Acrobatだけにアクロバチックな解決!?

Creative Cloud Design

こんにちは、デザイナーの大村卓(Taku Omura)です。
前回の記事では、ハンガーの形がだいぶ具体化してきたところでつまづいてしまったことをお伝えしました。さて今回はというと、、、いろんなことがありすぎて長文失礼いたします!

問題を整理する

この時点で抱えていた問題を整理してみます。

  • ハンガーの構造(引っ掛ける部分を開閉する仕組みがうまくいってない)
  • ハンガーの色(強度のある材料で赤い色がない)

後々で書いていきますが、これらについて悩んだことが結果的に良い方向に進むきっかけとなりました。風が吹けば桶屋が儲かる的な話です。カッコよく言えばバタフライエフェクトです。(違う)

このハンガーを3Dプリントで作ることに決まってから、ぼくはナイロン粉末焼結という方法を想定していました。これはナイロンの粉をレーザーで溶かして造形していくもので、3Dプリント製品にありがちな積層の跡が目立ちにくく、とても丈夫、いろいろな色で作れる、3Dプリントにしては安価、とにかくスグレモノという認識でした。

ナイロン粉末焼結のサンプル。ザラつきはあるがけっこうキレイ。

この頃ハンガーを作る上でいろいろ課題が見えてきていたので、ここらで検証サンプルを作ろうかと思っていた矢先にその問題は発覚しました。

一般的にこのナイロン粉末焼結造形は大きなものを作ることができます。だからぼくはハンガーもこれでイケる!と安心しきっていました。

ふとその造形サービスのウェブサイトを眺めていると、、色付きの素材だと
「最大200 × 150 × 150 mmまでです」

!?
!?

え、えーと、このハンガーのサイズは380 × 300 × 40 mmほどだよな。だよな。。
背中にジットリとイヤな汗が流れるのを感じました。

つ、つ、作れない…。
いや、白い素材では650 ×350 × 550 mmまで作れる。。
こうなったら白いので作って色をつけるしかない。

しかしナイロンというのはとても塗装が乗りにくい材料なので通常の方法では塗膜が剥げてしまうかもしれません。そこで急遽染色を検討することに。樹脂を染色してくれる業者をいくつかあたってみたところ「できますよ」というナイスな回答!しかし色落ちは否定できないとのこと。うーむ、このハンガーに白いTシャツを掛けて赤くなっちゃったらスゲー怒られるだろうな・・。

これは前回にも増して大ピンチ!!
前回の記事のときからアドビの西山さん(今回のプロジェクトのえらい人)からプレッシャー掛けられてるし、、、やば。

救世主登場!?

とにかく赤い樹脂でこのデカブツを造形できるところを探さねばなりません。

そんなときに見つけたのが株式会社ストラタシス・ジャパンさん。3Dプリンタの会社であるということは認識していましたが、造形サービスまでやっているのは知りませんでした。

ウェブサイトを見るとクオリティ高そう。そして費用も高そう・・・。
とりあえず使える素材や色や金額について質問してみました。

するとストラタシスの中の人からメールが。

なんとこのプロジェクトを知っていたとのこと!
そして協力を申し出てくれたのです!ワーオです!いや〜インターネットってすごいなあ。Twitterってすごいなあ。ぼくが思いつきで勝手に始めた奇妙なプロジェクトがこんなことになるなんて。
いや、アドビパワーだな、これは。

そしてさっそくストラタシスさんを訪問してみました。

ストラタシスさんのショールーム。大小様々な3Dプリンタから造形物がたくさんある。

なんとすでに試作もしてくださっていました。

実際の80%サイズ。開閉機構は解決できてないが雰囲気は十分捉えられる!

もうストラタシスさん最高。ありがたやありがたや。
これによって造形サイズと色の問題はあっという間に解決されました。

また、開閉部の構造についても今後いろいろ検証モデルの制作を協力してくださるとのことで大助かりです。ぼくも3Dプリンタを持っているのである程度は自分で作って検証できますが、最終的に製品にするところで検証するというのが本当に大事なことなのです。試作ではうまくいってたのに量産に入ったら全然ダメ、ということがプロダクトデザインの世界ではよくあるのです。しかしここまで一気に話を進められたのは本当に奇跡でした!

とにかくストラタシスさんはクオリティの高い3Dプリント技術をお持ちなので、出力サンプルを眺めるだけでも楽しくなってきます。

3Dプリントならではの作り方。いつかこんなものも作ってみたい。

こんなでかいモンキーレンチも発見!

造形に2週間くらいかかったらしい
クッソ重いがちゃんと動く

アドビさん喜ぶ

そんなわけでストラタシスさんからの協力をアドビさんも快諾してくれました。ハンガーの試作もアドビの方々にお見せするとここで急展開。あのクリエイターの祭典Adobe MAX Japan 2018でハンガーを展示しちゃいましょうという話に!

えっえっまだあのハンガーの問題解決してないんですけど。まあ途中段階だけどこれだけオープンにしているプロジェクトなのだから見せちゃってもいいかな、という気持ちになってきました。よーし見せちゃえ。この話、AdobeMAX開催2週間前のこと。急展開にホントびっくり。

Adobe MAX Japan 2018!!

で、やってまいりましたAdobe MAX Japan 2018!

実は参加するのは初めてで、さらにハンガーの試作が展示されているということもあって妙な緊張感を抱きながら会場へ向かいました。そしてストラタシスさんのブースを発見、デカデカとパネルで私のことも紹介されていました。

これが思いのほか大反響!自分が想像していたよりこのハンガーって知られていたんですね。かなり多くの方々が見に来てくれました。

Adobeグッズのショップにも置いて写真も撮らせてもらいました。

こういう掛け方なら切れ目が入ってなくても大丈夫
服を掛けるとけっこうなじむもんですねえ

現実を直視せよ

そんなこんなで祭りの後は浮かれモードから急激に現実に引き戻されるわけです。なんせハンガーの開閉構造は何も解決していないのですから。前回の記事「いよいよAcrobatハンガー制作開始!大ピンチ?試作をするとわかること」にておさらいしていただくとより理解が深まります。

そんなわけでいろいろ頭から煙が出そうなほど検討したので細かく説明したいのですが、長くなるからまとめてドーン!

照明を当ててムダにドラマチックに

いろいろ条件を変えてストラタシスさんに試作をしていただき、その中からついに最適解(とぼくが考える)を導きました。

材料のバネ性を頼って開閉させようとするとどうしても変形や負荷による劣化が起きてしまう。

ヒンジ構造にしよう

ヒンジ構造まで含めて一体で造形するもののガタツキが大きすぎ

パーツごとのクリアランスを極限の0.1mmまで下げるとうまく行った!これだ!
(実際は0.15mmくらいで運用すると思う)
上の画像の一番上のがソレです。

おそらくパーツごとのクリアランスを0.1mmまで追い込んで可動させるというのはストラタシスさんのところくらいしかできないんじゃないでしょうか。本当によかった…。

完成形のデータ

ようやくたどり着いた開閉構造を盛り込んだハンガーの全体形状はこちら。

これをいよいよ実際の形に造形してもらいます!
まあAdobe MAXに展示してあったのとそんなに大きくは違わないんですけどね。

待っている間にDimensionをいじってみる

3Dプリントをお願いしている間に、このハンガーのデータを使ってアドビさんおすすめの3Dソフト?のAdobe Dimension CCを試してみることにしました。このソフトに触れるのは全く初めてです。

起動させると初回は簡単な説明のツアーから始まるので、どこに何があって何ができるかということはなんとなく把握することができました。まずはテキトーに3Dモデルを置いてみます。

この紙袋の中にぼくが作ったハンガーを入れてみることにします。Dimensionではサポートされているファイル形式は次のとおりでした。

ハンガーのデータは3Dプリントを依頼するときにすでにSTL形式に変更してあるのでそれを使います。
それ読み込み!!

どーん!
なにこれ…デカすぎるし埋まってる…!ああ、STLは単位の情報が含まれていないからこういうことがしばしば起こるんだった…。とりあえずハンガーを地上に引き上げて…

大きさを調整して紙袋に放り込みます。

3Dのソフトに慣れた人であればこの辺りの操作は違和感なく進められます。そうでない人も何度かいじくっていれば操作方法はすぐに何となくつかめると思います。

せっかくなのでこの紙袋にAcrobatのロゴを貼り付けてみます。

とても簡単です。貼り付けた画像の位置も自由に変えられます。この辺りの操作が非常に直感的にできるのは一般的な3Dソフトと比較してもかなり便利ですね。(そんなにいろいろな3Dソフト使ったことがあるわけではありませんが)

ハンガーと紙袋のマテリアルを設定し、色を調整。

ハンガーに画像にした文字を貼り込んでみます。このへんの作業も極めて直感的に行えるのでとてもありがたい。

さてこれを環境の中に置いてみます。もともと入っている背景画像を使ってもいいのですが、せっかくなので自分で撮った画像にしてみます。

髪が真っ白なのは光のせいです。ふだんはもう少し黒いです。

近所の公園に出かけ、周りに子供たちが遊んでいる中ひとりで撮影しました。完全に怪しいおっさんです。子供たちのお母さんたちからのけげんな視線が痛かった!で、「画像から環境を設定」してやるとうまいことその画像に合うようにいろんなことをDimensionが調整してくれるのです。

それを位置とかチョチョッと調整して最後にレンダリングしてできたのがこんな感じ。いやー我ながら地味な画像でしたね。ちょっと逆光気味の写真だったので3Dの部分も暗くなっちゃいました。明るい方のベンチは子供たちが占拠してたので使えなかったんでご容赦ください。

PSDで保存するとこんな感じでレイヤが分かれています。
出来上がった画像はまったく違和感がないかといえば嘘になりますが、イメージを伝える画像をここまでお手軽にできると考えれば悪くないんじゃないでしょうか。

まとめ

なんともアクロバチックにものごとが展開する1ヶ月でした。もう少ししたら最終サンプルが上がってくる予定です。つまり次が最終回!?まあすでにいろいろさらけ出しているのでそんな驚きはないと思いますが最後までどうぞお付き合いください。では次回もお楽しみに!

POSTED ON 2018.12.4