#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.26 看板屋/グラフィックデザイナー 廣田碧さん

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photo: Taio Konishi Photography

Illustratorと私」制作作品

Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第26回に登場いただくのは、看板屋「看太郎」/グラフィックデザイナーの廣田碧さん。ブランドやイベントなどのグラフィックデザインを手がけるほか、手書きのレタリングやグラフィックを看板や電飾サイン、のれんなどといったさまざまなメディアに落とし込み、空間をデザインすることにも挑戦されています。廣田さんとIllustratorの関係とは?

看板屋の次女が「看太郎」を始めるまで

——廣田さんは大阪府堺市にあるご実家の看板屋「看太郎」に在籍し、看板屋として、グラフィックデザイナーとして、さまざまなメディアを手がけられています。どんなきっかけで今のお仕事をするようになったのですか?

廣田:子供の頃から、実家の仕事場が遊び場だったんです。よく、父が看板を描いている横で遊んでいました。それで自然と絵を描くようになって美術系の高校に進み、美術大学でグラフィックデザインを専攻しました。卒業後は写真に興味を持った時期もあったんですけれど、ご縁があってデザイン会社に入り、その後独立しました。

——それから看板を主軸とした活動を始められたんですね。なぜ「看板」だったのでしょうか?

廣田:デザイン会社ではデザインだけを担うことが多かったんですけれど、看板屋さんは、デザイン、制作、取り付けまでがひとつの仕事なんですよ。そういう仕事を見てきたせいか、一般的なデザイナーの仕事のように、“データを作って入稿までが仕事”というやり方がしっくりこなかったんです。それで看板なら手書きやデジタルサイネージ、インクジェットプリント、カッティングシートなど、いろんなメディアで自由に表現できるし、デザインの段階から現場まで、一貫性のある仕事ができて楽しいかなと思ったんです。それで看板屋兼グラフィックデザイナーとしてやっていくことにしました。

銭湯イベント「Get湯!vol.3」フライヤー(イラストレーション:南田真吾)

——現在は、現場作業もご自身でやっているのでしょうか?

廣田:自分がデザインを手がけたものは、極力取り付けまでやるようにしています。看板を描く時は原寸原稿とペンキだけ持って「おはようございまーす」と言って描きにいっていますよ(笑)。

——かっこいいですね!

廣田:分業によってそれぞれの専門性が高まり、スキルが上がっていくというのはすごく良いことだと思うし、そういうやり方に批判的な立場をとりたいわけではないんです。ただ、きっぱり分業してしまうと業種間の理解がはぶかれてしまうリスクもあるんじゃないかな、と。業種やアート、デザイン、広告など、今分断されているいろんなものを看板で絶妙に曖昧にしていけたら面白いなあと思っているんです。

ストリートアートと広告の間

——看板でアート、デザイン、広告の境を曖昧にしていくという考え方はユニークですね。

廣田:高校生の時からストリートアートが大好きで、大学へ入ったのも、ニューヨークのクーパーユニオン大学へ短期留学できるからという理由でした。どうしても本物のストリートアートを見たくて。実際に行ったら、私が憧れていたようなストリートアートは思ったほど残っていなくて、かなり落ち込んだんですけれど。その時一番印象に残ったのは、ビルの壁一面に描かれた綺麗な女の人の壁画でした。それをいいなぁと思ってみていたら、下の方に小さく“Marc Jacobs”と書かれていて「やばい。これ、広告や」と衝撃を受けて。その頃ぐらいから自分の中に“ストリートアートと広告の違いって何なんだ?”という疑問が生まれて、その二つのはざまにあるものを探ることが私のテーマのひとつになっています。大学の時はグラフィックデザイナーの三重野龍君、イラストレーターの岡村優太君と「uwn!(うわん)」というペイントユニットを組んでライブペインティングをしたりもしていました。

時代とともに変化する看板屋の仕事

「中華そばそのだ」(広島県福山市)©岡本雄大 / ©Yudai Okamoto

——普段使われているツールを教えてください。

廣田:アナログは鉛筆と水性ペンキを使うことが多いです。デジタルはIllustrator、PhotoshopInDesignCapture CC。Illustratorは、父が使っていたので10歳ぐらいから遊び感覚で覚えていきました。大学の授業でも習いましたが、展示のDMを作ったり、アルバイト先のお花屋さんのカタログを作ったり、実践で身につけたところが大きいです。

——魅力的な手書き看板も作られています。特に、書き文字にはデジタルフォントにはない魅力がありますね。

廣田:ひたすら町で見つけた看板の文字を採取して、それを参考にして練習しています。今、楷書体を書く練習をしているのですが、師匠がいない状態なんですよ。昔は「商業書家」や「字書きさん」と言って書き看板を書く看板屋さんがたくさんいたのですが、今は技術の移り変わりとともにグラフィックデータを作って看板に貼ることがほとんどなので、文字を描く人が貴重な存在になっているんですよ。労働組合に楷書体を書ける方がいるんですが、その方も70歳を超える方です。

©岡本雄大 / ©Yudai Okamoto
看板からメニューの文字までを手がけた「中華そばそのだ」(広島県福山市)「手書き看板をオーダーして下さるお店の料理は、今のところ全部美味しいです。なので“看板の文字がいいお店は美味しい”というのが持論なんです(笑)」(廣田さん)©岡本雄大 / ©Yudai Okamoto

——看板屋さんの仕事も進化しているんですね。

廣田:そうですね。今はグラフィックデータをカッティングシートかインクジェットプリントで出力し、貼っているところがほとんどです。その方が人件費も手間もかからないし、安く済むので。なので、私が「書き看板をやりたい」というと、父は「炎天下で何時間も文字を書くなんてしんどいから、もう貼ったらええやん。そっちの方が仕上がりも綺麗やでー」といいます。その気持ちもわかるし、便利な技術は適材適所で利用していけばいいと思うんですけれど、それでも書き文字の技術が途絶えてしまうのは、もったいないことですよね。手書き看板には、看板屋さんの知恵やノウハウが詰まっているんです。

——廣田さんの手書き文字の看板やのれんが人気を集め、いろんなお店のアイコンになっているようです。どのように書かれているんですか?

廣田:たとえば、楷書書き(筆文字)の場合は、実際の看板の比率に合わせてIllustratorで大まかに文字をレイアウトし、ガイドをふります。その後それを紙にプリントアウトし、ひたすら納得がいくまで筆で文字を書いていきます。ここはもう、猛烈にアナログ作業です(笑)。

——大きなサイズの文字を書く時はどうされているんですか?

廣田:大きいものを作る時は、筆で書いた文字をIllustratorに取り込んで実際の看板のサイズに合わせたデータを起こします。それをプロッターでロール紙に出力して、原寸原稿を作成します。レイアウトの調整だけでなく、大きいサイズの看板を扱う際には、簡単にスケールできるデジタルデータが欠かせません。

看板の新しいかたち「超看板」

「超看板」展示風景(2017年3月 大阪・ミミヤマミシンにて)©高嶋清俊 / ©Kiyotoshi Takashima

——廣田さんは新しい発想で看板を作られています。どうやって今のようなスタンスで仕事を受けられるようになったのですか?

廣田:「手書きで看板を書いています」といっても誰もピンとこないと思い、2017年3月に「超看板」という展覧会をしたんです。作家の曽田朋子さん(ミミヤマミシン)や建築家の安川雄基君、デザイナーの加藤正基君と一緒にいろんな看板を作りました。この展覧会をしてから看板屋さんと認知してもらえたみたいで、もの凄い仕事が来ました(笑)。

アルファベットAの構造をそのまま自立看板にしたA看板のプロトタイプ。(3種は同じフォントのウェイト違い)©高嶋清俊 / ©Kiyotoshi Takashima
写真家の志鎌康平さんが撮影した山形県の御釜の風景を、父の書いていたペンキ絵の技法で描き上げた作品。廣田さんが子供の頃に見ていたお父さんの仕事の中にも、こんな看板がたくさんあった。©高嶋清俊 / ©Kiyotoshi Takashima

看板でもっと街をおもしろくしたい

——「看板」を主軸に活動されているのは、やはり看板というメディアに思い入れがあるからでしょうか?

廣田:昔父が手で看板を描いていた頃の仕事が凄く好きで、当時の影響は大きいと思います。後は、今の時代は消費のサイクルが早すぎるので、看板のように長く見て貰えるものを作っていきたいという気持ちもありますね。私の他にも素晴らしいグラフィックデザイナーがたくさんいるので、そういう人たちのクリエーションを看板のようなもので街に落としていけたら、もっと街におもしろいものが増えるんじゃないかなと思います。

ネオン管を内蔵した「創作バル 熊野亭」(大阪京橋)の看板。Illustratorで図面を引き、ネオン、アクリルボックス、アクリル切り文字は協力会社に依頼して制作した。

——今回制作いただいた「Illustratorと私」はどのように制作されましたか?

廣田:これまで手がけた作品から採ったいろんな文字をCapture CCで撮影し、ベクター画像に変換してパスデータを作成し、Illustratorでレイアウトしました。Capture CCは文字の採取に便利なのでよく使っています。

——いつか手がけたいお仕事は?

廣田:水族館や動物園のグラフィックを丸ごと手がけてみたいですね。看板とか、イラストレーションも含むインフォメーショングラフィックとか。商店街を丸ごとなどもいいですね!文字やグラフィックを動かしたり、モーションの分野もチャレンジして、デジタルの看板も今後つくってみたいです。

——最後に、座右の銘を教えてください。

廣田:「よく噛む」。

廣田碧(ひろた・みどり)
https://kantaro-signs.tumblr.com/
https://www.instagram.com/kantaro_signs/

看板屋「看太郎」/グラフィックデザイナー
デザイン事務所でグラフィックデザイナーとして活動後、看板屋へと転身。看板の制作を主軸に、ブランドやイベント・展示などのロゴ・ツールのデザインを行う。手書きのレタリングやドローイング、グラフィックといった平面のデザインを電飾や看板などさまざまな素材・媒体を用いた空間のデザインへと展開している。

◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。

POSTED ON 2017.09.14

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