Creative Cloudマスターアイデンティティを手がけた日本人デザイナー井上羅来(Raku Inoue)が語る、CCロゴができるまで

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Adobe Creative Cloudのマスターアイデンティティ(CCロゴ)の2019年デザインが公開されました。世界中のアーティストが手がけ、そのうちの一人がカナダのモントリオールをベースに活躍する日本人デザイナー兼アーティストの井上羅来(Raku Inoue)さんです。

Raku inoueさん(左)モントリオールで行われたBehance交流イベントにて

Rakuさんは、生花など自然の素材を使って昆虫などを表現した作品がSNSで大きな評判を呼び、世界的に知られているアーティスト。今回のCCアイデンティティでも、生花を使ったあざやかで繊細な表現の作品で驚かせてくれました。なんと、ボンドや糊などは一切使わずにこの作品を作っているのだそう!その制作の裏側について、Rakuさんにお話を伺いしました。

生け花に影響を受けた繊細な作品世界

ーー 一体どうやって作っているんですか?

Raku:生花をコンポジション(組み合わせ)して、撮影し、それをPhotoshopで仕上げました。生花というのは、長い間置いておくと萎れて色が悪くなってしまうので、コンポジションしたらすぐに撮影しなければいけない。時間との勝負なんです。

今回は、まず最初にスケッチをして、ダンボールでモデルを作って、ベースとなるスケルトンを作りました。そのスケルトンの上に、花を置いていきます。ボンドなどは一切使っていません。いわば、生け花の手法ですね。使った花は、カナダ産のものもあれば、エクアドル産のものもあります。エクアドルの生花業者が、モントリオールでは手に入らないようなエキゾチックな花を送ってくれるんです。

ーー 制作時、特にこだわったところは?

Raku:一番気を使ったのはコンポジションで、“完璧さ”を追求しました。そのためには、色やトーンが大事でした。自然が持つ「カラーパレット」をCCロゴに乗せたかったんです。だから、プラスチックのような人工のものは使いたくなかった。そこで生花をコンポジションしてら、すぐに撮影しました。

ーー 撮影はどこで行ったんですか?

Raku:自宅の自然光で撮影しました。こだわったのは、今自分が持っているもので勝負すること。僕は6,000ドルのカメラも持っていないし、1,000ドルのスタジオを使う予算もない。そこで人工的ではない、自然光で撮影することで、生花という素材に敬意を払っています。そもそも僕がこうした作品を手がけるようになったのは、叔母が生け花をやっていたからなんです。生け花でも、「眼の前にあるものに敬意を払うこと」がとても大事にされますよね。

ーー 花で作られた虫たちも良いアクセントになっていますね。

Raku:コガネムシとトンボ、蝶がいます。祖母の家が広島の呉市にあって、子供の頃、毎年夏休みに遊びに行っていました。そこで窓を開けておくと、トンボが入ってくるんですね。まるで僕が小さい頃に死んだ祖父が帰ってきたように。それがきっかけで好きになって、今では虫と花をテーマに作品を作っています。

ーー Rakuさんの生花を使った作品は世界中で人気ですが、どうしてそういった作品を作り始めたのでしょうか?

Raku:僕は東京で生まれて、9歳の時に家族とカナダに渡りました。母がものを作るのが好きで、よく絵を描いていました。僕も影響されて、小さい頃からものづくりを始めて。アートスクールに入って、グラフィックデザインを学んだんです。在学中から友達と仕事を始めて、卒業後はコレクティブの一員としてフリーランスでグラフィックやイラストレーション、写真など、いろいろな仕事をしています。生花を使った作品は、もともと趣味で粘土(ポリマークレイ、樹脂で作られたクラフト用粘土)で作品を作っていたことから発展したものです。

Raku:僕は飽きやすいので(笑)、常に新しいことにチャレンジしたくなっちゃうんです。そこで2〜3年粘土で作品を作った後に、粘土の代わりに生花を使った作品にトライしました。その時ちょうど、家を買って、広い庭がついてきたんです。そこでチューリップを育てたりしているうちに、これを使ってみようかなと思ったのがきっかけでした。叔母の生け花の影響もありましたしね。

Raku:それをBehanceInstagramなどで公開していたら、たくさんの方にフォローしていただいて、メディアで紹介されたりして、今回のアドビからのオファーにも繋がったんです。毎日使っている、Creative Cloudのマスターアイデンティティを作るのは僕の夢でした。実際に、アドビの方たちと仕事をするのは、すごく楽しかったですね。普通、依頼される仕事というのは「こういうものを作って」と明確な指示があるものですが、アドビのチームからはなんの制限なく、僕が自由に考えることができる環境を作ってもらえたんです。制作期間は2週間で、二度やり直しをしたので、実質の作業時間は4日間くらいでしょうか。時間的にはとてもタイトでしたが、すごくスムーズに進みましたよ。

ーー いま制作中のプロジェクトがありましたらお教えください。

Raku:今は昆虫の本を作っています。僕のガールフレンドが類人猿について研究していて、アフリカの植物についていろいろ教えてくれるので、すごくインスピレーションが湧いたんです。僕は都会育ちですが、たくさんのインスピレーションを自然からもらっています。いつかまた日本に行って、日本の昆虫でもいろいろな作品を作ってみたいですね。

Rakuさんの作品はBehanceやInstagramなどで見ることができますので、ファンタジックで繊細な世界感をぜひご覧ください。

POSTED ON 2018.11.30