自然風景の中で出会う色の中でも補正が難しいのが、マゼンタとイエローの2色。鮮やかにすると色が飽和して質感が失せやすいなど、何かと厄介なのです。今回は、小雨の夕方に撮影した睡蓮を作例に、雨降りの冷たい雰囲気を出しつつ、花びらを鮮やかな発色に見せるレタッチを行います。解説は、レタッチャー/ライターの桐生彩希さん。「Shuffle by COMMERCIAL PHOTO」に掲載した内容から抜粋してお届けします。




1、「Camera Rawフィルター」の準備をする
(1)「背景」をスマートオブジェクト化する
「背景」レイヤーを選択し、スマートオブジェクト化する。「背景」が「レイヤー0」になる。
(2)「Camera Rawフィルター」を表示する
「レイヤー0」を選択したら、「フィルター」→「Camera Rawフィルター」を選択。これで、「Camera Rawフィルター」画面が表示される。
2、「Camera Rawフィルター」でベースとなる色調に補正
(1)露出を補正する
「露光量」スライダーを左に移動して暗く補正。明暗を補正するわけではないので、花びらのシャドウ部や背後の葉の緑の濃度が増した程度でOK。
(2)葉のグリーンを基準に色を補正する
全体の色が偏っている状態なので、「色温度」スライダーでこれを補正。目安にしているのは背後の緑の色調。植物の場合は、グリーンを基準に色温度を調整するのが自然な色彩に仕上げるポイントとなる。
3、マゼンタとグリーンを作り込む
(1)「HSL/グレースケール」パネルでマゼンタの色を決める
「Camera Rawフィルター」で色を作り込む機能が「HSL/グレースケール」パネル。マゼンタの色から調整していく。使う機能は「色相」タブの「マゼンタ」や「パープル」「レッド」などの花の色に関連したスライダー。作例は「マゼンタ」スライダーがもっとも反応がよかったので、「マゼンタ」スライダーを左に移動してレッドからマゼンタに色を近付ける。
(2)グリーンの色を決める
「HSL/グレースケール」パネルを上手に使うコツが、先に2つの色を決めてから、残りのスライダーを「滑らかに連動するようにつなげる」こと。NGな調整例は隣り合ったスライダーを大きく左右に振ってしまう補正で、これを行うと色の境界付近でトーンジャンプなどが生じてしまう。作例は、2色目の色としてグリーンを調整。スライダーを右に移動してグリーンに少し深みを出す。気休め程度の色の変化だが、「Camera Rawフィルター」で少しでも色を作り込んでおく(補正する色の成分を増やしておく)と、後の補正(特定色域の選択)で色がコントロールしやすくなる。
(3)残りのスライダーを調整する
移動した2色のスライダーの位置を山の頂点と考え、滑らかな波型でつながるように残りのスライダーの位置を移動する。「HSL/グレースケール」の各スライダーは、1本だけ大きく移動すると色のつながりが途切れてトーンジャンプや階調の崩れが生じやすいため、隣接するスライダーの位置を近付けてこれを防止する。
4、水滴の存在感を出す
(1)「明瞭度」スライダーを調整する
「基本補正」パネルにある「明瞭度」機能を使うと効果的。スライダーを右に移動すると細部のコントラストが強くなり、立体感が増して見える。調整できたら「OK」ボタンをクリックして確定する。
5、「特定色域の選択」で色を補正する
(1)「特定色域の選択」を選択する
「Camera Rawフィルター」で色の成分を作り込んだら、次は「特定色域の選択」でその色を引き出していく。調整レイヤーの「特定色域の選択」を選択。補正の画面が表示されたら、下部の設定を「絶対値」にしておく。
(2)「マゼンタ系」を調整する
補正したい花びらの色がマゼンタに近いので、「カラー」から「マゼンタ系」を選択。まずは「マゼンタ」スライダーを右に移動して、マゼンタの色を増加してみる。




(3)マゼンタの色を追い込む
「カラー」は「マゼンタ系」を選択したままの状態で、その他のスライダーを移動してマゼンタの発色を調整。作例は、「シアン」と「ブルー」の要素を増加して冷たさを出している。ちなみに、ブルーの要素を多くするときは「イエロー」スライダーをマイナス方向に移動(イエローが減少すると、相対的に補色のブルーが増加する)すればOK。




(4)「グリーン系」を調整する
次に補正するのは、葉のグリーン。「カラー」から補正の対象となる「グリーン系」を選択。グリーンに深みを出すときは「シアン」と「イエロー」を増加すればよいので、まずはこの2つのスライダーを右に移動して色を調整。作例はこの補正だけでは深い色が出なかったので、「ブラック」スライダーを右に移動して色の濃さを出している。




6、「トーンカーブ」で色を補正する
(1)「トーンカーブ」を選択する
「Camera Rawフィルター」、「特定色域の選択」と複数の補正機能で色を調整したので、仕上げに調整レイヤーの「トーンカーブ」で露出を整える。
(2)ハイライトを強めて透明感を出す
「トーンカーブ」画面に表示されているヒストグラムを見ると、山型のグラフの右端に開きがある状態。つまり、写真内に「白」が存在していないということなので、△スライダーを左に移動して白さと透明感を出す。




(3)明暗を仕上げる
「トーンカーブ」の線グラフの右上と左下をクリックして2つのポイントを作成。右上のポイントを上下に移動するとハイライトの明暗、左下でシャドウの明暗が補正できる。作例はハイライトを補正する必要がなかったので、シャドウのポイントだけ下に移動。ハイライトを変化させずにシャドウを暗く引き締めて、コントラストを強めつつ色を濃くする。




7、「自然な彩度」で色を落ち着かせる
(1)「自然な彩度」を選択する
「トーンカーブ」までで作業を終わらせてもよいが、暗めにコントラストをアップすると鮮やかさも強調されるので、調整レイヤーの「自然な彩度」を使って、自然な色に落ち着かせる補正を施す。
(2)発色のよさを抑える
「自然な彩度」スライダーを左に移動して、鮮やか過ぎる色を抑えて自然な発色に補正。彩度を下げる補正はあまり行わないかもしれないが、少しだけ鮮やかさを抑えた色調は、しっとりとした日本の風景にもマッチする。










さらに詳しい解説は、Shuffle by COMMERCIAL PHOTO で連載中の「風景&ネイチャー レタッチの教科書」(解説・写真:桐生彩希)に掲載されています。サンプルファイルもダウンロードできますので、ぜひ挑戦してみてください!