します。「統合済」のモチベーションは、何らかの方法で自分自身を認識した時に、自身のアイデンティティと行動に関連性がある状態です。これらのモチベーションには長期的な変化を引き起こす力があります。

自己決定理論では、個人のモチベーションの質は、内的モチベーションと外的モチベーションとの連続体の間に位置付けられる。
自己決定論がどのようにモチベーションの質の違いを領域に配置しているかを示している図 出典: エイミー・ブヒャー SlideShare

もうひとつのコンセプトは、基本的な心理的欲求というアイデアです。この研究が教えてくれるのは、人間には自律性、実現能力(コンピテンシー)、関係性という3つの基本的な心理的欲求があるということです。「自律性」とは、自分自身のニーズに対して意味のある選択ができる状態にあることです。「実現能力」とは、周囲の環境と関り、自身が変化をもたらしていることを確認できることです。「関係性」はつながりの問題です。人は誰もが、他の人と関係しつながっていると感じる必要があります。たとえ内向的とされている人にとっても、これは基本的なニーズです。

自己決定論では、モチベーションには3つの重要な手段があり、自律性、実現能力、関係性という基本的な心理的欲求に基づいている。
モチベーションには、自律性、実現能力、関係性という基本的な心理的欲求に基づいた3つの重要な手段がある。この理論は2000年にライアンとデシによって構築された

行動変容は、COVID-19のパンデミックとどのように関係していますか?

行動変容の原理を理解するために、人々が行動を変えるよう求められていること以上には、現在の世界の状況を調べる必要はありません。北米では、状況はかなり急速に進展したように感じられたと思います。多くの人にとって、自分の楽しみをすべて諦めなければならないような形で、日々の行動を変えるよう求められることになりました。物理的な距離を置くこと、家にいること、仕事に行かないこと、事業を閉鎖すること、他人と交流しないことなど、人々は行動を根本的に変えるよう求められています。自己隔離という要請は、人々の基本的な心理的欲求に逆らうものです。

心理学的な観点から言うと、非常に困難だと思われることの一部は、こうした行動の修正が強制されたものであることです。それは、人々の自律性を脅かします。また、何かをしてその結果を見たいという実現能力の欲求も脅かします。しかし、パンデミックの間は基本的に何もしないことで、運が良ければ自分や周りの人たちが病気にならない状況を達成できることがモチベーションになるかもしれません。最後に、もちろん、物理的な距離を置いて家にいることは、他人とのつながりや関係性に対する私たちの感覚を大きく脅かします。

パンデミックに対して行動変容の視点をどのように適用すればよいのでしょう?

基本的な心理的欲求のコンセプトに関して興味深い点は、世界中の様々な場所で行われている研究によると、それが様々な状況で通用しているということです。これらの基本的な欲求を理解することが、多様な人々のためのデザインに役立つというのは素晴らしいことです。つまり、このパンデミックに対峙する世界中の人々にとって、行動変容の原則が意味を持つことを意味するからです。

デザイナーとして、行動変容デザインの原則を理解することは、この危機の間の仕事でも、個人的な生活においても助けになります。これらの原則を適用すれば、現在の状況における人々(自分自身も他人も)に、次のものが必要であることがわかります。

自身の重要性を感じる必要(自立性)

  • 自分で選択することができるか?
  • 自分のことや自分が必要なものについて考えていてくれる人がいるか?
  • このような制約の中で、世界に自分を表現することができるか?

自身の持つ効果を感じる必要(実現可能性)

  • 自分が犠牲を払うことで、何か違いを生むか?
  • 現在、何か役立つリソース、スキル、能力を持っているか?
  • 生活が止まっているような感覚を避ける方法があるか?

社会とのつながりを感じる必要(関係性)

  • 他のみんな何をしているのか分かるか?
  • どのようにすれば、リモートでのやり取りを維持できるか?
  • どうすれば愛情を伝えたり受けとることができるか?

こうした点を念頭に置いて、デザイナーは、人々の自律性、実現能力、関係性の感覚を高める体験をデザインすべきです。それが、行動を成功裏に定着させるために必要な条件をつくり出す方法です。

全体の利益のために必要なルールに従いつつ、どうやって人々に選択の余地を与えられるでしょうか?例えば、小規模ビジネスを支援するために地元のレストランからテイクアウトメニューを注文するよう人々に奨励することで、人々が違いを実現するための権限を与えられていると感じるかもしれません。それは、希望を感じて正しいことに従事し続けるための役に立つでしょう。

デザイナー個人としては、この状況はどんな意味を持つでしょう?

デザイナーとして、自分自身のニーズと、この危機が自身のモチベーションと基本的な心理的欲求にとって持つ意味を考える必要があります。私が気付いたことは、生産性が自分の価値だと考えているデザイナーが増えているということです。突然デザイナーは様々な変化に直面し、成功することが何を意味するのかについて、これまでとは同じような考えを持つことができなくなりました。この時点において成功が何を意味するのか、自分はどんな人間なのか、何を重視しているのか、再検討することが必要です。

自分の価値観を確認し、自分にとって重要なことを理解するために有効ないくつかのエクササイズがあります。たとえば、ペンシルバニア大学が提供している「values in action charter strength survey」 は、自分がどんな人間で、自分にとって何が重要なのかを明確にするために利用できる十分に実証されたツールです。その他にも、自分自身の死亡記事を書いたり、100歳の誕生日の自分に向けて誕生日カードを書いたり、スーパーヒーローになるならどんな能力を持ちたいかを問うことは、自分がどのように世間に記憶されたいのかを考える上で役立ちます。これは、パンデミックの間、どのように行動したいかを考える際の助けになるでしょう。

行動変容のためのデザインにおける倫理的、道徳的配慮は何でしょうか?

行動変容デザインについて考えるときに、心に留めておくべき倫理的な考慮点はいくつかあります。個人的に非常に重要視しているのはインフォームドコンセントの手順で、すなわち、人々に実行させようとしている行動があれば、事前に状況をよく説明して相手の同意を得ることです。多くの複雑なプロジェクトでは、ユーザーがこれまでとは何か違う行為をすることが目標になっています。ユーザーはそれを理解する必要があります。そして、その目標はユーザーが関心を持ち、実現したいと思っているものでなければなりません。

ユーザー調査を行う際は、ユーザーにとって何が重要かを理解するために多くの時間を充てることが必要です。ユーザーの期待や希望に反するようなことをすると、いつかは彼らを失うことになります。たとえば、同意していない方法でデータを使用するなど、信頼を裏切る可能性のある行為への配慮は非常に重要です。目の前の利益を優先して信頼を犠牲にすることのないよう、注意を怠らないようにしましょう。

また、行動変容は長期にわたるゲームであるということも覚えておく必要があります。モチベーションに根ざした活動は、長い時間がかかるものです。そのため、多くの場合に複数の行動を総合的に見て、持続する変化を起こそうと試みています。

行動変容デザインの詳細については、エイミーの著書『Engaged:Designing for Behavior Change』を参照してください。エイミーと彼女の仕事についてもっと知りたければ、Twitterでフォローしたり、彼女のブログをチェックしたり、Rosenfeld ReviewThis is HCDから最近のポッドキャストのエピソードを聞くこともできます。


この記事はWhat the Global Coronavirus Pandemic Can Teach Designers About Designing for Behavior Change(著者:Linn Vizard)の抄訳です

POSTED ON 2020.05.7