#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.23 漫画家 カメントツさん

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photo: Taio Konishi Photography

Illustratorと私」制作作品

Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第23回にご登場いただくのは、ルポ漫画家のカメントツさん。Webメディア「オモコロ」でデビュー後、独特なタッチで綴るルポ漫画がじわじわと人気を集め、月刊少年漫画誌「ゲッサン」Web漫画「リイドカフェ」の連載などで活躍されています。カメントツさんとIllustratorの関係とは?

リアルな体験から生まれるルポ漫画

——カメントツさんは数少ない「ルポ漫画家」として独自のスタイルを貫かれています。どんなきっかけでルポ漫画家になったのでしょうか?

カメントツ:もともと僕は名古屋造形芸術短期大学(現・名古屋造形芸術大学)のデザイン科を出てデザイナーをしていたんですけれど、27歳ぐらいの時に好きな漫画を自分で描いてみようと思って、地元の愛知から東京へ出てきたんです。それからTwitterで自分が面白いと思うことを色々試していたら、Webメディア「オモコロ」のヨッピーさんという方がインタビューをしたいと連絡を下さって。それがきっかけで「オモコロ」に描くようになり、いろんな出会いに恵まれ、今に至るという感じです。

——ネット上で発信されていたことがきっかけだったんですね。

カメントツ:ネットのおかげですよね。本当にラッキーです。カメントツという名前も、2ちゃんねらー(ネット上の掲示板サイト「2ちゃんねる」のユーザー)につけられた名前なんです。24歳ぐらいの時、2ちゃんねるに「廃墟に突撃スレッド」というのを立てて、廃墟に行っては実況中継するみたいなことをしていたんですけれど、現地にいることを証明するために、廃墟にいる自分の写真を載せていたんですよ。その時から仮面をかぶっていたので、仮面で突撃する人だから“カメントツ”と名づけられました。当時自分を好きになってくれた人たちのために、今もその名前を使い続けています。

現在仕事場兼住居をかまえる中野にて

——転機となった作品は?

カメントツ:「オモコロ」で描いた「ヒプノセラピーに行ってきた編」辺りですかね。当時はまだ新人で何を描いていいかわからなかったんですけれど、編集長におもしろいルポ漫画を描けといわれて、苦しまぎれにヒプノセラピーという催眠療法を受けにいって、その時のことを描いたんです。これがなかなか凄い体験だったんですけれど、その漫画の反響が良くて、これで方向性が決まってしまったなあ、と。やっぱり体を張って苦労した分、皆おもしろがってくれるんですよね。漫画って、意外と人格や体験がものをいう仕事だなと思います。机の上だけで何かを成し遂げようとしても、難しい。

——「ゲッサン」での連載『カメントツの漫画ならず道』では、いろんな漫画家さんにインタビューされています。

カメントツ:漫画が大好きなので「漫画家さんにインタビューしたいです」といったらすんなり企画が通りました。完全に僕だけが得をする、俺得案件なんですけれど(笑)。第1回ではノンフィクション漫画家として尊敬する西原理恵子先生にインタビューさせて頂きました。

ネームは気持ちが冷めないうちに

——普段はどんなツールを使って描かれていますか?

カメントツ:漫画は基本的にポスカ(三菱鉛筆のサインペン)の黒と白で描いています。黒は1ページに1本は使います。最近は筆ペンの筆之助(トンボ)も。原稿ができたら、パソコンに取り込んでPhotoshopかCLIP STUDIOで2階調化して文字入れして、完成です。

——今回制作いただいた「Illustratorと私」はどのように制作されましたか?

カメントツ:まず、iPad ProでIllustrator Drawを使い、下絵を描きました。今回は出張取材の時に新幹線の中で描いたんですけれど、iPad Proは小さい机の上でも作業しやすいですね。アナログで描く時は、いつも苦労していたんですけれど。その後、下絵を薄い青でプリントアウトしてペン入れし、できた絵をスキャンしてパソコンに取り込み、Photoshopで2階調化。最後にiPadへもってきて着色しました。デジタルとアナログを行き来する描き方は、やってみると意外と楽なんですよね。

——制作にiPad Proを使用されてみていかがでしたか?

カメントツ:取材の後、気持ちが冷めないうちに喫茶店や公園でネームを描くことが多いので、iPad Proは便利ですよね。まだ慣れが必要な部分もありますが、気軽に持ち運びできるというのは、かなりアドバンテージがあると思います。普段使っているペンタブの代わりにもなりそう。何より、触っていて楽しいですね。心配していたペンの充電もあまり気になりませんでした。もうちょっと使いこなせるようになったら、iPad Proで描いた下書きをプリントアウトして、ペン入れまでできたらいいなと思っています。

デジタルの概念から生まれたアナログタッチ

——デザイナーをされていたということですが、今のお仕事にもデザイナー経験が生かされていますか?

カメントツ:漫画とデザインって、同じ伝える作業なのに、全然違うんですよ。漫画がプロレスだとしたらデザインはフィギュアスケートというぐらい、違います。漫画の方がエンタメ性が強くて、ちょっと血みどろな感じ。でも、漫画を描く姿勢や考え方には、デザイナー時代の経験が生きていますね。デジタルで作るという経験していなかったら、今のような絵は描いていなかったと思います。

——今はアナログ作業がメインですね。どの辺にデジタルの経験が生かされていますか?

カメントツ:もともとデジタルで描くのは好きなんですよ。今かぶっている仮面もIllustratorで設計図を描いて自作しました。特にベジェ曲線を描くのはめちゃくちゃ得意で、本当はベジェの鬼なんですけれど(笑)、僕が漫画を描き始めた頃ってデジタルで描く漫画家さんがバーッと出てきた頃で、何か新しいことをやらなきゃと思ったんですね。それで、紙でもデジタルのように前の状態に戻したり、消したりできないかなと考えて、まず黒い線をひき、それを白い線で消していくという方法で描き始めたんです。消すことを前提に描く、という。それって、根本にあるのはデジタルの考え方なんですよね。

——そうだったんですね。デジタル世代の方ならではの発想という気がします。

カメントツ:紙や雑誌、単行本で色々と遊ばせてもらっています。『カメントツの漫画ならず道』で製版所を取材したこともあるんですよ。製版所といっても、今はデジタル印刷なので昔のような版は作っていなくて、出版物の印刷データを作る会社なんですけれど。漫画の印刷データに文字を入れ込む作業も、製版所の方がやってくださっています。そういった原稿を仕上げた後の過程も見れておもしろかったですね。今、アナログメディアはデジタルに押されて肩身が狭くなっているようなところもあると思いますが、やっぱり紙の本じゃないとできないことって、沢山あると思う。僕の本の表紙も、採算度外視で特色を使って、鮮やかに刷って頂きました。その鮮やかさって、Webではなかなか伝わらない。そういうのも、紙の本の良さですよね。

左から『カメントツのルポ漫画地獄 』(小学館)、『カメントツの漫画ならず道』(小学館)

仮面の下の存在であり続けたい

——仕事をする上で大事にされていることは?

カメントツ:いつも編集者さんと読者、取材先の人、その3者を幸せにできたらいいなと思っています。まず優先するのは、読者さん。次が取材先、最後が編集さん。その順番で得してくれたらいいな、と。自分は最後です。ルポ漫画って、自分の漫画よりも取材先の人を引き立てたいので、自分のことなんか考えていたら描けないと思うんです。そうじゃなきゃ、何のために描いているかわからない。取材先の人を使って自己表現するなんて、最悪じゃないですか。やっぱり自分は仮面の下の存在というか、影の存在であり続けたいな、と。その精神もデザイナー時代に学んだことかもしれないですね。クライアントの良き出力機であれ、みたいな。漫画の場合、その精神に加えて読み手のことを想像しながら描く「余白」みたいなものも必要だと思うんですけれど。

——「余白」?

カメントツ:やっぱりどこかに自分の視点を入れないと、漫画にならないんですよね。ルポ漫画家として到達したいところは、皆が知りたがっていて、まだ誰もとり上げていないようなことを、おもしろいテイストで描けたら、と。たとえば宇宙とか、大統領とか。だって、大統領が昼飯に何を食べているかとか、気になるじゃないですか。100年後に僕の漫画を読んだ人が「この時代の人ってこんな感覚で生きていたんだ」とか思ってもらえたらいいですね。僕たちが昔の和歌を読んで昔の人の感覚を知るみたいに。せっかく今の時代に生きているんだから、今しか描けないものを残したいと思うんです。そういう漫画が描けたら最高ですね。

個人のクリエイターとしてどう生き抜くか

——これからのクリエイターに必要なのはどんなことだと思いますか?

カメントツ:今はいつAIや海外の企業やクリエイターに仕事を奪われてもおかしくない時代なので、副業をもっておくといいんじゃないかなと思います。僕も手広くやっていきたいと思っているので、コラムを書いたりしています。もちろん漫画は大好きな仕事だし愛着もあるんですけれど「来年から漫画を自動生成するサービスが始まります」となったら、漫画家の半分ぐらいは死んでしまいますから。僕たちの世代って一つの企業に一生骨をうずめるなんて考えたこともないし、何事も永遠だと思えない世代なんですよ。漫画家志望者の人にも、一生懸命やってきたことがある日ポンと奪われてしまうかもしれないから気をつけた方がいいよ、みたいな話はよくしています。

——漫画志望者の方に向けて、イベントも開催されていますね。

カメントツ:Web漫画やWeb上のコンテンツって最近生まれたものなので、皆方法論がわからず、やみくもに作っているようなところがあると思うんです。その辺の話を共有できる場を作りたいと思って、個人で作品を発表しているクリエイターから話を聴く「クリエイターズ・アスク」というイベントを始めました。今売れている人や、売れ始めたばかりの方に登壇していただいて。王貞治みたいな人にホームランの打ち方を聞いても「思い切りボールを打てばいい」みたいな答えが返ってきちゃうだけなので。一番嬉しかったのは、クリエイターズ・アスクで出会って付き合い始めた人がいたことです。今のところプロのクリエイターになれたという話は聞かないんですけれど、カップルはできました(笑)。

ーー最後に、座右の銘を教えてください。

カメントツ:「やってみたらできた」ですかね。何事もやらないと始まらないし、案外できるもんだな、という。二の足を踏んでいる時間って本当に無駄なので、とりあえず気になる場所に行ってみるとか、人に会ってみるとか、何でも「やってみる」のが一番じゃないかと思います。

カメントツ

https://www.kamentotu.com/
https://twitter.com/Computerozi

1986年生まれ、愛知県出身。名古屋造形芸術短期大学(現・名古屋造形芸術大学)卒業。2015年よりWebメディア「オモコロ」にて執筆開始。漫画家として活動を始める。Webメディア「オモコロ」「ジモコロ」、月刊少年漫画誌「ゲッサン」、Web漫画「リイドカフェ」等にて執筆中。著作に『カメントツの漫画ならず道』(小学館)『カメントツのルポ漫画地獄 』(小学館)。

◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

POSTED ON 2017.08.24